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39 代表最終戦 芹澤アツシ VS 氷川タケシ

『『 代表選、最終戦を始めます。選手は闘技場に入場してください 』』


 先ほどから、会場アナウンスが選手入場を促していた。

 でも…


『『 代表選、最終戦を始めます。帝変高校の選手は闘技場に入場してください 』』


 鷹聖学園の氷川君がその場に姿を見せ、開始位置についても…

 肝心の、芹澤君は姿を見せなかった。


『『 選手は闘技場に入場してください 帝変高校「芹澤アツシ」選手、いませんか? 』』


 いつまでたっても現れない帝変高校の選手に、会場が騒然となる。

 私は祈るような気持ちで、天を仰いだ。

 お父さん、一体なにを……しているの?

 あなたたちが来なければ……帝変高校(うち)の廃校は決まってしまう。

 そうなってしまえば……生徒たちを……いえ、職員たちをも………

 この時代に未だ残る様々な害意から護る重要な防波堤(・・・)がひとつ崩れてしまう。


『『 居なければ失格とみなし、鷹聖学園の不戦勝と… 』』


 そうして、悪夢のようなアナウンスの音声が鳴り響き始め………


「俺ッ!!!!!! いまあああああああああああああああすッ!!!!!!! 俺ッ!!!! ここにいまああああああああああああああすッ!!!!!!」


 待ち望んでいた人物……彼、芹澤君の声がした。

 しかしその声は、何故か闘技場の真上(・・)から響いて来たのだった。

 そして彼は何故かお父さんにお姫様抱っこ(・・・・・・)された格好で闘技場に舞い降り……

 フラフラとした足取りでおぼつかなくそこに立ったのであった。




 ◇◇◇




『『 それでは、帝変高校の芹澤選手は開始位置についてください 』』


 俺はゴリラにお姫様抱っこされて、ここ、闘技場に降り立った。

 ギリギリ間に合ったことは間に合ったらしいが……


 なにこの羞恥プレイ。

 観衆からの視線が痛い。

 会場みんなドン引きだよな???

 ゴリラは俺を置いて、さっさと観客席にすっ飛んで行った。

 あの野郎……大体アンタのせいだからな?


 まあいい。今は呼吸だ。

 とにかく息を、コンディションを整えろ。


 今、とんでもなく気持ちが悪い。頭も痛い。

 あの野郎(ゴリラ)、急げとは言ったけど、まさか生身で遊覧飛行するとは思わないじゃん?

 途中、なんか戦闘機みたいなの追い越した気がするけど……

 あっという間すぎてよく分からなかった。

 謎原理で風圧とか感じなかったのだけが救いだ。


 しかしマジで頭痛いし吐き気がする。時差ボケ?

 違うな。酸欠とか、乗り物(ゴリラ)酔いとか、急加速での内臓圧迫とか、色々……とにかく色々だ。


 体調がヤバいなんてもんじゃない。

 このまま試合?勘弁してよ………


「相手は「レベル4」!!!氷川君よ!!ここまでみんなが頑張ってッ!!この勝負で帝変高校の未来が決まるわ!!!」


 観客席のどこかからメリア先生の声がする。

 マジで?俺の試合で全部決まる?


 いきなりそんなこと言われても……いや。

 俺だって勝つために色々理不尽な特訓に耐えてきたんだ。

 男なら、まあそれぐらい、背負ってやっても………


 ………ん?


 今、「レベル4」って言った?

 聞き間違いか?

 確かにそう聞いた気がするが…いや、まさかね?


 だって……これ、高校一年生の試合だよ?


『『 今回は「超越レベル4」氷川選手の出場です。主催者判断により、本試合では安全確保のため、会場には特殊防護壁が展開されます。ご了承ください。 』』


 え?なにそれ?防護壁?

 見ると、闘技場の端の方から半透明の分厚い壁が立ち上がり、グイイイイン…という音を立てながらせり上がっていく。


 どうなってんの?これ?

 安全って…選手のためじゃないよね?


 俺は四方に立ち上がる半透明なブ厚い壁を眺めながら立ち尽くし………しばらくすると、そのせり出す壁は20メートルほどの高さで停止した。


 見回してもどこにも出入り口はない。完全に、逃げ場がなくなっている。

 これはまるで……見世物小屋の檻か……処刑場だ。


 俺がそう思った時…


『『 それでは、代表戦…最終試合、試合(バトル)開始(スタート)!!! 』』


 無情にも、試合開始の合図が告げられた。


 ……急ぎすぎじゃないですかねえ?

 地球の裏側からはるばるやって来た旅人に、もうちょっと優しくしてくれると嬉しいんですけどねえ???


 俺は思考を切り替え、対戦相手を観察する。

 小柄な、髪を綺麗に整えた…見た目おぼっちゃまな男子生徒がそこには佇んでいた。


 あれが「超越レベル4」?

 見れば、周囲に冷気か何か知らないが、キラキラとした靄が漂っている。

 あれが強者のオーラかなんかか……


 そうか、あれが俺の相手か………レベル4、ね………

 ……

 待て待て。

 無理無理無理。

 勝てっこないって。

 絶対、無理。


 俺がいくら1週間ほどゴリラの無茶振りに耐える苦行をしたからと言って、俺は元々が、「レベル1」。

 いくらメリア先生が故意に過小評価したからと言って……俺の実力自体がそんなに変わるわけではない。


 レベル4?核兵器単発級だろ?

 そんな人外野郎に俺が勝てる道理があろうか。


 そう考えている間に、奴は周囲にかなり大きめ…直径4、5メートルぐらいの氷塊を幾つも作り出し…

 上空に向かってどんどん投げ始めた。

 それはちょうど、俺に向かって到達するコースだ。

 巨大な氷塊が俺にに向かって次々と飛んでくる。

 さながら、氷の大岩の雨あられ。


 だが…

 あのゴリラを目にしすぎて、感覚が麻痺してるのか?

 あの雨あられのように降ってくる氷塊がスローモーションのようにしか見えない。

 ゴリラが特訓と称して1メートル級の大岩の雨を降らせた時は、落下速度はもっと速かったぞ?


 ………

 …さては、あのゴリラ…『加速』してやがったな!?

 マジで殺す気か!!!

 それで1メートル級の岩を降らせて「よけろ」とかどんな拷問だよ!!!

 剣道教室の(せんせい)が可愛く見えるぐらいの外道っぷりだよ!!!!

 まあ、おかげで…


 俺はその氷塊を難なく躱す。というか、躱すまでもない。

 5メートルぐらいの、デカ目の氷塊が俺の頭上に落下してくると俺はタイミングよく手のひらを当てて


熱化(ヒートアップ)。」


 瞬時に温めた。

 すると


 バガアアアアアアアアア…ン!!!!!!!


 巨大な氷塊が爆散する。

 氷なんて岩と比べたら沸点は低いし、楽なもんだ。

 要は電子レンジで卵が爆発(ボン)するようなイメージでやれば、なんてことはない。

 大きなものでも結構簡単に、ぶっ壊せる。

 まあ、それに気がつくまでに、何度か死にかけたけど。


 ………………あのゴリラ、マジ……許さん。


 俺が奴への復讐の炎に燃えていると…


「『氷飛翔(アイスフライ)』。」


 俺の対戦相手の氷川君は…背後に氷の粒を撒き散らしながらこちらに向かってすごい勢いで突進してくる。


 飛べるの?君?

 そうか、やっぱアンタも人外か。

 プロ級選手が投げる豪速球かってぐらいの速度であっという間に距離を詰めてくる。

 本当にすごいスピードだ。


 まああくまで普通の人間(・・・・・)から見れば。

 俺はやはり、この1週間の監禁生活の中で何かが大きく麻痺してしまったらしい。

 このものすごいスピードで向かってくる氷川君が、やっぱりスローモションに見えて仕方がない。


 それもこれも、あの人外中の人外……いや、元々人じゃなかったわ。ゴリラだったわ。

 奴の異常とも言える速さの動き………それでも奴はゆっくりめに動いてるとは言ってたが………その中で「俺の時計が何時何分になってるか当てろ」だあ??? 頭おかしいんじゃないかという無理難題をふられ続け、ついでに空中で奴がぴょんぴょんぴょんぴょん高速で飛び跳ねるというイレギュラーな動きを夢に見るまでに見せつけられ続けた。他にも色々と……ああ、なにこれすごい。思い出すだけでも殺意がふつふつと湧いてくるわぁ……


 あの苦悩の日々。苦行としか思えない、俺の貴重な青春の圧倒的浪費。そういう多大な犠牲を払いはしたが……

 俺は今、反撃を考えるだけの余裕があったりする。


「『点火(イグニッション)』ッ!!!」


 そうして、俺は背後の空気を瞬間的にあたため(・・・・)、爆発させて推進力に変える。

 あの校長(ゴリラ)には遠く及ばないが、多少の加速と移動スピードが得られる。


「!?」


 俺が向かってくるとは思わなかったのか、氷川君の動きが一瞬硬直する。

 ああ、ダメダメ。こんなことでビビってたら、君、ゴリラに速攻で殺されるよ?


 だが…


「『氷鎧衣(アイスアーマー)』。」


 油断したのは俺の方だった。一瞬で奴は体全体を氷の鎧で覆い……右手には鋭い氷の刃……いや、氷の剣を持っている。

 なにそれ……ちょっとかっこいい。

 俺がそんなことを考えていると…当然、奴はその手に持った剣で斬りかかって来た。

 危ないよ?君。刃物持って振り回しちゃ…


 そうして、俺はその剣筋を見極め(・・・・・・)、躱す。


 甘い甘い。そんな打ち込みじゃあうちの近所の剣道教室の先生(アークデーモン)に三刀は打ち返されてるぜ?

 俺は氷川君の脇をするりと抜け、すれ違いざまに氷の剣と鎧に手を当て………


熱化(ヒートアップ)ッ!!!」


 思い切り温めた。


 ボガアアアン!!!!!!!!

 当然、唐突に過度な熱量を与えられた氷はあっという間に気化し、水蒸気爆発を起こす。

 氷川君は剣と鎧の残骸をばら撒きながら、吹っ飛んでいく。


 …おお…

 結構飛んだな……


 やりすぎた……?

 死んでないよね……???




 ◇◇◇




 〜 観客席 〜


「なんだ?なんだよアイツ…………」


「なあ、確かあの帝変高校の奴って…レベル1だったよな?」

「ああ。何でレベル4の氷川タケルと互角以上にやりあってるんだよ……」


「いや、実際……氷川君が本気出したら、この会場全体がヤバいじゃん?」

「まあ高レベル異能者にはそういう全力でやれない縛りがあるとも言えるけどさ……幾ら何でも……相手のレベル1評価がおかしくね?」


「ああ……どう見ても<無能>じゃないだろ……ものすごい勢いの攻防した上で氷川君が吹っ飛んでったぞ」

「序盤でもあの巨大な氷塊を冷静に避けながら、何事もないかのようにぶっ壊してたしな」

「さっきの霧島三姉妹の三女といい……どうなってるんだ?帝変高校のレベル1は……」


「まあ、若い異能者のレベル評価は結構暫定的で変動あるもんだからな………案外、当てにならないのかも………」

「でもそれを元に私立高校は入学の選別したりしてるんだろ?」

「ああ……その選別で漏れてあぶれた奴らがいくのが、結局、帝変高校みたいなFランク高校なんだけどな」

「……たまたま、か?……こんなことあるのか?」

「…………実際に見たことを信じるしかねえだろ、とりあえず…………」




続きます。


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