38 代表戦2 霧島カナメ VS 金剛ミナエ
4/24 あとがきに人物ファイル035「金剛ミナエ」を追記しました。
『『 では、代表戦……第二試合の選手は開始位置についてください! 』』
コロシアム内に登場を告げるアナウンスが響く。
それに従い、私は闘技場に足を踏み入れ……たった一人で、広いフィールドに向かって歩いていく。
『『 帝変高校「霧島カナメ選手」 対 鷹聖学園「金剛ミナエ選手」の試合を始めます…… 』』
先ほどの試合は、今思い返しても……とんでもない戦いだった。
開始直後から、この広い会場全体を火炎が覆い尽くし、火球による爆撃の嵐。さらには真っ黒な人影の化物の出現。狂ったように触手が地を砕き、暴走トラックのような速度で赤井君に迫り……それすらも駆け引きの一部だった。それによって付け入る隙を作り出し、相手の鷹聖学園の生徒は勝利した。チームの頼みの綱だった赤井君は負けてしまった。
あれが……レベル3の異能者の戦い。
万年評定「レベル1」でしかない私が、そこに参加しようとしている。
そう思うと、開始位置に近づくにつれ、身体が小刻みに震え……試合用のブレードを持つ私の手がカタカタと震えているのがわかる。心臓の鼓動が早まり、口の中が乾燥していくのがわかる。
そして気づけば、私は開始位置に立っていた。
『『 では、第二試合……代表選、試合、開始!!! 』』
アナウンスにより、試合が始まる。
その瞬間、相手高校の代表、金剛ミナエが異能の力で粉塵を巻き上げながらこちらに猛スピードで突進して来るのが見えた。
速い。私の立ち位置にとだり着くまで、あと5秒。
結局、あの人はまだ来ない。
それでもあの人は必ず、来る。来るはずだ。
最後の試合で戦うために。
でも…………
もし私がここで負けたら、彼の到着自体が無意味になってしまう。
だから私は、あの人に繋ぐために
「……絶対に勝たなきゃいけない……」
「『水晶扇』ッ!!!!」
金剛ミナエが至近距離まで迫り、攻撃を仕掛けて来る。
水晶。つまりケイ素。彼女の能力は『【鉱物を操る者】』。
今、土中にあるケイ素成分を使って攻撃しているということだろう。
地面から半透明の鋭い石柱が扇状に立ち上がり、私の体を突き破る勢いで迫って来る。
「『桜花 円盾』。」
私はそれに対応する為に小さな刃を無数に生み出し、細かなウロコ状の即席の盾を作り出す。
ガガガガガガガガッ!!!!!!!!
水晶の塊と微細な刃が衝突し、あっという間に盾は砕かれるが、私はその際の衝撃を利用して後方に飛び退いて水晶の群れを回避する。
「それで逃れたつもりかいッ!?『水晶壁』ッ!!!!」
それを追うように、彼女は私の後ろに水晶の壁を立ち上げようとする。囲んで逃げ場をなくそうということだろう。私はその場に立ち止まらず、即座に右方向へと走る。だが…
「『水晶弾』ッ!!!!」
私のその動きに相手は即座に対応し、先ほど地面から生やした水晶の塊を拳大の飛礫として発射して来る。
「『桜花 小盾』。」
そこで私は小さな刃をまたウロコ状に並べ、飛んで来る水晶弾を流れに逆らわずに、いなす。向かう先を逸らされた無数の弾丸が背後の水晶壁に激しく当たって弾ける音がした。
「躱すのはなかなか上手いじゃないか、お嬢さま? だが……」
彼女はそう言うと、両の腕を左右に伸ばし…
「もう、囲まれてるのには気がついてるかァ!? 『水晶弾』ッ!!!!」
私の周囲全方向から「水晶弾」が高速で飛来する。もう、回避は間に合わない。ならば…
「『桜花 千の刃』。」
私は私を取り囲む全方位に刃の嵐を生み出し、その空間密度を瞬時に高め、私を中心に高速で回転する刃の渦を作り出す。
その刃の渦は飛来する水晶の塊の群れを瞬時に砕き、周囲に弾き返した。
「おいおい…それで「レベル1」?レベル詐欺も甚だしいよ?それ。普通じゃそんなの、有りえない。それもアンタのお父様とやらがやってくれたのかい………?」
私だって……ほんの、2週間前まで自分がこんなことをできるなんて思ってもいなかった。想像もできなかった。
それまでの私はずっと、ただ焦っていた。
なぜ私だけ、優秀な姉さんたちと違うんだろう。姉妹だというのに、なぜ同じことができないんだろう。彼女らと同じ血で、なぜこんな無能が生まれてきたのだろう。
私は姉たちの…そして大きな父の背中を追いかけ、追いつこうと必死だった。そして、追いつけなくて苛立ち、焦った結果……彼に、とんでもない迷惑をかけてしまった。
でも、そんな私に別に追わなくていいんだと…他にできることがあるんだと、彼はそう言ってくれた。
そして、そのほんの些細なことがきっかけで、想像できるようになってしまった。自分が、いろんなことが出来るんだということが。
そうして一旦想像ができるようになると。
「ごめんね。今日の私、負ける気がしないんだ」
私の顔からは何故か自然と笑みがこぼれていた。
そうして、私は、今の私にできる最大限のことをする。
「『桜花乱刃』」
ありったけの…私の生み出せる最大数の小指の先ほどの小さな刃を…周囲に生み出し続けるという、技と呼べない強引な力技。
数え切れないほどに生み出されては消えていくそれは、瞬時に私の周りを球状に覆い尽くし……視界を塞ぎ、見えなくする。
球面を荒れ狂う高密度の刃の嵐となったそれを、私はだんだんと押し拡げ…
「『無尽ノ刃』」
一気にそれを、対戦相手に向かって収束させる。
瞬間、爆音がしたかと思うと……地面から生み出された水晶の壁が砕け散り、相手の生徒、金剛さんが闘技場の外まで吹き飛ばされていくのが見えた。
『『 試合、終了!!!代表選第2戦目は帝変高校、霧島カナメ選手の勝利ですッ!!! 』』
私は試合に勝った。勝つことができた。
これで、彼にちゃんと、バトンが渡せる。
私は少し、安堵した。
でも…
彼の、次の相手は「レベル4」氷川タケル。
それがどんな相手か、想像もできない。
それでも…彼がきてくれたら、なんとかなる。
なんとかしてくれる。
そんな気がする。
そう、彼は私なんかよりもずっと……何倍も強いのだから。
主人公「あれ?なんか寒気がする…?」
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人物ファイル035
NAME : 金剛ミナエ
CLASS : 【鉱物を操る者】S-LEVEL 3
鷹聖学園一年生の代表。髪を金髪に染めた短髪の女生徒。いつも赤いピアスをつけている。能力は鉱物を操る異能で、土中や建物、機械構造物など意のままにその構成物を取り出し、扱うことができる。そこにあるものを使って戦う環境依存の能力であり、状況によって大きく能力が上下する。屋外で戦うときは大抵、土にケイ素が大量に含まれている為(場所によって差はあるが)、固い水晶を形成し、用いることが多い。
本人はかなりの努力家で苦労人でもあるが、それを感じさせない恵まれた人間をやっかむ傾向があり、そのせいで結構敵を作っている。後輩には手厚い漢気を見せる姉御肌である。
<特技>
鉄刃 アイアンカッター
水晶扇 クウォーツファン
水晶弾 クウォーツバレット
水晶壁 クウォーツウォール
金剛盾 ダイヤモンドシールド
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やっと「彼」が帰ってきます
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