37 最愛の素体(ひと)
4/24 人物ファイル「桐生ヨウスケ(八葉リュウイチ)」を036番としました。
「鷹聖学園が3勝……2敗?これは何かの間違いではないのかね……?」
庭園と呼ばれる地下の施設でテレビ中継を眺めながら…白髪の老人が低い声で隣にいるスーツ姿の人物に問い掛けている。
その人物は額に汗をかきながら必死に弁明を試みようとする。
「か、会長。こ、これは…教員たちにとっても想定外のことでして……」
「想定外…?」
会長と呼ばれた老人は、その冷や汗が顎の下で滴りはじめた人物を鋭い目で睨みつける。
「想定外とはなんなのだ? 君達が……想定外に無能だったというだけの話だろう?」
「…………返す言葉もございません。」
設楽グループの会長……設楽応玄は椅子の脇に立て掛けた杖に手をやり、その把手を撫でながら言った。
「……まあいい。だが万が一………これ以上負けるというようなことがあったら、君も……クビだけでは済まされんぞ?」
そこに、能面のような青白い顔をした白衣の男が脇に紙束を抱えながら歩いてきた。
「会長。ここにいましたか。奴……狭間キョウヘイがまた誰か客を連れてきたようです。新たな仕入の件だとは思いますが……」
「ああ、桐生君かね。その件は任せるよ。良さそうな異能者が入ったら教えてくれ。」
設楽応玄はそう言いながら庭園に設置された大型のディスプレイを眺めている。
『『 では、代表戦……第二試合の選手は闘技場の開始位置についてください! 』』
テレビのディスプレイからは試合場のアナウンスの音声が流れる。
そこには現在開催中の『異能学校対校戦争』、帝変高校対鷹聖学園の中継が映し出されているようだった。
「……高校生のお遊戯ですか。会長もお好きですな。」
「桐生君。この際だ、君も観て行きたまえ。何か君の研究にも役立つものはあるだろう。」
設楽応玄はディスプレイを見つめながら自分の脇に置かれた椅子を指差し、そう誘い掛ける。
桐生と呼ばれた白衣を纏ったいかにも研究者風の男は、わずかに不快そうに顔を歪め…
「会長がそうおっしゃるのなら」
そう言って、つまらなそうに設楽の脇に座る。
『『 それでは、代表戦…第二試合を始めます!! 』』
ふたたび、ディスプレイからアナウンスの音声が流れる。
そして、桐生はふと画面に目をやり…
そこで彼にとって信じられないものを目にする。
それはあまりにも唐突。あまりにも偶然。
だが、それは彼にとっては必然の運命の邂逅だったかとすら思われ……
能面のように無表情だった彼の顔は………途端に強く歪んでいく。
「………ぁぁぁあああぁぁぁああああぁぁぁああああぁぁぁあああぁぁぁああああぁぁぁああああぁぁぁあああぁぁぁああああぁぁぁ………!!!」
呻き声ともつかぬ、怖気のある声を響かせながら……
……彼は嗤っていた。
それは喜色と呼ぶには余りに悍ましい引き攣った顔面。
グロテスクに歪んだ内面をそのまま映し取ったかのような、ひどく醜悪な笑み。
「…………かハッ……かハハッ…………かハッ…………」
「………どうした?桐生君………?」
周囲の人間が奇異の視線を向けることにも構わずに、彼はひたすらに嗤う。
傍目にはまるで狂った鬼が嗤っているように見える。
「………見つけたあああぁぁぁああああぁぁぁ………!!!」
その時、彼は心の底から嗤っていた。
これ以上のない幸運と宿命を感じていた。
この男……桐生が10年間ずっと探し求めていた「六号計画」の【番外個体】。
帝国陸軍時代、前の顔と名前だった時に主任を務めた研究プロジェクトの最終素体。
終戦時に無惨にも打ち切られてしまった……自身の異能研究の失われた最高成果。
それが、そこに映っていたのだから。
他のナンバリング素体とは違い、施術を命じられた際、何故かその素体の名前や出自と言った情報は彼に一切が知らされなかった。
さらに施術後には一切の接触を禁じられ……情報を得ようとしても機密事項としてその一切が削除されていた。
そして直後に終戦。唐突に研究が打ち切られ、莫大な国費をつぎ込んだ設備も破棄。
結果として………彼女が彼の最終作品となってしまった。しかも彼としてはその研究は全くの途上であった。
そのため、彼は帝国陸軍から失踪した後、記憶に残った彼女の面影や想定する年齢を頼りに………思いつく限り、ありとあらゆる場所を探した。ありとあらゆる資料を読み漁った。ありとあらゆる情報を得て、彼女を探し出そうとした。
にも関わらず、全く辿り着けなかった。
それでも、彼は彼女に辿り着きたかったのだ。
時が経ち、いくつもの研究を経るほどにその思いは嫌が応にも高まっていく。
今となってはもうどうしようもないぐらいに、恋い焦がれる。
今なら断言できるからだ。あれはとてつもない幸運がもたらした、奇跡の素体だったのだと。
どうしてあの時の自分はそれがわからなかったのだ。
彼女を早く、見つけてやらないといけない。
……彼女を本当の姿に導いてあげられるのは、自分しかいないのだから。
様々な想いが溢れ、桐生は目の前のディスプレイから目が離せない。
涙を流し嗤いながら、目を見開き、それを目に焼き付けようとする。
自分が探し求めて止まなかった………
ひと時も忘れたことなどなかった………
愛する素体の成長した姿。
それが、そこにいる。
今、目の前に映し出されているのだから。
「おい、桐生君。一体どういうことだね、急に大声を出したりして…」
設楽が咎めるように問いかけるが、桐生はその声に返事を返さない。
そして………彼は無言で席を立ち………外へと歩いていく。
自身のここでの研究成果を、全て持ち去るために。
すでに金も素体も十分に蓄えられた。
今が、それを動かす時だ。
そうして………設楽グループ異能開発研究所所長、桐生ヨウスケ………
本名「八葉リュウイチ」はその日いずこかへ失踪した。
人物ファイル036
NAME : 桐生ヨウスケ(八葉リュウイチ)
CLASS : 【不明】
元帝国陸軍、兵器開発局の研究者だった天才的な脳医学者。戦時中、「異能者増産第一号計画」、通称「一号計画」の主任研究者となり、その後「六号計画」までを担当したが、戦争が終わりプロジェクトは閉鎖。その直後に謎の失踪、消息不明となった。その後、顔を変えて偽名を名乗り設楽グループの設楽応玄をパトロンとし「異能開発研究所」の所長を務める。その際、低レベルの異能者増産・強化技術を提供した。素体収集の窓口ともなる鷹聖学園の原案も桐生(八葉)により提供された。
異能者増産計画の初期から携わっている超弩級の最高重要機密を抱えた人物であり、その失踪は政府、軍の相当な痛手となった。だが研究の内容が内容だけに決して公に指名手配するわけにもいかず、裏で血眼になって探してはいたものの見つけることは叶わなかった。また彼自身、異能発現のノウハウにより何らかの能力を所持しているとみられているが、それも明らかになっていない。何度も失踪を遂げたことに関わりがあると見られるがそれは推測でしかない。
中途半端に終わった「六号計画」の最終段階に強く執着しており、それが為されれば世の中は「神話の世界」に近づくはずだという強い妄想を持っている。それには莫大な予算と大がかりな設備、そして多量の素体が必要になるために準備に相当な時間を費やしていた。設楽応玄に近づいたのもその一環であるが、あくまで一時的なもので最終目標は別にある。
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