33 出場選手公開《プレビュー》
異能学校対校戦争の第一部、団体戦の四試合が終了し…絶望的な戦力差とみられていた帝変高校と鷹聖学園の対戦結果は、蓋を開けてみれば2対2の接戦となった。
成績だけ見れば、帝変高校としては上々。
そしてー
『『 第二部、代表選の選手紹介を行います。選手は闘技場に入場してください。 』』
コロシアム会場内全体に選手の集合を告げるアナウンスが鳴り響く。
第二部の「代表選」は試合開始前に、代表選手の簡単な紹介…「出場選手公開」が行われる。
これには、代表選手を企業スカウトの目に止まりやすくするリクルート支援的な意味合いもあるし、春・夏・秋という一連の『異能学校対校戦争』はスポンサーをつけた興行として開催している側面もあり、全国テレビ放送も行われている。
そういうわけで、この出場選手公開は「観客を楽しませる」という意味合いもある大会事務局としては結構重要なセレモニーなのだが…
「代表選手の芹澤くんが居ない!?? 連絡もつかない!?」
事務局職員室では大会開催責任者の男性が、声を荒げて帝変高校一年生チームの監督を代理で務める保健室教諭、玄野メリアに詰め寄っていた。
「ええ……どこに行っても連絡がつくように同行した校長には衛星電話を渡していたのですが、出発直後から繋がらないのです。……これは私のミスです。」
「大会の日にちと時間は!?伝わっているのでしょうね!?」
苛立つ大会事務局の男性はさらに声を荒げる。
「試合の時間は、何度も確認したのでちゃんと把握しているはず……それに彼はかなり頑丈な時計を持っていて、それは肌身離さず身につけているので…時間は見ているはずです」
そこに横から、別の事務局職員も話に割って入って来る。
「だが、まだ会場に来て居ないことを考えると……そもそもの日時や場所を勘違いしているとしか考えられないんじゃないですか?」
それを皮切りに他の事務局職員たちも口々に非難を始める。
「あるいは、何かトラブルに巻き込まれたりしたか……なんにせよ、出場選手公開欠席なんてありえないですよ。スポンサーになんて言えばいいのやら……」
「どうするんです?彼が来ないなどということになったら…帝変高校はもう、出場できる選手はいないのでしょう?団体戦の選手の二重出場は禁止されて居ますし…出場選手公開のこともありますが……試合自体が成り立ちませんよ。」
「それも、一番盛り上がるはずの最終試合ですよ?最悪…観客からチケットの返金を求められて大変な騒ぎになりますよ…?」
「本来の監督役の一年生の担任教師も二人揃って居なくなったというし……全く、帝変高校はこの試合をなんだと思っているのですか!?仮にも全国放送のなされる興行試合でもあるのですよ?」
「まったく……廃校というのも頷けるよ……」
一人の男性職員がそう口にすると、玄野メリアの眉がピクリと動く。
それを横目に事務局の責任者の男性が頭を掻きながら続ける。
「まあ、とにかく出場選手公開は芹澤くん無しで始めるしかないでしょう。もう、時間が押している。彼が到着しなかった時は…わかってるでしょうね?責任の一端は取ってもらわねばなりませんよ…?」
事務局責任者の男性の言葉に、玄野メリアは一切の姿勢を崩さずに言った。
「彼らは必ず来るはずです。来なければ、責任でもなんでも取りましょう。その代わり…当校に対する軽はずみな侮辱は謹んでもらえますか?…そこの方。」
玄野メリアは先ほど「廃校」と口にした男性に、銀縁の眼鏡の奥から底冷えするような鋭い視線を送る。
その言外の気迫に押され、その男性職員は座っていた事務椅子からずり落ちる。
「それに出場選手公開欠席は予定外ではありますが、あくまでこれは任意参加だったはずです。止むを得ない事情により、出席しません。私はそれを伝えに来ただけです。…では、これから生徒たちの監督がありますので。」
口早にそう言うと、玄野メリアは踵を返し事務局職員室を後にした。
◇◇◇
『『 …では、これより代表選の出場選手公開を行います 』』
五人の生徒が闘技場に出揃ったところで会場アナウンスが放送される。
「何だ?まだ五人しかいないぞ?」
「ああ、三戦あるから六人になるはずなんだけどな?」
「居ないのは……帝変高校か?立ち位置からすると」
「またあいつらか……まさか出場選手公開欠席?…やっぱ大会舐めてんのか?そうだろ?異能学校の生徒にとっては有名企業の目に触れるまたとない機会だってのに…」
「みすみすチャンスをドブに捨ててるようなもんだよな……やっぱFラン高校の考えはよくわからんわ」
「おい…おいおい。ちょっと待て。あそこにいる奴……赤井ツバサじゃねえのか?」
「赤井ツバサ?あのコンクリ校舎全焼事件の…?ネットで顔写真なら見たことあるが…確かに似てるな」
「何言ってんだお前らは。あそこは帝変高校のフィールドだぞ?赤井って確か……大事件起こした「レベル3」の異能者だろ?」
「常識的に考えて…そんな奴が行くところじゃないよな?帝変高校って。」
「ああ、むしろ高ランクの私立高校から招待入学の話来てもおかしくないレベルだろ?…レベル3って。ほぼ軍隊でも即戦力じゃん。」
「だろ? お前ら、もうちょっと常識的にモノを考えろよな。あり得ないって…」
観客席がざわつく中、闘技場内の大ディスプレイに代表選の「対戦カード」が表示される。
———————————————
異能学校対校戦争
第二部 代表選
対戦表
帝変高校 鷹聖学園
赤井ツバサ - 暗崎ユウキ
霧島カナメ - 金剛ミナエ
芹澤アツシ - 氷川タケル
———————————————
「……………は?赤井ツバサ?ホントに?」
「ほら。やっぱそうだったじゃん。」
「何でそんな奴が帝変高校に?」
「おい、ちょっと待て。もっと凄い名前があるぞ。」
「ああ…霧島カナメ。あの霧島三姉妹の三女だよな?」
「でも確か、霧島三姉妹の三女って……」
「ああ、無能力で有名な、霧島カナメだ。」
「でも、さすがにあの家はお金持ってるはずだよな?」
「当たり前だろ。父親はあの巨大企業霧島重工の社長だぞ。おまけに帝国軍の将軍兼務とかいう超とかつけても足りないぐらいのエリート家庭だよ。」
「………なのに、娘が帝変高校って…???どういうこと?」
「これ……もしかして、親にも見放されたとか…そういう系?」
「長女は十代にして既に軍の幹部。次女はあの有名私立黎鳴学園のぶっちぎりのエースだろ?」
「ああ、いくら無能だって、一応異能力者だ。親が入れようと思えばいくらでも有名私立には入れられた筈だろ…」
「………これは、結構重い話かもしれないな………」
◇◇◇
『『 まずは帝変高校の選手からの紹介です! 』』
観客席のざわめきをよそに、会場アナウンスにより選手紹介が進行する。
『『 第一戦目、帝変高校の代表は赤井ツバサ選手!能力は『【炎を発する者】S-LEVEL 3』です!得意の炎を使った攻防が期待されます! 』』
赤井の名前とともに、異能の種別とレベルが読み上げられ、「赤井ツバサ」という名前と「レベル3」という単語にまた場内がどよめく。
当の赤井は場内の反応など構わないとでもいうように、片手をポケットに突っ込みながら、もう片方の手を顔の横でひらひらとやっている。会場の大ディスプレイには大映しで赤井のやる気のなさそうな顔が映し出されている。
『『 対して、第一戦目、鷹聖学園の代表は暗崎ユウキ選手!能力は『【暗闇を操る者】S-LEVEL 3』です!暗闇を自由に操るトリッキーな戦法を得意としているそうです! 』』
赤井の対戦相手となる暗崎ユウキは顔の前面を長い前髪で覆い、あまり表情が読み取れない。会場ディスプレイに彼の姿が映し出され、猫背の彼は何やら呟いているようだった。それは誰にも聞き取れない独り言のようだった。
『『 続きまして、第二戦目、帝変高校の代表は霧島カナメ選手!能力は『【物を切断する者】』… え? 』』
そこでアナウンスが突然停止した。放送室の奥で何か確認するような声と物音が聞こえ…
『『 し、失礼しました!霧島カナメ選手の能力は『【物を切断する者】』…『レベル1』です!! 』』
アナウンスの停滞の後、告げられた「レベル1」という単語に、ひときわ大きなどよめきが起こり、場内が騒然となる。
闘技場の中に佇む霧島カナメはそのどよめきを受け入れるかのように、軽く礼をする。会場のディスプレイには彼女の長い髪が顔にかかるアングルで映像が映し出され、表情は読み取れない。
『『 対して、第二戦目、鷹聖学園の代表として金剛ミナエ選手!能力は『【鉱物を操る者】S-LEVEL 3』です!一撃の威力と応用力が両立された幅のある戦闘が期待できます! 』』
次に紹介されたのは、鷹聖学園の金剛ミナエ。染めた金髪を短く切り揃えた彼女は、鋭い眼光を対戦相手の霧島カナメに向け…
「アンタ…あの霧島の三女だろ?何でこんなところにいるんだ?無能なんだろ?」
そう言葉を発した。
「………」
対する霧島カナメはその言葉に下を向き…何も答えない。
「ここは、アンタのような人間が立っていい場所じゃない。どうせ、ここに居るのも親のコネなんだろ?才能がありながらさらに必死に努力してやっとここに立っているアタシ達と……アンタは違う。……反吐が出る。」
「………」
霧島カナメはその言葉に、無言で目を瞑り………顔を上げ…………
「………そうね………そうかもしれない………でも………」
ゆっくりと目を開け、金剛ミナエの方を見遣り……
「………私は試合、とても楽しみにしてるから」
そう言って笑顔で答えた。
『『 そして、最終戦、帝変高校の代表は……芹澤アツシ選手!!能力は『【温度を変える者】』… え??? 』』
再びアナウンスが停止した。また放送室の奥で何か確認するような声とガタガタという物音が聞こえ…
『『 し、失礼いたしました!!! 芹澤選手の能力は『【温度を変える者】』…『レベル1』です!!芹澤選手は都合により「出場選手公開」は欠場となります!!! 』』
その場にいない選手の紹介に、場内にはさらに動揺の声が拡がる。
そして…
『『 では最終戦、鷹聖学園の選手のご紹介です!!!最終戦の鷹聖学園代表は氷川タケル選手!!能力は…………… は??? 』』
再び、アナウンスが停止する。
度々の進行の停止に場内からはアナウンサーに対する非難の声も上がっている。
そして…しばらくの停滞のあと、アナウンスは再開され……
『『 し…失礼いたしました!!!! 鷹聖学園の最終戦の代表の氷川選手の能力は… 『【冷気を操る者】S-LEVEL 4』ですッ!!!!!! 』』
会場内は一瞬の静寂の後………
怒号のような大歓声に包まれた。
異能評価の5段階の超越レベル指標の中で、「レベルが一つ違う」というのはとても大きな能力の開きを示している。
中でも、レベル3とレベル4の境界は「絶対境界」と呼ばれ、ほとんど次元の違う強さであると評価されている。
超越レベル3が<一線級>…「戦争の最前線でも比類のない活躍が期待できる稀有な人材」と見なされるのに対して、超越レベル4は<戦術級> …能力指標の基準では「影響を広範の地理的囲に及ぼすことのできる、戦術兵器級の価値が認められる能力を有する者」…つまり、核兵器単発級の脅威と同等であると見做される者。数字一つの違いが絶望的に隔絶した実力差を示しているのであった。
会場のディスプレイに映し出されるのは、長めの髪を綺麗に整えた、一見大人しそうな小柄な少年。
だが、彼の周りにはどこか、張り詰めたような空気が充満しているようで、どこか近づきがたい雰囲気を纏っている。彼の周りにはうっすらと…冷気によるものか、白い靄のようなものが漂うのが見える。
「やれやれ…このまま対戦相手が来なければ僕も助かるんだけどな……」
そんな彼の呟きは、誰にも聞きとられず…………
『『 以上!代表選手の紹介でした!! それでは、引き続き代表選、第一試合…「赤井ツバサ選手 対 暗崎ユウキ選手」の試合を始めます!! 選手二名以外は闘技場から退場してください! 』』
そうしてー
運命の試合が再び、幕を開けるのであった。
「面白い」、「続きが読みたいかな」と思ってくださったら、ブクマや下からの評価をいただけると、継続のモチベーションに繋がります!気が向いたらよろしくお願いします!





