30 Cブロック 戦場のリストランテ
4/13 PM7 人物ファイル027~029(山岡、海腹、チキ)を追記しました。
タクティカルウォーズBブロックの貴重な勝ち星と引き換えに、何か人として大切なものを失った帝変高校チーム選手控室の空気は重く沈んでいた。
そこに、今回の主犯、御堂スグルが爽やかな笑顔で闘技場から元気よく戻ってきた。
「やあ、勝ったよ!」
「待ってたわ。死ね!」
瞬間、弓野ミハルから放たれた無数の矢が御堂スグルを襲う。
そして、御堂スグルの眉間に数本の矢が吸い込まれた……と同時に彼の姿が掻き消えた。
「ひどいじゃないか。試合で疲れているんだよ?」
何事もなかったかのように弓野ミハルの背後から現れる御堂スグル。
「まあまあ、女性陣のお怒りはごもっともとは思うが……何はともあれ、勝ちは勝ちだ。そこのところは素直に評価してあげようじゃないか?」
興奮する弓野さんをなだめる1-Bの堅田ケンタロウ。
「そうですね…彼の処置はさておき、また一勝です。これで2連勝ですよ?」
「ええ、すごいことだと思います。あの鷹聖学園に2連勝だなんて。……勝ち方は別として」
泊シュウヘイと音無サヤカもそれに同調する。
「………覚えておきなさい。今度、絶対に仕留めてあげるから…」
「ああ、君みたいに綺麗な女性の訪問はいつでも歓迎しているよ」
にこやかに弓野の討伐予告を受け入れる御堂スグル。
その様子を横目に、堅田は次の試合に向けて話題を仕切り直す。
「さて、次はCブロック…君たちの出番だが、準備はいいか?」
「おうよ、俺はいつでもいいぜ!」
「美食は時と場所を選ばないのですよ。」
「あい!」
そこには腰に各種調味料を携え、フライパンを持った料理服の生徒に、首元にナプキンを当て、あたかもレストランでの食事中かのような格好をした恰幅のいい男子生徒…それに、いつのまにか給仕服に着替えている小柄な少女が立ち並んでいた。
彼らは返事をした順に、
山岡ジョージ。『【料理をする者】S-LEVEL 1』。
海腹ユウ。『【万物を食べる者】S-LEVEL 1』。
河原チキ。『【毒を無効化する者】S-LEVEL 1』。
彼らは本来、戦闘系の異能者ではないが3人合わせてCブロックの「特殊タンカー」である。
「音無さんも大丈夫だな?作戦通り、動けそうか?」
「はい、大丈夫です。」
「神楽さんも…危ないと思ったら、すぐに降伏の合図をしてくれ。大怪我をしてしまっては元も子もないからな。」
「はい。でも、できる限りのところまでやってみます。」
堅田ケンタロウの確認に、そう言って頷くのは帝変高校チーム唯一の「ヒーラー」、神楽舞。本来戦闘系の異能者でない彼女は自身の希望でここに立っている。
「では…私たちの戦場に向かうとしましょうか」
音無サヤカの声にチームメンバー皆が頷き、闘技場へと向かい始めた。
◇◇◇
対する、鷹聖学園の選手控室。
闘技場から真っ青な顔色で帰ってきた火打ユミコは、そのまま控え室の隅に体育座りをしてすすり泣いている。同じくBブロックの試合から帰ってきた風戸リエは無言で彼女の背中をさすりながら脇に佇んでいる。
「帝変高校の奴ら、本当に手段を選ばないな……正直、ドン引きだぜ……」
「これ、一応全国放送されてるんだよ??そこであんなことされるなんて……誰も想像できないわよ」
「だからこそ、奴らも利用してきたということか……?」
「ともかく、これで二敗。それもFランクの底辺高校に2連敗だ。鷹聖学園のメンツも何もあったものではない。」
「それも、戦意喪失での戦闘不能など前代未聞だろう。彼女たちの処分は……まあ、監督や先生方に任せるとして、これから…どうする?俺たちの作戦の変更はあるのか?」
「いや、監督からの指示はない。このまま行け、ということだろう。不測の事態は幾つか発生したが、俺たちの実力が変わったわけじゃないからな」
「いい加減、イライラしてきたぜ。格下にここまで舐められるなんて……必死の思いで鷹聖学園の選抜メンバーになった俺たちが馬鹿みたいじゃないか?」
「ああ…Cブロック、俺たちの試合で格の違いを見せつけてやるさ」
◇◇◇
『『では、選手は開始位置についてください。まもなく、タクティカルウォーズ第3試合、Cブロックの試合を始めます』』
コロシアム内のアナウンスで闘技場内に各校の選手たちが入場し始める。
『『準備はいいですか?それでは第3試合…』』
そして、異能学校対校戦争の第3幕目…
『『タクティカルウォーズ Cブロック、試合、開始!!!』』
Cブロックの試合が始まった。
今回先手を打ったのは鷹聖学園の選手たちだった。
「これ以上舐められて堪るか…速攻でぶっ潰してやる!『火雨』ッ!!」
「初期位置から動く間も無く殲滅してやるよ…『石飛礫』ッ!!!」
天を覆わんばかりの火の玉の群れと石飛礫の雨。
開始間際から容赦の無い遠距離攻撃が帝変高校の生徒たちに降り注ぐ。
「食材、きたよ山岡」
とチキ。
「さあ……今日はどんな世界を見せてくれるのかな…?」
ナイフとフォークを構え、微笑み気味に空を見上げる海腹ユウ。
「おう!それじゃあ戦場のリストランテ……さっそく開店と行くぜッ!!『調理』ッ!」
そして…山岡ジョージが襲い来る敵陣営の攻撃を見上げながら絶叫する。
「本日ご用意いたしましたのはッ!!今にも肌を焼こうかという採れたて新鮮のアツぅ〜い「火炎弾」ッ!!!加えてッ!!!風をきるように飛来するのは大漁御礼の「石飛礫」ッ!!!」
「ほほう…………して、本日のメニューは?」
海腹ユウは手にしていたフォークとナイフを給仕服姿の河原チキに預け、胸元のナプキンを整えながら、いつの間にか眼前にセットされたテーブル席の椅子に悠然と腰掛ける。
「それは……皿が出てきた時のお楽しみだぜお客様ッ!!!!」
山岡はそういうと、持っていたフライパンを握りしめ…天高く振り上げた。
すると……
今にも帝変高校を襲おうとしていた火の玉の雨が消え去った。
そして彼のフライパンには大量の火が燃え上がる。
「うはッ!!!きたきたきたぁ〜!!!!!本日の食材、一番目ッ!!!!」
続いて…彼はどこからかもう一枚フライパンを取り出し、もう一振りする。
すると……
放物線を描いて襲い来ようとしていた石飛礫の雨までもが消え去った。
騒然とする会場も御構い無しに山岡は「調理」を続ける。
「さらに本日二番目の食材ッ!!!!よっしゃあ!!イメージ湧いてきたぜぇ〜!!!!!」
山岡はそのままの勢いで2枚のフライパンを交互に揺さぶり、「食材」がふわりと浮いた瞬間に瞬時にそれらを包丁で切り刻む。
そうしてものの数秒のうちに、白い平皿の上に何か黄土色をした四角い何かが乗せられ…白いソースと、赤いソースがその脇に添えられた。
「へいッ!!一丁上がりッ!!!!!」
山岡は皿に盛られた料理を勢いよく河原チキに差し出す。
そして給仕服姿の河原チキは山岡から料理を受け取り、普段からは思いもつかないほどの優雅な動作でテーブルに皿を置いて言った。
「…お客様、どうぞ。本日のシェフ自慢の一品です。」
だが…
「なんだね…?この汚い色の珍妙な物体は…この店はこんなものを客に出そうというのかね?」
海腹はその、お世辞にも綺麗とは言えない見た目に苦言を呈する。
「まあ、騙されたと思って……食べて見てくださいよ、お客様。」
山岡は見た目への辛辣な評価に臆することなく、海腹から預かっていた金属製のナイフとフォークをテーブルの上に置いた。
「ふん、馬鹿にしおって。不味かったらただではおかぬからな……?」
そして海腹はその差し出された皿の上にある四角い物体にナイフを入れ、適当な大きさに切った後にフォークで脇にある白いソースを付け、ゆっくりと口元に運ぶ。
闘技場内に……得体の知れない緊張が充満する。
先ほどからなぜか、闘技場内のディスプレイには海腹が料理を口にする様子がドアップで映し出されている。
そして、海腹がフォークでその物体を口に含んだ瞬間。
「ン!」
……ん?
一瞬、そこに流れる時間が止まり…コロシアム内全体が「ン?」という空気に包まれた。
その一瞬の停滞の後…
「ンッ!!!!まぁ〜〜〜〜〜いッ!!!!!!!!?」
海腹の幸福そうな絶叫が会場にこだました。
彼はそのまま、料理の感想を続ける。
「これはッ!?このジャリジャリとした歯ごたえッ…まさか………貴様ッ……かんらん岩を使ったなッ!?」
海腹のコメントに、山岡ジョージはニヤリと笑い…恭しく礼をする。
「おっしゃる通りにございます、お客様。」
「それに加えて、石を噛み砕いた時のこの香り…この舌触り…これは……いや…そんなはずは…」
「ご想像の通り……水晶粉末のソースでございます」
「やはりっ!?これでこんな世界が出せるのか!?信じられん…!!!」
海腹がその一口目に感嘆していると…
「ではお客様。その脇の…赤いソースもつけて召し上がってください。」
山岡は、残るもう一種類の赤いソースを指で示し…食べることを促す。
「……ふん。この白いソースはまあまあの出来のようだが……なんだこの赤いソースは?まるで不気味な血の色のようではないか。見たところ、果物とも違うようだが……」
「お客様。食べて見なきゃ……料理の味はわかりませんよ?」
ニヤニヤと笑いながら、山岡はなおも海腹に食事を続けるように促す。
「ふん。貴様に言われんでも…」
そうして、海腹は茶色の物体に燃えるように赤い色をしたソースを付け、口に運ぶ。
そして料理を口に含んだ途端…
ボフン!!!!!!!!!!!!!
海腹の口から大量の火が吹き出た。
「ごばあああああああああああ!!!!!!?」
テーブルから転げ落ち、火を吹きながら闘技場内を駆けずり回る海腹。
帝変高校チームのあまりの異様な様相に、鷹聖学園の生徒たちはただただ呆然とその様子を眺めている。
「ゴバアッ!?これはッ!?この味はッ!?貴様ッ!?このソースに火の玉を使ったなッ!?」
火を吹きながら、なおも食レポを続けようとする海腹に会場全体が唖然とする。
「なんという刺激ッ…なんという甘さッ!!なんという辛さッ!!そして鼻腔内から立ち上る、熱烈とした炎の香り…………これは………!!!!」
海腹は立ち上がり、両腕を目一杯に広げカッと目を見開き…
「うぅッ!!!ま゛ッ!!!いッ!!!ぞォッ〜〜!!!!!!」
天にも届かんばかりの声で絶叫した。
そして………空に火を吹きあげながらそのまま仰向けにバタンと倒れ、動かなくなった。
それを見ながら山岡は自慢気に言った。
「このメニューは名付けて…『岩石群のリエット 〜 水晶ソースと甘辛火炎ソースを添えて』だ!」
そして、ほどなくして再び……空から大量の火の雨と石飛礫が襲い来るのが見える。
山岡は、とても満足そうに地面に寝そべっている海腹の顔を眺め…
「客がいないんじゃ…仕方ねえな。戦場のリストランテはこれにて……閉店だぜッ……!!!」
そして、河原チキと一緒に、腕組みをしながら満足そうに……火と岩石の雨に包まれていくのであった。
◇◇◇
そして数分後…
『『帝変高校は8人が戦闘不能、最後に残った一人が降伏となり……全滅です!したがって…』』
試合終了のブザーが会場内に鳴り響く。
『『試合、終了!Cブロックの勝者は鷹聖学園チームです!』』
音無ちゃんは音もなく…火の雨に巻き込まれて真っ先にリタイヤしてました。
「あいつら、やっぱダメだったか……」
「まあ、頑張ったと思う。食レポを。」
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人物ファイル027
NAME : 山岡ジョージ
CLASS : 【料理をする者】S-LEVEL 1
「あらゆる食材を美味しく料理できる」という非常に珍しい異能を持つ、将来は一流のレストランを開業することを夢見る熱い男。祖父がイタリア人でラテン系の血が少し入っている。異能持ちのため国の管理下となり帝変高校に入学させられることになったが、本人は料理学校に行きたかった為に最後まで反抗し続けた。本人の頑ななまでに非協力的な性格と異能の珍奇性から「軍事的な有用性は現状で皆無」と見なされた為、ランク1の最低評価での入学となった。
食材の研究に余念がなく、海腹ユウ、河原チキと口論しながらもいつも一緒にいる。能力の本質は「『どんなものでも』美味しく料理できる」であり、その気になれば銃弾でも爆弾でも美味しく料理してしまうが、食べても大丈夫かどうかは別問題。「食材は適量、腹八分目で最高の満足を」がモットー。
食材は皆平等、という考え方の上になんでも料理出来る能力のせいでゲテモノ料理が多い。その為、「美味しくても食べて貰えない」ということが頻繁におき、色々難癖をつけながらも料理を食べてくれる海腹ユウとは、喧嘩しながらも仲が良い。
<特技>
調理 クッキング
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人物ファイル028
NAME : 海腹ユウ
CLASS : 【万物を食べる者】S-LEVEL 1
「食べ物は腐る寸前のギリギリのところが美味い」と豪語する、自称美食家。あらゆるものを瞬時に「食べても大丈夫なものかどうか」見分けることが出来る。ちなみに上記の本人の哲学により味は保証されない。
正確には海腹が「食べ物である」と認識したものを本当に「食べ物」として胃の中で消化できるという能力。毒物は毒物として判定されるが、チキの能力と山岡の能力が合わさればほぼ無敵の胃袋を持つことになる。ちなみにカレーは飲み物に分類される。
食べ物に関して川原チキと話が合う。よく山岡ジョージが作った料理を皆で批評して言い争っている(一般人の舌からすれば山岡の料理は芸術的に美味いのだが、二人の味覚は若干ズレている為)。大食いで、巨漢であるがそのサイズさえ無視するぐらいの量を平らげることが出来る。
<特技>
美食 ガストロノミア
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人物ファイル029
NAME : 河原チキ
CLASS : 【毒を無効化する者】S-LEVEL 1
戦災孤児で路上生活を余儀なくされていたストリートチルドレン。河原で明らかに腐ったようなものを食べて生き延びていたところを自治体の保健職員が保護し、異能所持者であることが判明した。食べ物の毒だけでなく、身の回りのあらゆる毒物を無効化して無害なものに変えてしまう。出生不明で年齢は分からないが、14、5才程度だと思われる。栄養状態が悪い中で育ったせいか体つきは細め。
名前は本人が小さな頃から食べていた大好きなコンビニ「ロミソン」の「ロミチキ」から。本人に選ばせたらこうなった。ちなみに廃棄された物ではなくコンビニバイトのお兄さんから貰っていた。保健職員に連絡したのもこのお兄さんである。
<特技>
無毒化 デトキシネーション
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