28 Aブロック 微笑ましい世界
『『試合、開始!!!』』
『異能学校対校戦争』、団体戦Aブロックの試合が始まった。帝変高校と鷹聖学園の選手は互いに開始位置から動き始める。
「じゃ、ヨモちゃん。早速材料補給いくよ〜!『粘土採取』っ!」
「……ほいさ〜……」
土取マユミが彼女の異能を行使すると闘技場の地面が盛り上がり……黄泉比良ミリアの元に向かってゾゾゾゾ、と動いていく。そうして出来た土の塊が彼女を取り囲み…
「『人形創造』」
黄泉比良ミリアがそう呟くと土の塊は次第に立ち上がり、だんだんと人の形をとっていった。
それは土で形作られた無機質な人形…いや、かたちこそ操り人形のような形をしているが、大きさからすると土のゴーレムとも言うべき巨大な人影。
そうして、みるみるうちに1体、2体、3体、4体、5体……とその数は増えていき…………
最終的に12体、5メートル超の背丈の巨大な「土人形」が出来上がった。
「お、いつもより多いね〜!…やっぱ怒ってたんじゃん?」
「……ううん……全然……」
対する鷹聖学園の選手たちは、相手高校のフィールドに突然増えた巨大な人影に驚いている。
「な、なんだあれ…?」
「奴ら……何をした!?」
「け、警戒しろ!タンカーを前にして他は後ろに後退!遠距離アタッカーは攻撃準備に入れ!」
そして、操り人形のような形体の巨大な土人形の群れが一斉に鷹聖学園の選手たちの方に向いたかと思うと…
「…『人形操作』…ゴー…」
ガチャガチャガチャガチャ…ドドドドドドドドドドドッ!!!!!!
彼らに向かってとんでもない速さで走り出した。それぞれの人形はめちゃくちゃな走り方をしているが、それでも人が走る速度の数倍は出ている。見た目的にはかえってそれが恐ろしい。
「お、おいアレ…こっちに向かってくるぞ!」
その時、鷹聖学園側のフィールドにいたものは誰もが恐怖を覚えずにはいられなかっただろう。
5メートルを越えようと言う、巨人たちが奇怪な挙動をしながらものすごいスピードで押し寄せてくるのだ。
「く、くるぞ!?」
「…はっ、速…」
その勢いに選手たちが戸惑っているうちに……ものの数秒で12体の人形たちは彼らの目前に迫り、あっという間に鷹聖学園メンバー全員を取り囲んだ。
そこには、あたかも気の触れた大人が小さな子供を取り囲んで睨みつけているような……そんな異様な光景が広がっていた。
そして黄泉比良ミリアは振り上げた両の手の五指を複雑に動かし…人形達に命令を下す。
「…潰されちゃえ。『人形操作』」
12体の人形たちは一斉に拳を振り下ろした。
ドガガガガガガガガガガガガガガガ!!!!!!!!!
鷹聖学園チーム全員を取り囲んでの拳の絨毯爆撃。どこにも逃げ場はなく、生徒達はただひたすらに打たれ続ける。
ドガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガ!!!!!!!!!
最初は悲鳴や怒号が響いていたが、もう、それも聞こえない。
しばらくそれでも爆撃音は鳴り止まず…人形たちは拳を振り上げ続ける。
そして土埃で土人形の姿がもう見えなくなろうかというときになって、やっと攻撃が止んだ。
巻き上げられた土煙が拡がり……コロシアム内に静寂が立ちこめる。
◇◇◇
〜 観客席 〜
コロシアムの観客席ではあまりの光景に多くのものが言葉を失っていた。
「………………………………何あれ?」
「リンチだな…一方的な」
「…もうこれ………試合、終わったよな?3分経ってないぜ?」
「なあ……一応これ、団体戦だよな?」
「ああ、実質……あの小さい子以外、帝変も鷹聖も何もしてないよな………?」
「いや、最初、ふわふわ巻き毛の子が何かアシストしてたみたいだけど…」
「何だ?何なんだ、あの子?あの鷹聖学園が手も足も出ないなんて……」
◇◇◇
〜 帝変高校 選手控え室 〜
「僕らは団体戦の訓練を脇で見ていたとはいえ……やっぱあれ、怖いな」
「ええ…絶対に彼女を敵には回したくないわね」
「それにしても、よくあんなに同時に人形を操れるものだ。人形を操るなんて、一体でも結構難しいのだろう?普通は。」
「そこは、ほら。黄泉比良さんだから。実は超頭いいのよね、あの子」
「でもこれで…勝てたんでしょうか?まだ試合終了の合図がならないんですが…」
「ああ、油断はできないな。なんせ相手はあの鷹聖学園だ。ここから巻き返してくるかも…」
「まあこれで相手チームが全KOという可能性もある。審判も土埃が晴れるのを待っているんだろうな。」
控えの選手達はあれこれと試合経過の感想を口にしている。
そしてそれを小耳に挟みつつ、植木ヒトシは拳を握りこみ……敢えて空気を読まずに言った。
「…………やったかッ!?」
◇◇◇
闘技場内。
先程から巨大な人形達の中心に立ち込めていた土埃が晴れ始め………中で動く人影が一つあった。それがゆらりと立ち上がったかと思うと
「ふっざけんなあああああああああ!!!!!!こんなん、チートだろうがッ!!!!」
会場全体に聞こえるような怒号が響き渡り、土人形たちの中心で巻き上がる土埃から何かが勢いよく飛び出した。
そして、その何かは瞬時に黄泉比良ミリアの元に迫り、そのままー
ガンッ!!
「ごめんね〜、それはさせてあげられないんだ〜」
側に控えていた少女、土取マユミの「打撃」に弾かれた。
「こんのド底辺高校がァ!!!!!!この俺の経歴にッ!泥を塗りやがってェ!!!!」
絶叫する帝変高校のフィールドに飛び出して来た生徒に、すぐに彼を追ってきた巨大な土人形達が再び襲いかかる。
しかし、その飛び込んできた男子生徒…鷹聖学園の音威ツトムは土人形の群れに向かって、彼の掌を向けて言った。
「砕けろッ!!「騒音」ッ!!!!!!」
ボウウンッ!!!!!
巨大な重低音を纏う衝撃波が発射され、それに巻き込まれた土人形達は脆くも一撃で粉々に砕けた。
「チッ!!!やっぱり簡単に壊せるじゃねえか!!!」
「 あちゃ〜、一筋縄ではいかないね。『粘土籠手』っ!」
そう言って土取マユミは腕に粘土を巻き付け、それを巨大な籠手のように成形する。彼女は両腕のそれをガシンと打ちつけて言った。
「じゃあ…ちょっとばかし舞踏会と洒落こもうか〜?」
「雑魚が…調子に、乗るんじゃねええ!!『騒音』ッ!!!」
音威ツトムがそう叫びながら手を振ると、彼の発した音圧で地面が抉れていく。しかし、土取マユミはそれを予想していたのか、直前で跳びのいて躱す。
「そうやって見くびってると、さっきみたいに足元掬われるぞ〜?『粘土弾』っ!」
次に仕掛けたのは土取マユミ。粘土で造形した籠手から無数の粘土弾が高速で発射され、音威を襲う。
「無駄だってわかんねえのか!?『騒音』ッ!!!!!!」
音威の絶叫と共に再び重低音が巻き起こり、土に礫を音の圧力で強引に吹き飛ばす。
「あちゃ〜、やっぱダメだったか〜。じゃあこれは?『粘土棘』っ!」
土取が地面に手を当てると、音威の足下から無数の鍾乳石のような土の棘が立ち上がる。しかし、音威はそれを後方に跳んで躱しーー
「みえみえなんだよッ!!!「騒音」ッ!!!!!!」
闘技場の地面ごと音圧で抉り、攻撃を丸ごと吹き飛ばす。
「ありゃ〜!これもダメ?すごいね〜、キミ」
「ハッ、お前ら見てえな雑魚とは違うんだよ!!頭の作りもなッ!!『音圧』!!!」
音威はそう叫ぶと彼の背中に音の塊を作り出し、その圧力で爆発的に加速し、土取マユミの懐に入り込んだ。そして…
「「騒音」ッ!!!!」
ボウウウウンッ!!!!!
音威の異能が作り出した轟音のエネルギーで土取の「粘土籠手」が粉々に砕ける。
音威はそこで余裕の笑みを浮かべ……掌を土取に向けながら言った。
「ここまでだぜ?底辺の割には、頑張ったじゃねえか」
両腕の武器を失い…無防備となった土取マユミは両手を上げ、無表情のまま、こう言った。
「ヨモちゃん、どう? も〜い〜かい?」
「もうい〜よ〜……接続できた…『人形操作』…」
黄泉比良ミリアが両手を振るうと、周囲に彼女と等身大の土人形が5体出現し、音威に向かって突進した。
「ハッ!!ずいぶんと小せえじゃねえか!力尽きたか!?そんなんじゃ意味ねえぞ!!!「騒音」ッ!!!!」
音威は即座に爆音の衝撃波を繰り出し、5体の人形達をあっという間に滅ぼした。
さらにーー
先程まで地面に倒れ伏していたはずの鷹聖学園の生徒達が、こちらに向かって猛スピードで走ってくるのが見えた。
「ひゃはッ!アイツらもやっと目を覚ましやがったか!いいゼェ…!!!ここから……蹂躙戦といこうか…!!」
そして、奇妙な走り方でこちらに向かってくる7人の鷹聖の生徒達は音威のもとへ駆け寄り……
ドゴゴゴゴゴゴッ!!!!
一斉に飛び蹴りを喰らわせた。
「あぐぁッ!!!???」
音威はあまりの不意打ちに吹っ飛び、そのまま地に倒れた。そこに覆いかぶさるように鷹聖学園の選手たちが群がり…音威ツトムを一心不乱に殴り始めた。
「うごッ!?ちょっと待て俺はみか…グボッ!?」
訳もわからず、味方であるはずの生徒達に殴られ、蹴られ、ボコボコにされる音威。
ボガッ ボゴッ
「やメッ……みんな…やめ…………て……」
ベギッ バコッ ボグッ
そして、だんだんと悲鳴も聞こえなくなり………数分後、音威は地に沈んだ。
そして、鷹聖学園の生徒達も音威が伏したところに綺麗に交互に重なるように順番に倒れこみ………
「『人間操作』、終了…」
闘技場に残ったのは…ドヤ顔の黄泉比良ミリア含む帝変高校の5人だけであった。
コロシアム内に試合終了を知らせるブザーが鳴り響く。
『『試合、終了ッ!! Aブロックの勝者は、帝変高校です!』』
闘技場の真ん中で、見た目が小中学生にしか見えない小柄な黄泉比良ミリアは両手を上げ精一杯の背伸びをし、土取マユミは若干かがんで背丈の合わないハイタッチをする。
戦場にはどう見ても場違いな、その微笑ましい光景は………この大会を見に来た観客達に波乱の予感を感じさせるには十分であった。
人物ファイル021
NAME : 土取マユミ
CLASS : 【粘土を操作する者】S-LEVEL 2
主人公の隣のクラス、1-Bの生徒。何事にもおおらかマイペースであるが冷静に物事を見極める一面も持つ。その為、戦闘では無類の状況判断力を発揮し、様々な局面に柔軟に対応できるバランス型のファイターとして活躍する。
異能は土中の粘土成分を操ることの出来る能力で、粘土をあらゆる形に自由に造形し、応用しながら用いることが出来る。その性質と彼女の性格が噛み合い、生粋のオールラウンダーとして成長中。
実家は陶芸用品店であまりお金がない為、学費無料の帝変高校に通う。黄泉比良ミリアとは何故か気が合い、行動を共にすることが多い。異能の相性も抜群である。
<特技>
粘土採取 アタッチクレイ
粘土籠手 クレイフィスト
粘土弾 クレイバレット
粘土棘 クレイニードル
粘土壁 クレイウォール
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人物ファイル022
NAME : 音威ツトム
CLASS : 【音を発する者】S-LEVEL 2
鷹聖学園の生徒。タクティカルウォーズAブロックのエース兼リーダー。プライドが高く頻繁に他人を見下す上、弱者と見ると積極的に叩く困った性格の人間。しかし、能力はその性格と反比例するように優秀であり、その為彼を諌める者はほとんど存在しなかった。著名な航空エンジニアの息子。
異能は音を発生させる能力で、自分の近くであればある程度自由に音が出る場所をコントロール出来る。
<特技>
騒音 ラウドネス
音圧 サウンドプレッシャー
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