26 修行の日々
俺が修行を始めてから数日が経った。
俺は校長の懇切丁寧な指導により着々と成果を上げている………………………はずだった。
「いいか?やるから見てろ」
校長は地上から跳び上がり、上空で空を蹴りそのまま横に飛んだ。
そしてまた空中でぴょんぴょんぴょんぴょんと何度か跳ねたあと、また地上に戻ってきた。
「こうだ。わかったか?」
……そう、万事がこの調子である。
ずっと、こんな感じなのである。
こうだ。わかったか?
じゃねえよ!!!!!!!
そんなんでわかるわけねえだろ!!!!!!
………と、昨日までは俺もそう思っていた。
だが、こうして親鳥が雛に飛び方を教えるかの如く、何度も何度も何度も……繰り返し何度も何度も何度も何度も何度も何度も…………
こう、校長がぴょんぴょんぴょんぴょんぴょんぴょんぴょんぴょん跳ねるのを見せられていると、だんだん、何かわかってくるような気がしてくるのだ。
いや、本当になんとなく、俺は奴のやっていることが見えてきた。
おそらくは、『跳ぶときに自分を加速させて跳ぶ。そして空中で一部の空気を遅くして抵抗を生み足場を作り、それを加速した足で蹴って移動している。』ということなのだろう。
それを悟るまでにもう100回以上はこのゴリラぴょんぴょんを見た。
さすがにもう、これ以上はご勘弁願いたい。
「ああ、ようやくわかった。ありがとう」
一応、俺は礼を言う。全く疲れた様子のないゴリラではあるが、俺に教えようと必死でぴょんぴょん跳ねてくれたのだ。感謝ぐらいはしておこう。できればもうちょっと理論的に説明して欲しかったんだけれども。
「そうか。じゃあ、やれ」
……え?今こいつ、なんつった?
「わかったんなら、やれ」
できるか!!!!!!!!
俺は校長に感謝した分の気持ちを幾らか回収し、気を取り直して質問する。
「やれって…どうやってやるんだよ?俺と校長じゃ能力が違うんだぜ?」
「なんだ…あっためる、ひやすで似たようなこと出来ねえのか?」
『あっためる』と『ひやす』で似たようなこと?
そんなこと……………………わからん。思いつかない。
「いや、見当もつかないな」
「そうか、じゃあ別のことやるか」
とても潔いゴリラ先生。
…………あの……そんなに簡単に諦めちゃっていいの?
今まであなたがぴょんぴょんやってたのは何だったの??
夢にまでアンタが跳ねてるのが出てきた俺の苦悩の日々は???
「じゃあ、攻撃やってみるか」
そうして校長は直径10メートル以上はある岩の前に立った。
これからその大岩を粉砕しようというのだろう。もう、見なくてもわかる。
まあ、数日こいつと一緒にいたことで、だんだんと『レベル5』という性能が本物だということがよくわかってきた。
まず、こいつの能力『【時を操る者】』の『加速』と『遅延』。これはとんでもないチート異能だ。自身を極限にまで加速させ、周囲を遅延させることで、こいつだけが動ける状況を作る……つまり擬似的に「時を止める」ことが出来るという。
時を止める?もしそんな異能があったら俺だったらきっと、あんなことやこんなことを………………まさか、コイツ……やってないだろうな??…もしやってたら軍法会議モノである。…よ〜し、今度メリア先生にチクってやろう…
それはさておき………それに加えて地味にやばいのがこいつの「殴る」攻撃。
打撃攻撃の威力は「質量×速度^2乗」だと聞いたことがある。異能の特性上、こいつはその速さをいくらでも増やすことができる。つまり、威力自体が無限大なのだ。
すでにこれだけでもヤバいのに、こいつのさらにヤバいところは、衝撃が発生する瞬間に「遅延」を使ってインパクトの時間を引き延ばして調整していること。そのタイミングを調節することで、どういうわけか攻撃側の拳にはダメージゼロで「相手にだけ衝撃が与えられる」というトンデモ仕様な打撃が可能になるという。
軍艦でも移動要塞でもこいつの拳一つでポンポン殴り飛ばせるというわけだ。
…………あれ?
こいつ一人いれば軍隊いらなくね?
俺がそんなことを考えていると………校長は腕を振りかぶり…大岩に叩きつけた。
ドゴォッ!!!!!!!
という轟音とともに、先ほどの巨大な岩が粉々に砕け散る。
そして、奴はくるりと振り返って言った。
「やれ」
…………
出来るか!!!!!
やれ、じゃねえよ!!!
お前にしか出来ねえんだよ!!!!!!!
そうして…………
俺の修行の日々はまた一日、過ぎていくのだった。
………………………………あれ?
もしかして、俺…………初日から進歩してない………?
同時連載でこんなの(↓)はじめて見ました。わりと本格(?)ファンタジーの転生モノです。こちらも不定期更新ですがよろしくお願いします。
【超絶美少女】公爵令嬢となった俺は自分と結婚したい
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