24 会議室の夜
「では…再度、代表戦の選手について…皆さんのご意見を伺いましょう」
帝変高校の職員室では夜を徹して、職員たちによる長い会議が続いていた。
「先ほどから先生方が推薦する通り…私もやはり赤井君に勝ち星を期待したいところだな。色々と素行に問題のある生徒だと聞いているが…戦闘能力だけ見るなら鷹聖学園の二、三年生にだって見劣りしないはずだ。」
「ああ、事実……上位の有名私立校の招待入学の誘いを断ったという話だ。何故こんな戦力がうちに入って来たのか…不思議なぐらいだよ」
「私も…代表の一人は赤井くんで大丈夫だと思います」
「それでは、皆さん異存ないようですので、一人目の枠は赤井君で決定ということで良いですね?」
「ええ、良いと思います」
「異存ありません」
「それしかないでしょう」
「あとは全くの未知数だが『校長推薦』の彼…芹澤くんと言ったか?彼にも頑張ってもらうしかないが…どうなんだ?彼の評価は?」
「彼の能力は『【温度を変える者】S-LEVEL 1』。どうやって戦うのか…さっぱりわからないな……強いんですか?」
「いやあ、彼の筋肉はまだまだだと思いますがね!」
「…あの校長とメリア先生の推薦だ。何かあると思いたいが…」
黒眼鏡の、清潔感のある青いスーツ姿の男性がメガネをクッとあげながら言った。
「議論しても仕方のないことは置いておきましょう。二枠はその二名で確定です。残るは一枠……絶対に負けられないこの戦いで勝ちに行くとなると、誰にするのが最良でしょうか?」
青スーツ姿の男性教師はホワイトボードに「1-A 御堂スグル、霧島カナメ、弓野ミハル、黄泉比良ミリア」…「1-B 堅田ケンタロウ、土取マユミ、音無サヤカ、泊シュウヘイ、香川リカ」の名前を書き連ねていく。
「この2クラスの戦力評価上位者の中から、少しでも有望な生徒を選出しましょう。」
「有望な生徒、か…」
職員室をしばしの沈黙が支配する中、一人の教師が口を開いた。
「この、黄泉比良さんという女生徒は強いのかね?留年していたようだが…」
「彼女は、色々イレギュラーで………去年はほとんど学校に来なかった為、規定の出席日数が足りず留年ということになりましたが…テストなどの成績だけは恐ろしいほど優秀なんですよ」
「ハハハ、体育以外だけどな!!」
「問題は次の代表選にふさわしいかどうかでしょう。そこのところ、どうなんです?チハヤ先生?」
「そうですね、黄泉比良さんは異能の力がとても強力ですが…少し体力に不安があります。個人戦は彼女には荷が重いはずです。それに能力が非常に団体戦向きです。アタッカーとして団体に行ってもらうのが一番の得策だと思います。」
「では…弓野ミハルさんは?どうでしょうか?」
「弓野さんも能力的に明らかに団体戦の遠距離ロール向きです。彼女も、団体戦ですね。」
「では、それ以外の生徒は?」
「1-Aの御堂くんは回避能力はずば抜けているが、攻撃らしい攻撃方法が無いのが難点だな…武器で補うという方法もあるが、相手も当然異能を使ってくる訳で、良くても引き分け。悪ければ削られて負けてしまうだろう」
「1-Bの堅田くんにも同じ事が言えるな。彼は防御とタフネスには高い評価がつけられるが、攻撃はというと殴るか体当たりぐらいしか無いのが実情だからな…」
「では、彼らは団体戦のタンカー、黄泉比良ミリアさんと弓野ミハルさんはアタッカーということでよろしいですか?」
「ええ」
「ああ、異存ない」
「それが妥当だと思います」
「それと、香川リカさんと泊シュウヘイ君は異能力的にバッファーです。彼らも団体戦ですね。」
「では…あと一人の代表戦の選手は土取さんか霧島さんのどちらか…ということになるが、彼女たちを比べると、どうだ?」
「…1-B担任の雪道先生、いかがでしょう?」
雪道と呼ばれた黒眼鏡の青スーツの若い教師は眼鏡の黒縁を指でなぞりながら言った。
「そうですね、土取さんはバランス型のファイターです。遠距離・近距離・支援…どれも優秀ですが、器用にどんな戦局でも味方と共闘出来る、どちらかといえば団体戦向きのオールラウンダーです。かと言って単体での戦闘能力が低い訳ではないのですが…」
「1-Aの霧島さんはどうなんですか、チハヤ先生?確か、彼女の異能はレベル1でしたよね?なのに異能評価がA判定というのはどういうことなんでしょう?」
「はい、彼女は入学前、ほとんどレベル0と言っても良いほどのレベル1…多分最弱と言っても良いほどの弱い能力しか持っていませんでした。」
「私もそう聞いていたね。職員室でも皆、噂していたよ。あの霧島家の三女だというのに、かわいそうなことだとね…」
「そうですね…ところが、昨日の実技試験では…驚くような進歩を見せてくれたのです。今は恐らくレベル2、いえ…もしかしたら、レベル3に近いぐらいの実力かもしれない。」
「本当にそんな事があり得るのか?チハヤ先生を疑う訳では無いのだが…」
「いえ、信じられないのは私も同じですよ。でも、この目で見てしまったものですから。」
「しかし、黄泉比良さんのような例とは違うのだろう?過去に異能の測定自体をまともにしていなかった彼女とは違い、それまでの評価は適正だったはず。なのにそれほど急激に成長するとは…」
「そこは、チハヤ先生の評価を信じましょう。彼女が嘘をつく理由などないのですから。」
「彼女の攻撃能力の評価はどうなんです?そこが重要だと思うのですが。」
「彼女の異能は攻撃特化型、『【物を切断する者】』です。テストでは鋼鉄の装甲も、2メートル級の岩も易々と切り裂いて見せました。持久力にも問題ありません。その2点については太鼓判を押せます。」
「う〜む。話だけなら霧島さんが代表戦に相応しいように思えるが…」
「でも土取さんもかなり優秀な生徒なんでしょう?」
「うーむ…」
「結論はすぐには出ませんな。一旦、団体戦の話をしますか?」
「そうですね。…では、資料を見てください。」
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◆「タクティカルウォーズ」参加可能者について
団体戦 出場可能者数 28名 (うち2名は代表として除外)
団体戦 出場不能者数 31名
校長推薦(代表選)により除外 1名
上記合計 60名
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「…団体戦出場可能者が代表選出場者を除くと26名?定員まで4名も足りないとは………」
「今年は非戦闘系の生徒がそんなに多いのか?」
「そうですね、例年になく戦闘系の生徒が少なかったんです。前年より生徒数が少ないのも影響していると思います。」
「この中で4チームを組む必要があるわけか。格上相手に、数でも劣るとは…」
「居ないものは仕方がないだろう」
「ハハハ!大丈夫、なんとかなりますよ!私たちには筋肉がある。鍛えれば心配などいりませんよ!!」
「これはかなりチーム編成に頭を使わないといけませんね…」
「以下に、チハヤ先生と雪道先生が生徒たちを適性によって分けた一覧表があります。これを見ながら、チームにタンカー、アタッカーなどのロールを振り分けていきましょう」
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団体戦 適性別 出場可能選手リスト (全28名)
<タンカー> 6名
堅田ケンタロウ (代表候補)
御堂スグル (代表候補)
山岡ジョージ
海腹ユウキ
河原チキ
…
<近距離アタッカー> 5名
霧島カナメ (代表候補)
音無サヤカ (代表候補)
…
植木ヒトシ
<中距離アタッカー> 7名
土取マユミ (代表候補)
…
<遠距離アタッカー> 4名
弓野ミハル (代表候補)
黄泉比良ミリア (代表候補)
…
<バッファー(デバッファー)> 5名
香川リカ (代表候補)
泊シュウヘイ (代表候補)
…
<ヒーラー> 1名
神楽マイ
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「ヒーラー?今年の一年生にはヒーラーがいるのか?」
リストを眺めた職員の一人から声が上がった。
「ええ、神楽さんという生徒で……例の誘拐事件で被害にあった生徒ですよ」
「あの〜…この子は戦闘に出しても良いのですか?非戦闘員では?それに、ヒーラーはとても貴重な異能者でしょう。公衆に顔を晒して、彼女の安全に問題はないでしょうか?」
「お言葉ですが…あの事件はもう既に大きなニュースになっているし、彼女の名前も出るところには出ているんです。今更の話ですよ」
「ええ、それに今回は本人の強い希望もあっての参加ですので…」
「それならば問題ないでしょう。話を進めましょう。決めなければいけないことは、山ほどある。まずはタンカーから行きましょうか。」
「タンカー候補は6名か…」
「では、4チームに割り振ろうとすると2:2:1:1となりますかね。」
「いえ、待ってください。タンカー欄にいる山岡くんは資料によると『【料理をする者】』ですよね。なんで彼がタンカーなんでしょう?」
「それに、海腹くんと河原さんも、『【物を食べる者】』と『【毒を無効化する者】』…これも非戦闘系の能力では?」
「ええ、本来はそうなんですが…彼らは少し特殊で、一緒に居ることで全く別の能力を発揮するんです。そのため、団体戦でのタンカー候補に挙げています。」
「別の能力…?それは一体どう言うことですか?」
「なんと言えばいいのか…ちょっと表現しづらいんですが、遠距離攻撃に対してほぼ無敵の壁になるんです。」
「一緒にいると遠距離に無敵?なんだそれは…」
「とりあえず、今は一人でも多くのタンカーが欲しい。チハヤ先生の言う可能性にかけてみましょう。」
「となると、タンカーの割り振りは3:1:1:1か…」
「それで決まりですね。タンカーが一人のチームは心許ないですが、致し方ない。」
「では、アタッカーはどうしましょうか?近距離、中距離、遠距離と人数にかなりバラツキがありますが…」
「まず、黄泉比良さんですが、彼女は遠距離に配置されてますけど、実質は近距離数人分でしょう?タンカーの役割もできる。」
「ええ、彼女はチームの攻撃の要になる為、動きの遅い彼女を守る優秀な護衛役が必要です」
「それならば、土取さんが最適ではないですか?」
「ええ、二人とも方法は違いますが土を使う。相性はいいはずです。」
「そうだな…では、その二人は組ませよう」
「となると…必然的に霧島さんが代表選ということになりますね」
「それで問題ないでしょう」
「…あれ?そう言えば、音無さんという生徒もいなかったか?」
「え…そうだったか…?本当だ!?」
「あ…ああ、そうでした…!でも、音無さんは多人数を相手に気配を消して撹乱しながら攻撃できるアタッカーですから…やはり、団体戦に配置する方が良いはずです」
「そうか、それならばいいのだが…担任の雪道先生まで彼女のことを見落としていたとは…」
「では、次はアタッカーの配分ですが…」
…
議論は続く。
そうしてー
会議室の夜が、更けていく。
◇◇◇
そこから議論を続け、数時間の時が流れた。
「………………」
「……………………」
「……………」
「…………………………」
「…………」
会議室の中を…長い沈黙が支配していた。
「………他に、何か良い案がある先生はいますか?」
しばらく、教師たちは考えているようだったが…
結局誰からも声は上がらなかった。
教室の窓から、だんだんと青みがかっていく空が見える。
「……もう、意見はありませんか。」
そろそろ、夜があける。
生徒たちが登校してくる時間まであと少し…
「では、この編成案で…最終決定とします。異存はないですか?」
「ええ」
「異存なし」
「はい」
「いいでしょう」
「ハハハ!!大丈夫だ…問題ない!!」
そうして、帝変高校の命運を分ける対校戦争の布陣が決まったのだった。





