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17 桜色の銀河

 ある意味でとても内容の濃い授業がひと段落し、やっとでお昼休みだ。


 再び始まった植木ヒトシ(バカ)御堂スグル(へんたい)の異端審問をさっさと切り抜けて、俺はある女生徒の所まで歩いて行った。


「篠崎さん、いいかな?」

「ひゃわっ??はわあっ!?」


 まあ、ある程度リアクションは予想していたけど、そんなに驚かなくても…


「お礼を言わなきゃと思って。昨日は本当に助かった。ありがとうな。君がいなきゃ…本当に俺も神楽さんもどうなっていたか。」

「あのっ?ええっと!?ひゃひゃひゃひゃい!」


 ひゃひゃひゃひゃい?


「あの…喋りづらかったら、テレパシーでもいいよ?」


 しかし、しばらく待っても例の「声」は聞こえてこなかった。俺が不思議に思っていると…

 彼女はカバンから何かを取り出した。

 紙と(スズリ)と毛筆だ。


 …


 何?

 ああ、筆談か…でも、筆?


 俺が訝しげに眺めていると…

 彼女は流麗な筆の動きで手紙(?)を書き始めた。妙に、堂に入っている。


 シュパパパッ

 という効果音がしそうな感じであっという間に手紙を書き終えると、俺にそれを手渡して来た。

 そこには超達筆な字でこう書いてあった。



 ーーーーーーーーーー


 芹澤あつし 殿


 謹啓 春寒の(そうろう)

 貴殿におかれましてはますますご活躍のこととお慶び申し上げ(そうろう)


 先日私は能力を使い過ぎて(そうろう)

 今日はてれぱしいの調子が悪くうまく扱えなく(そうろう)


 三寒四温の時節柄、お健やかにお過ごしになられますようお祈り申し上げ(そうろう)


 謹白 篠原ゆりあ


 ーーーーーーーーーー


 …


 何時代の人だよ!!!!

「てれぱしい」て。「(そうろう)」って!!!!

 てか前後のやつ、いる?必要だった???


 と色々突っ込みたいところはあるが、まあ、要は昨日かなり頑張ってくれた、と言うことらしい。


 彼女にならって毛筆で紙に「ありがとう!本当にすごく助かった!」と書いて手渡すと、彼女はにこやかに頷きながらそれを受け取った。


 うーん、喋りさえしなければ、色々普通なんだよな。いや?そんなことないか?

 まあ、とてもいい子なのは違いない。


 なにより小動物系で巨乳である。そこ、重要な。




 ◇◇◇




 そして放課後ー


 一通りの本日の授業が終わって皆がまばらに帰り始めた時だった。


「芹澤くん!」


 俺の名前が呼ばれた方を振り向くと、そこにはクラス随一、と俺が太鼓判を押す美少女、霧島カナメさんがそこに居た。


「今日の放課後…空いてるかしら?」

「あ、ああ…?特に用事はないよ」


 ん?心なしか、彼女の頰が赤い様な気がする。風邪か?


「前は恥ずかしいものを見せちゃったけど…今日は少し、違うものを見せたいと思って色々準備してきたの」


 恥ずかしいもの?

 ああ、あれか…あれは不慮の事故で……


 俺は心のマイメモリー「桜満開の中のご開帳」を呼び出す。あの時の映像が今あったことのように鮮明に思い出される。


 …

 じゅ、準備してきた!?

 見せたい…!?

 な、何を? 何を準備してきたのッ!???


「その……また、見てもらえないかしら?」


 ………なんだと。

 …また…見てもらいたい、だと!?

 ま、まさか、彼女はそっちの…!?


「ダメ、かな?」


 彼女は恥ずかしそうに、俯きながらもチラチラとこちらを伺っている。

 ……ふむ、男子たるもの、女性に恥をかかせてはならないものである。


「よ、喜んで!!!!!!!!」


 何のことかわからんが、俺も男だ。

 謹んでお受けしようと思う。




 ◇◇◇




 体育館裏の倉庫前。

 今、俺は霧島さんと二人っきりで佇んでいる。

 数日前は満開だった桜も今は舞い散り、少しでも風が吹くと辺り一面にちょっとした桜吹雪が巻き起こる。


「そういえば、昨日休んでたみたいだけど体調でも悪かったの?」


 俺は心を平静に保ちながら先ずは軽いジャブトークから入る。紳士たるもの、どんな状況でも、良識ある紳士であらねばならないのだ。もちろん心の奥はフルスロットル、今か今かとご開帳を待ちわびながら。


「ううん、違うの…昨日は、ズル休み。貴方に教わったことを試してみたくって…」

「俺に教わったこと?」


 はて?俺何か言ったっけ?


「覚えてない?貴方はあのとき、『力が弱くても相手を見極めながら多く打つ。そうすれば、いつかは岩だって削れるもんさ。』…って。そう、教えてくれたの。」


 彼女は聞き覚えのあることを口にした。

 ああ、あの師匠の受け売りか。

 なんか彼女にちょうど良さ気な言葉だなと思って言ったんだった。


「それでね。私、やってみたの。」


 彼女はとても嬉しそうに…小さな子供が初めての満点テストをお母さんに報告するかのようにー


「そしたらね!出来ちゃったの!色んなことが!」


 神様でさえ見惚れさせそうな満面の笑みで言った。


「だから貴方に…芹澤くんに一番に見てもらいたくって、たくさん練習してきたの」


 俺はただ言われるままに、頷いた。


「見てて」


 彼女はそう言うと、


「『千の刃(サウザンドエッジ)』」


 手の先から透明な羽衣のようなヴェールを生み出し、その場でくるくると(・・・・・)舞い始めた。


 それは、とても不思議な光景だった。

 桜の花びらが舞うようにひらひらと宙を漂うそれ(ヴェール)は、酷く幻想的に見え…見たこともない美しい生き物のようにも思えた。


 そして、そのヴェールが巻き起こした風に、地に降り積もっていた桜の花びらがにわかに舞い上がりー


「『桜花(オウカ)』」


 それはもうこの世のものとは思えないほど美しい銀色と桃色の桜の渦が幾重にも、中心で舞い踊る彼女を取り囲みー

 まるでそこにひとつのちいさな銀河を生み出しているかのようだった。

 それら銀と桃の花びらはくるくると漂いながら宙に浮き上がり、春空に向かって吸い込まれるようにゆっくりと舞い散っていった。


 俺はその光景に言葉を忘れ、しばらく呆然としていた。あまりにも、ただ美しいとしか言いようのない光景だったのだ。


 そして彼女は俺の方に近づいてきて…


「あの…どうだった…?」


 俯き加減にそう聞いて来た。

 俺は気の利いた言葉なんかまったく浮かんでこず、


「ああ、なんか、すごく綺麗だった。」


 すごく頭の悪そうな、でも、心の底からの感想を言った。

 そう言うと、彼女は女神と見紛う桜色の眩しい笑みを浮かべー


「ありがとう、芹澤くん」


 俺に、柔らかくキスをしてくれたのだった。


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