15 俺の理想の高校生活
誘拐事件の次の日の朝。
ゴリラとベッドで朝チュンするというトラウマ的な目覚めを体験した俺は、とてもげんなりした気分で玄野家のリビングルームへと向かった。ていうか、この家広いな。何部屋あるんだろ?
「おはよう、芹澤くん。ちょっと座って待ってて。今、朝御飯できるところだから!」
キッチンに佇む、金髪眼鏡美人…もとい、玄野メリア先生はいそいそと料理に勤しんでいるようだった。
ふむ、パジャマで眼鏡でエプロンか。悪くない。これは癒される。
俺がメリア先生の姿で少しだけ、ゴリラ朝チュンのトラウマダメージを回復させていると、しばらくして目玉焼きと味噌汁とご飯とほか数種のおかずが運ばれて来た。
うまそうだ。仕事も出来て家事も完璧ってスペック高すぎだな?メリア先生。
「いただきます!」
なんか、久々の食卓って感じだな。
俺は今、学校付属の寮で一人暮らし。こういうちゃんとした朝メシって、自分じゃ作れないんだよなぁ。
「あのね…芹澤くん。ちょっと考えたんだけど…」
俺はもう色々口に含んでいたので、ウンウンと頷いて先を促す。
「私たち、一緒に棲まない?」
ブフゥーーーー!!!!!
あまりの驚きで、口から色々出た。
「な、なんで、そんな話に!!?」
何!?何これどういうイベント!?
俺なんかのフラグ立てた!?知らぬ間に好感度MAXまで育ててたの!?
「昨日の話は覚えてる?君の異能は、もしかすると昨日みたいな奴らに狙われるかもしれないって。用心はしておいた方が良いと思って。ここならお父さんもいるし…きっと、安全だと思うの」
「俺は別にかまわねえぞ」
俺が朝チュン時からなるべく視界に入れないようにしていた霊長類動物も、賛同してくれるらしい。でも、そっちのフラグと好感度MAXはご遠慮したい。心の底から、ご遠慮したい……今の言葉、ゴリラ語から人間語に翻訳するところの、「私はべっ別にかまわないんだからね!」とかじゃないよね?まさかね???
「どう?君さえ良ければ、私は…そうして欲しいのだけれど…」
俯き加減にチラチラと俺の顔をうかがうメリア先生。まずい。これは破壊力が大きすぎる。
「わ、わかりました!」
もう、俺に許された選択肢ってこれしかないよね。別に寮に愛着あるわけでもないし。
それに…一緒に住んでれば、メリア先生とのムフフ関連なイベントも、まれに偶然に起こっちゃったりするかもしれないじゃん??きっとそれは、ごく自然で仕方のないことだと思うんだ。うん。
あれ?でも、俺、どこに寝るんだろ…まさか…またゴリラの……………ま、まさかね?
「よかった!じゃあ、早速君用のベッドと合鍵を用意するわね!部屋も掃除しておかないとね!」
よかった!!!!本当に良かった………!!!
メリア先生、本当にありがとう!!!
そうして俺は、玄野家に居候することになったのだった。
◇◇◇
「じゃあ、行って来ます!」
朝食をとり終えて、俺は学校に向かった。
玄野家は俺が寄宿していた寮とそんなに離れていない。なので、登校経路もだいたい同じような感じだ。
曲がり角を曲がると、二人の人物が歩いてるのが見えた。
「あれは…赤井と、神楽さんか?」
二人も俺の存在に気がつき、声をかけて来た。
「芹澤くん!怪我はもう大丈夫?」
「ああ、大丈夫、快調だよ。おかげさまで。」
神楽さんは昨日、あの白衣の男が校長にボコボコにされ、メリア先生と俺の話が終わった後ずっと彼女の異能『【傷を癒す者】』で傷を癒してくれていたのだ。
本当に、彼女は健気で良い子だ。能力もメチャクチャ役に立つし。これで「レベル1」っておかしくね?絶対評価間違ってるよね?
「昨日は…悪かったな。本当に助かった。」
そして、赤井。あの後、赤井は俺に何度も頭を下げて来た。
言葉少なでぶっきらぼうだが、まあ、実は結構イイやつだったりする。神楽さんが庇うのもうなづける。
なんだかんだで、2時間以上のフルマラソンを走りきった後であの戦闘をしていたというのだから驚いた。
よっぽど、コイツにとっては神楽さんが大事なんだろう。
この二人は、悔しいが、誰も付け入る隙のない、良カップルだ。
「ああ、こっちこそお前が来てくれなきゃ本当にやばかった。あいつ…タロウにも随分助けられちまったから、今度お礼の肉でも持って行こうと思ってる」
「ハハ、そりゃ良いな。一番のファインプレイはあいつかもなァ」
「うん、タロウも喜ぶと思うよ!」
ああ、なんか、これだ。
俺が求めていた高校生活ってこういう感じだ!
なんか、これぞ青春な感じ。
そうだ。俺の充実した高校生活はここから始まるんだ!!!
◇◇◇
スンスンスン。
「女性の匂いがするね。」
そして俺が忘れたい、消去したい高校生活がここにある。
「鼻を近づけるな鼻を。ていうか、近寄るんじゃねえ。」
「そうかぁ?そんなに匂いするか?わっかんねぇな?」
「お前もだモヤシ野郎!とにかく顔を近づけるんじゃねえ!」
俺は、また植木ヒトシと御堂スグルに囲まれていた。
メリア先生との同棲の件、こいつらだけには知られたくない。
何を言い出すかわかりゃあしない。
こいつらにだけは、絶対に秘密にしてやる。
その片鱗も知らせてやるものか。
俺がそう心に誓っていると…
「この香りは…保健室のメリア先生だね?」
…
…
…この変態、すごい。
残り香だけで当てやがった…!
俺が戦慄を覚えていると…
「それも、この匂いは、今朝ついたものだね?おそらく、朝…彼女と何らかの接触があった。違うかい?」
「………………いや、全然まったく心あたりがありませんな」
何だ、この変態は。
なぜそこまでわかる!?
そうだよ。朝、やってくれたんだよ!「あっ寝癖ついてる」って。直してくれたんだよ!
「そうかい。君がそういうなら仕方がない。でも、ちょっとわからないことがあるんだよ。不可解というか…」
「……何のことだ、それは?」
…この変態でもわからないことがあるのか?
これはチャンスだ!
ここから奴の推理を突き崩すのだ!!
「君からいつもと違う家の匂いがする。」
この変態。
…
…
やばい。
なぜ俺のいつもの匂いを覚えている!?
いや、今はそこではない。心を乱すな。奴のペースに引きずり込まれるな。
「それがどうした?それがメリア先生と、一体何の関係があるのかな?」
俺は、とにかくシラを切った。
「それはね。君から漂うその匂いは…メリア先生の家の匂いだからだ。何でだろうね?」
奴はそう言いながら鋭い視線を俺に向けた。
…
いや…待て!!!
待て待て待て!!!!
おかしい!!!!
絶対におかしい!!!
何でお前がその匂いを知っている!???
何でメリア先生の家の匂いを断定できる!???
「な、何でそんなこと、断定できるのかな?そんなこと…」
不可能だ、俺はそう言おうとしたが…
「簡単なことさ。それは、僕が既にこの学校全ての女性の家の匂いを覚えているからだよ」
…
待て。
待て待て。
まだ入学から三日だよ?
じゃなくて!!!!!
な、なぜお前がその住所等の個人情報を知っている!?全校の!?
先生も含めてだよな!?どうやって!!???
「い、異議ありッ!!!お前が全校生徒の住所なんて知っているわけが…!」
「なに…僕の能力『【姿を隠す者】』レベル1を持ってすれば、簡単さ。職員室に資料はゴマンとあるからね」
…
こいつ…
職員室に忍び込んだのか!?
それも、あの化け物揃いの職員たちから…情報を盗み出しただと!?
鑑定官さん!!!!!
こいつの脅威度低く見積もりすぎですよ!!!!!
こいつが「レベル1」??? 3か4の間違いじゃないですかねぇ!???
そして変態は言った。
「そして、君についているメリア先生宅の匂いは一時間やそこらで付くような、生易しい付き方じゃない。それは、少なくとも数時間、そこにいなければ説明がつかないんだ。」
俺は、もう、力なく無言で佇んでいた。
「つまり…そこから導かれる結論として…君は昨日、メリア先生の家にお泊まりした。そして、朝、何らかの理由でイチャついた。違うかい?」
…
俺はその場に崩れ落ちた。
「ち、違うんです……これには、理由が…ちゃんとした理由が……」
そして、モヤシ野郎が言い放った。
「判決を言い渡すッ!!!有罪ッ!!!!!!」
まだ、被告側の主張が終わってねえよ!!!!!
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