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120 森の中の戦争21 地駆ける雷神6

今回とっても長いです。

「……本当に生き返ったみたいだな……嘘みたいに傷が治ってる」


 体に力が溢れてくるのが分かる。どこにも痛みはない。それどころか今まで大怪我をしていたのが嘘みたいに思える万全の状態。


「これ、お前がやってくれたんだよな……シロ?」


 シロは答える代わりに、小狐の姿で無言で俺の足にすり寄ってきた。その姿は白く輝き、何か幻想的な生き物のように見える。


「それにしても……酷いな、これ」


 頭がはっきりしたところで俺が辺りを見回すと、そこには見渡す限りの焼け野原が拡がっていた。さっきは意識が朦朧として気がつかなかったが……本当に酷い有様だ。いや、この規模の破壊って……他のみんなは、無事なのか?


『大丈夫なのじゃ マイが治してるのじゃ』


 俺の思考を読んだのか、シロが心の中に話しかけて来る。治してる、ってことは、傷を負ったってことだよな……俺のせいで。いや、今は無事だということを確認できただけで良しとしよう。


 俺は今、目の前にいる敵と向き合わなきゃいけない。


「……あいつら……どうなったんだ……?」


 目の前であの二人の男が起き上がろうとしている。何があったかは分からないが、今まで地面に倒れていた。見た感じかなりのダメージを負っている。

 だが、コイツらは強い。手負いだからって油断はできない。

 俺がそう思って警戒して身構えていると、


「あ、ダメだよ。また危ないことする気だろ」


 ドゴン!!

 誰かの低い声がしたかと思うと、閃光と轟音。

 二人は大きな雷に撃たれ、再び地面に倒れた。


「…………は…………???」


 突然の事態に困惑する俺。今、横方向(・・・)から雷が落ちたような気がしたけど……?

 見れば、その発生源は縄文人のようなヒゲを生やしたゴツい風体の大男。俺はその顔には見覚えがあった。


「あれ、もしかして轟先輩?」

「……ん? 芹澤くんか? 何してるんだこんなところで」

「いや、何してるって……先輩こそなんでここに?」

「はは、俺か? 俺のはお務めってやつだよ。学校から出動要請があったからな」

「……学校からの出動要請?」


 よくわからないが、つまり、先輩は俺たちを助けに来てくれたってことだろうか。


「ちゃんと給料も出るんだぞ? まあ、いらないけどな!」


 給料いらないとかうらやましい……それなら俺にくれよ。いや。ちょっと待て。なんでこの人がここに来れたんだ? この人無限に自家発電する危険な能力のせいで学校の裏山に封印されてた筈では?


「先輩って、山の外には出られないはずなんじゃ? どうやってここまで来たんですか?」

「そこは水沢のやつが上手くやってくれるんだ。色々と金とか下準備が必要らしいんだけどな」

「水沢先輩が?」


 色々と状況がつかめないけど、水沢先輩がどうにかこの人をここまで運んだってことか? どうやったのか気になるところだけど……。


「あいつには苦労かけてるから謝礼を多めに渡したいんだが、全然受け取らないんだよ。何でだと思う? 芹澤くん」


 まあそれも、確かに気になることは気になるが。呑気にそんな話をしている場面じゃないような気がするぞ。


「先輩……その話はあとでってことにしません? まだ色々危険なんですよ、ここ」

「ああ、そういえば……この辺りに『敵』がいるって聞いたんだが、どこだ? 見当たらないんだが」


 不思議そうにぐるりと辺りを見回す轟先輩。


「どこって……今、そいつらがぶっ倒れたのって、先輩がやったからなんじゃ……???」

「ああ、やっぱりこいつらが『敵』ってことでいいのか? じゃあ、今から倒してしまっても問題ないかな?」

「……えっ……? 今から……?」


 そう言って、倒れて動かない二人に向き直る先輩。先輩の体から起きている放電現象が、バチバチと強まって行くのを感じる。


 …………いや。いやいや……。

 ……もう十分倒してる気がするんですけど? この人、煙吐きながら昏倒してる相手に、これ以上何する気なの? どうやら、さっきのは攻撃のうちに入らないって認識らしい。


「いや、先輩……さすがにそれはちょっと……やりすぎっていうか……?」

「……ん? ダメなのか? そうか、わかった」


 そうして素直に俺の意見に従ってくれる轟先輩。放電現象が少し弱まった。

 ついでに、あいつらのことは脅威とすら認識してないらしい。水沢先輩の『非常識』呼ばわりも頷けるけど、この状況でこれ以上心強い味方はいないだろう。

 あの二人は再び立ち上がろうとしているが、そんなに不安感がない。


「フフ、元気になったようだね」

「……ホントに治ったのか? すげえな。ホントになんともねえの、それ? ……マジで? すげえな!!」


 どこからか現れた御堂(変態)にも礼を言っておく。復活した俺の体を何か珍しいモノのようにベタベタと触ってくる植木(バカ)にも一応。


「お前ら、ありがとうな。さっきは助かった…………っていうか触りすぎだろ!!? あとやたら叩くんじゃねえよ!? 痛いだろ!!?」


 接触どころかバンバンと背中や腹を叩き出したモヤシ野郎の手を俺が振り払うと、奴はいつも通りのニヤけた顔でこう言った。


「ホントに大丈夫みたいだな。これで貸し一つだぜ? 帰ったらなんかおごれよ? タダじゃねえからな!!」


 この状況で、こいつ……ブレねえな。「帰ったら」とかこういう時、死亡フラグでしかないから。でもまあ、助けられたのは確からしいし、それぐらいなら約束してやろう。


「ああ。感謝の気持ちを込めて、アイス1個ぐらいなら奢ってやる」

「……箱買いだからな?」


 ……。……お前のそういうセコいとこ、ある意味すごく尊敬するわ。


「じゃあ、僕らはもう行くよ。ここでは足手まといにしかならないからね」

「ああ……一発、用事(・・)を済ませてからだけどな?」


 そうして御堂はシロを抱え、ニヤリとした表情の植木と一緒に消えた。


「……ん?」


 俺はその時、(モヤシ野郎)の言葉と表情に一抹の違和感を感じた。

 どういうことだ? 用事? 一発?


 ……ああ、そうだな。そういうことか。


 あいつが……奴が、このままで終わるわけがない。

 俺の経験上、奴はピンポイントで、相手が絶妙に一番嫌がるタイミングで、やらかす(・・・・)

 奴は絶対にここで仕掛けるつもりだ。ほくそ笑んでいる顔が目に浮かぶようだ。


 奴はきっと……アレ(・・)をやるつもりだ。

 俺が昨日、散々やられたアレを。


 ああ……そう思うと、ちょっと腹が立って来たな……。

 ……さっきアイツらに簡単に礼なんか言ったの、早まったかな?

 確かに借りは作ったけど……まだそっち(・・・)の借りは返してねェからなッ……!!!


「なあ、芹澤くん。あいつらまた起き上がりそうだけど……どうすればいいんだ?」

「轟先輩……ちょっとあいつらのことは俺に任せてもらっていいですか? 俺が直接やりたいんで」

「ああ、いいぞ。任せるよ」


「……チッ……復讐って奴か? その歳でそんなことに手を染めるとロクな大人にならねえぞ、少年」

「そんなの、お前にだけは言われたくねえよ」


 俺は立ち上がって声をかけて来たスーツの男に適当に話を合わせるが、違う。そうじゃない。

 さっきまではそういう気持ちもあったけど、結局……あれは暗崎くんが作った『人形』だ。メリア先生は無事なんだ。冷静に考えて、怒る必要なんてない。

 さっきはどういうわけか、それを知りつつ、頭に血が上って逆上してしまったけど……いや、上るほど血はなかったか。まあいい。


「……でもまあ確かに……頭にきてるのには違いないかな……?」


 でも、それは目の前の男達(お前たち)にじゃない。

 むしろこの男達には、これから起きる大惨事(・・・)を思うと同情すら覚える。

 それよりも、俺が今、リアルタイムで腹を立ててるのは「あいつら」にだ。


 昨日、散々やられた、あいつらの俺に対する残虐非道な仕打ちを思い返して頭にきていた。

 ……いくら実戦形式の訓練だからって、やっていいことと悪いことがあるだろうがよッ……!!!


 そう思うと俺の握りこぶしに自然に力が入る。


「……どうした、少年」


 奴らは会話を続けながらこちらの様子を伺い、警戒している。

 俺がまた、何かをすると思っている。


「……別に。なんでもねえよ……」


 でももう、俺は何もしない(・・・・・・・)

 俺がすることは、それじゃない。

 こうやって奴らの注意をつなぎとめておくことだけだ。


 ――何かするのは、俺じゃない(・・・・・)


「じゃあ、行くぜ? ……覚悟しろよッ!!」


 そして俺は両手を意味ありげに、勢いよく奴らに向けた。


 実際、それはなんの意味のない、ただのフリ(・・)

 だが、俺の大げさな動作に奴らは大きく脚を開いて身構えた。


 …………そうそう、それそれ。それだよ。

 俺が待っていたのはその体勢(・・)だ。


 ――ここだ。準備は万端。


 そして俺は小さく、呟いた。


「……今だ。やっちまえ……植木ッ……!!」


 途端に、奴らの足元から突然、直径1メートル級の巨大なモヤシがとんでもないスピードで生え、スキンヘッドの大男とスーツの男の股間を強打した。


「お゛う゛ん゛ッ!?」

「ごばあ゛ッ!!?」


 そのままスキンヘッドの大男は盛りのついたオットセイのような声をあげて天高く打ち上げられていった。残念なことに、スーツの男は股間への直撃は回避したようだったが、それでも腹部にいいのを一発もらい、一緒に上空へと打ち上げられた。


「……結構、高く飛んだな……『点火(イグニッション)』ッ!!」


 心の準備を整えていた俺は、すぐに真上に飛んでいった奴らの後を追い、一瞬で追いつく。体調は万全だ。今の俺は結構な加速の負荷にも耐えられる。

 そして今、目の前には白目を剥いて空中で舞い踊る二人の男の姿があった。


「さて、と」


 体が万全の状態になり、俺は色々とこれまでのことを思い出した。

 そしてとりあえず今、優先して為すべきことを理解していた。


 すなわち、それは「奴らを逃がすこと(・・・・・・・・)」。


 ……さっき、サツキ先生は俺に「もう追わなくていい」と、そうハッキリ言ってたんだ。リアルすぎて本物と間違えたメリア先生人形の首チョンパも、彼女達によってあらかじめ仕組まれてたと考えた方がいい。

 その上で、それを『敢えてやらせて』あいつらを帰してやる。

 冷静に状況を考えて見ると、それが彼女たちが導いた方針だってことが分かる。


 俺にはそういう難しい戦略とかさっぱりだ。

 だから下手に考えることは放棄して、彼女たちの決めたことに従う。

 だからもう、俺はあいつらを叩きのめすとか、ぶっ潰すこととかは考えてない。


 ……でも……でもさ?

 ちょっとぐらい仕返ししたっていいじゃん?

 こいつらのおかげで俺、なんども死にかけたわけだしさ。それにここに訓練しに来てたみんなも、死にかけた。


 ……そう思うと、割と本気の怒りを覚えるが、意識的に頭を冷やし、抑え込む。またあいつら(・・・・)が出てきたら、シャレにならない。


 ゆえに、俺は心は般若でも表情はスマイル。意識して、満面の笑みを作る。絶対に怒りに任せて本気でブン殴ったりしてはいけないのだ。だから俺は、ほんの少し……ほんの少〜しのお返しの意味を込めて、腕をすこーし振りかぶり、かる〜く、撫でるようなフォームで、


「飛んでけ、クソ野郎どもッ!!! 『熱化(ヒートアップ)』ッ!!!」


 思い切り(・・・・)空気をあたため、その衝撃でブン殴った。

 瞬間、眩い閃光と同時に爆音と爆風。

 二人まとめて、お空の彼方へとロケット弾の如くすっ飛んでいった。


「お〜、すげ〜飛んだ」


 うん。我慢しようと思ったけどダメでした!

 やっぱどう考えても無理でしょ? あのド外道どもを仏の心で許すとか。ましてや優しくお家に帰してやるとか、絶対、無理ッ!!!

 いくらニセモノだって分かったって、目の前でメリア先生の首チョンパとか本当にトラウマものである。アレ、間違っても十代半ばの青少年に見せちゃいけない映像だよ? あんなのは言語道断である。

 だからね、ついつい力が入っちゃったんだ! でも殺意なんか微塵もなかったよ! ほんのちょっと、これっぽっちもないとは言い切れないけど、あいつらがどっかに派手に墜落して大怪我しても、それは俺には全く関係のないことである(てへぺろ)。


 サツキ先生直伝の『全く反省してないてへぺろ』で内心を誤魔化しつつ、俺は上空から地面を見下ろす。破壊の跡が生々しい地上に、まだ異形の群れが大量に残っている。


「……あいつらも片付けなきゃな」


 遠くで他のみんなが戦っているのが見える。俺たちが寝泊まりしてたあたりに、ゾンビの如く異形が群がっている。あのままじゃ、まずい。

 俺が急いで地上に降りると、轟先輩も寄って来た異形の群れに囲まれつつあった。


「轟先輩! 急いであいつらを倒さなきゃなんですけど……」

「そうか、わかった」


 俺が言い終わる前に、轟先輩から巨大な稲妻が放たれ、近づいてきた異形の群れ全てを焼いた。……いや、ちょっと判断早すぎでしょ。


「「「……ォォオオオォォォ……!!!」」」


 丸焼けの異形の群れだが、まだ呻き声をあげている。奴らはまだ死んで(・・・)ない。

 先輩は奴らに倒し方があるのを知らないみたいだから、伝えなきゃいけない。


「あの、轟先輩……あいつらは頭を完全に焼き潰すとかしないと、また」


 バツン!!!

 また俺が全てを言い終わる前に、一筋の雷が迸った。

 遠くで再生しかかっていた異形が一体、頭部を雷に焼かれ、崩れて行くのが見える。

 いつの間にかその脇には轟先輩が立ち、崩れゆく異形を見下ろしていた。


「お〜い!! これでいいのか、芹澤く〜ん!?」


 かなり遠くから、俺の方に手を振って確認してくる先輩。

 っていうか……今そこまで移動した姿が全く見えなかったんですけど……?

 と思ったら、もう俺のすぐ脇にいた。


 ……あれ?


「あんな感じでいいのか? もう再生しないみたいだけど」

「あ、はい。確かにそれでいいんですけど……轟先輩? 今、凄い速さで動いたように思えたんですけど…………まさか能力的に、電気(・・)と同じ速さで動けるとか……? ハハ。そんなわけないですよね?」


 まあ、幾ら何でもそんな馬鹿な話は無いだろうと思いつつ、聞いてみたところ……。


「ハハ!! さすがにそれは無理だよ! 全力で走っても、それよりはちょっと遅いって水沢が言ってたぞ」


 ……ちょっと遅い? チョットってどういうこと??? それはさすがにおかしくない? 本気出せば音速を軽く超えられるってこと? ソニックブームとか発生しちゃうの……? ……まあ、いいや。もう、この人の事を考えるのはよそう。水沢先輩のこの人に対する扱いの意味が何となく分かりかけてきた気がする。


「……じゃあ、俺はあっちから順番に潰していきますから。先輩は反対側からお願いします」

「ああ、わかった。行ってくる」


 そうして俺は轟先輩が轟音を響かせながら走り去って行くのを見届けると、目の前の異形の頭に狙いを定め、指先から放つ『熱線(ヒートレイ)』で一体一体、焼いて弔っていく。

 そして、周りにいなくなったら、また次の群れへ加速して、また倒す。その繰り返しの中で、だんだんとコツを掴んでいく。


「『熱線(ヒートレイ)』」


 ペースを崩さず、冷静に。

 でも、できるだけ急がなきゃいけない。

 そう思いながら、同時に2体。次は3体。動きながら(・・・・・)放つ『熱線(ヒートレイ)』の扱い方にも慣れていく。さっきは「とても簡単だ」なんて思ってやってたのだが……今は全然、難しい。

 でも、やってできない事はない。一体一体、動きつつ瞬間的に焦点を定めながら、最大限に神経を研ぎ澄ませ、撃つ。

 神経と集中力がガリガリと削られていくのを感じるが、それに俺は慣れていく。無理矢理にでも、体を、神経をそれに馴らしていく。


 ……これ以上、「あいつら」に好き放題やられないためには、俺自身が強くならなきゃいけないから。

 もう二度と、意識を手放して周りを危険な目に合わせちゃいけないから。

 できるだけ、この力の使いかたを学んでおく必要がある。


 にしても、あの『声』……子供の声みたいだけど、なんなんだろな?

 そういや校長(ゴリラ)にも聞こえてるらしいし、今度聞いてみようか。

 そんなことを思いながら、俺はどんどん今の動きに慣れ、『異形』の群れを倒すペースを加速させて行った。




 ◇◇◇





「「「……ォォオオオオオオオオオオオオオオオォォォ……!!!」」」


 数千体の『異形』の群れは、今や完全に訓練生たちの集う場所を包囲していた。群れは前進を続けながらすぐそこまで迫り、戦える者は殆どが負傷し、霧島サツキ、赤井ツバサと氷川タケルが前線で辛うじて戦線を保ち、残る者が円陣を組んで非戦闘系の生徒や負傷のひどい者を守り、耐えている状態。

 しかし、訓練生たちを守る重要な防壁となっていた土の壁も崩れ、もはやその場所は拠点としての体すら保っていなかった。

 異形の一体一体の力は強くない。だが、あまりにも多勢に無勢。群れの進行速度に対して、倒し切るスピードが間に合わない。倒しても倒しても一向に数の減らない数千(・・)の異形を前に、何処かから戦線が崩壊するのも時間の問題……誰の目にも、それが明らかに見て取れた。


「……やっぱり、弾薬が足りなかったわね」


 そうして、弓野ミハルが最後の弾丸をライフルに詰め、撃ち切った。

 これでもう、自分にできる事は何もない。

 弓野はそう思い、目の前に迫った群れを見ることを辞め、目を閉じて天を仰ぐ。


「「「……ォォオオオオオオオオオオオオオオオオオォォォ……!!!」」」


 あの呻き声の主達が近づいて来る。全方位から響き、次第に大きくなっていく不気味な声の合唱に弓野は肩を震わせる。

 自分はここで生涯を終えることになる。その時は間近に迫っている。それが怖いかといえばその通りだし、悲しいかといえばそれもそうだ。でもやはり、自分の無力に(いきどお)りを覚える。


「……もう少し、私に力があればな……」


 自分より弱い、数人の生徒たちを守ってあげられたかもしれない。

 思わず、弓野がそんなことを呟いたその時だった。


 激しい雷鳴と共に、眼の端に一筋の稲妻が走ったように見えた。驚いて振り向くと、その雷光が走り抜けた後に残った異形は一体残らず皆、崩れ去っていた。


「なに……今のは……?」


 少し遅れて――反対側。

 一つの人影が細い光を放ちながら高速で過ぎ去ったかと思うと、辺りに一陣の風が吹いた。そうして吹き抜ける突風と共に群れていた異形の頭が次々に爆散し、残りの体も薙ぎ倒されるように吹き飛ばされていく。


 ――雷が過ぎ去ったのは、ほんの一瞬。

 ――風が通り過ぎたのは、時間にして数秒。


 その間に、視界全てを覆わんばかりに群れていた数千の『異形』の群れが殆ど一掃されたのだ。それは弓野にとって……そこに居た他の誰にとっても、信じられない光景だった。


「…………今のは…………?」


「あれは芹澤くんだよ、弓野さん」


 突然背後から現れた御堂スグルに驚くでもなく、弓野ミハルは言葉を続ける。


「……分かってるわ。ちゃんと視えた(・・・)から。でも……本当にあの芹澤くんなの?」

「フフ、見ても信じられないかい? ……僕だってそうさ。一体……彼はどこまで強くなるんだろうね」


 そう言って少し短くなった自慢のサラサラヘアーを搔き上げる、御堂スグル。


「そうね……あんなの、同じ人間だなんて信じられる方がどうかしてるかもね」


 そう言いつつも、弓野の表情は安堵の笑みに包まれていた。


 周囲の異形が一掃され、辺りの見通しがとても良くなった。その為、弓野にはその光景がよく見えていた。遠くで何度も稲妻が走り、轟音が響く。その度に異形の姿が消えていく。少し遅れて、高速で動きながら光を放つ存在が稲妻を追い、残った異形を残らず駆逐していくのが見えた。


「でも、あいつバカだからな? 無茶して肝心なところでミスるのが関の山だろ」

「フフ……その時は僕らでまた助けに行ってあげる必要があるかもね」

「ああ……でも、絶対タダじゃねえからな? 次は特盛ラーメン三杯ぐらいは奢らせてやる」

「……植木くんも……大概ね」


 三人がそんな会話をしていると、背後でドサリ、と何かが倒れる音がした。


「……シロ……!?」


 振り返ると……その身体を抱き上げ、必死に呼び掛ける玄野メリアの腕の中で、白い狐が淡い光に包まれ意識を失っていた。

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///


これにて長かった『森の中の戦争』は終結。

次章に向けて進みます。


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また、もし書籍版入手した方がいらっしゃいましたら、感想などお聞かせくだされば超嬉しいです!

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