12 不吉な羽の音
「あいつが…誘拐犯か?」
神楽の無事を確認した赤井ツバサは、冷静に…一見冷静に迷彩ジャケットの男を見つめていた。
先ほど、迷彩ジャケットの男は、あの犬…タロウの弾丸のような体当たりを受けてかなり吹っ飛ばされていた。
でも、もう既に立ち上がり余裕の表情で佇んでいる。
「チッ…やれやれ…犬と…またガキが増えやがった…依頼者との待ち合わせ時間まであと少しだってのによ…」
少しもダメージを負った様子がない。
俺はあいつの一撃で戦闘不能だったってのに。
なんてタフな奴だ。
「今日は大事な取引なんだ。ちっと急ぎ目に、死んでくれや?」
そう言うと、迷彩ジャケットの男は赤井に向かって突進した。
速い!!
でも今回ははっきり見えた。
あいつは足からも手のようなものを生やして、それで地面を押して加速している。
異常な加速はそのせいだ。
そして高速で赤井に近づき、今度は身体中から「腕」を生やしてそれで殴ろうとしている。
だが、迷彩ジャケットの男が赤井の直近まで近づいたその時…急に奴の動きが反れた。
「チッ…危ねえことするなァ、兄ちゃん」
見れば、男のジャケットの裾が黒く焦げ、煙を出している。
赤井の体にはゆらゆらとした、陽炎のようなものが漂っている。
「遠慮しないで来いよ、オッサン?黒焦げにしてやるから。俺は今、怒ってンだよ…なあ、分かるか???」
そう言うと…赤井の周りに真っ赤な炎が立ち昇り始めた。それは、次第に大きくなり…赤井の全身を包み込んだ。
「骨まで焼き尽くしてやる…『火球』ッ!!!!!」
赤井が手をかざすと、掌から直径1メートルぐらいの火の玉が吹き出て…迷彩ジャケットの男に向かって高速で飛んで行った。
それも…一発でなく、何発も同時にだ。
ドドッ!!ドドドッ!!!ドドッ!!!!!!!!
轟音とともに、火の玉はコンクリートの壁に衝突し、見る間に壁を削り、破壊していく。
迷彩ジャケットの男は、それを高速の動きで難なく避けている。
隙を伺っては赤井に詰め寄り、崩れ落ちたコンクリート瓦礫を投げつけ攻撃に転じようとするが、赤井も即座にそれに対応し炎で撃ち落とす。
火球の連射と、高速の瓦礫の応酬。
なんていうレベルの戦いだ。これは、もう人間の戦いじゃない。
完全に…異能者同士の争いだ。
でも………まずいな。
攻撃能力では赤井が上だ。
明らかに押しているように見える。
だが、まずいことに赤井の動きがだんだん鈍くなりつつある。
最初と比べて、戦闘のテンポに明らかに陰りが見える。
対して、あの迷彩ジャケットの男は全く疲労の色がない。
スタミナに大分、差があるのだ。
間違いない。あいつは、それを見越して冷静に戦闘の流れを作っている。
このままでは…
「芹澤くん…大丈夫…?」
神楽さん…彼女は、先ほどから彼女の異能『【傷を癒す者】』で俺の傷を癒してくれている。さすがに折れた骨はすぐにはくっつかないと思うが、痛みは大分和らいでいる。
そして、先ほどから彼女の飼い犬だと言うタロウは神楽さんの脇で彼女を守るように立っている。正体はなんだかよくわからないが、「風のようなもの」を操って、さっきからこちらに来る瓦礫や破片などを全て防いでくれている。
「ああ、おかげで大分、痛みが和らいだよ」
「…まだ、全然治ってないよ…それでも、行くの…?」
「あいつにだけ、任せておく訳にもいかないしな…」
それだけ言うと、俺は…あの化け物たちの戦場に向かって一直線に走り出した。
そしてー
ブボボバァッ!!!
俺は赤井ツバサの放った1メートル級の火球の群れに頭から突っ込んだ。
「!? なっあいつっ!?死…」
「せっ!?芹澤くんッ!!!??」
俺は、赤井のことを恐れていた。
あいつは自分では絶対にかなわない、全国ニュースになるような大事件を引き起こしたような危ないやつだと。
戦場で無双できるような<一線級>評価の奴に勝てっこない、と。
でも、冷静に考えてみれば、俺はあいつを少しも恐れる必要なんてなかったんだ。
そう、特に俺に限っては全然まったく、恐れる必要なんて、ない。
なぜならー
俺は『【温度を変える者】』、レベル1。
ほらやっぱ、火の玉に触れても熱さとか、感じないから。
ほらね。うん。最初っからわかってたって!絶対大丈夫だって!
別にビビってないからな?ほんとだよ?
俺は火の玉の中を通り抜け、一直線に迷彩ジャケットの男に駆け寄った。
そして面食らった表情の迷彩ジャケットのエセミリタリー野郎を睨みつけー
「お返しだッ!!!!!このクソダサジャケット野郎ッ!!!!!」
ボゴッ!!!
渾身の力で、思いっ切り顔面を殴りつけてやった。
「えぐぁッ!!?」
あ、たった一撃で骨に響いてきやがった。また、折れたかも。
しかし、俺の一撃で一瞬動きが止まった奴は、俺と一緒に、次々に赤井が放った火球に包まれ…
ドドッ!!ドドドッ!!!ドドッ!!!!!!!!
巨大な火柱が立った後に残ったのは、
無傷の俺と黒焦げのジャケットを纏った黒焦げの男。
そして男は…………そのまま地面に倒れ伏した。
だが、まだ息はあるはずだ。
多分、死んではいない。
間際で俺がそういう「丁度いい温度」に加減したからだ。
こいつには色々と、黒幕のことも喋ってもらわなければならないからなぁ!
だってそういうの、ドラマとか小説だと鉄板じゃん?
こいつも「依頼者」なんていうワード出してたしさ。追い詰めてもらうべきじゃん?然るべき公権力に。
俺、もう、二度とこんなの御免だし。
たっぷり取調室の中でクサい飯食いやがれッ!!!!
フハハハハハッ!!!
俺が、そんな風に勝ち誇っていると…
バババババババババ!!!
と、外から何か、ヘリコプターの羽のような音が聞こえ…
『『『時刻だ。商品を渡してもらおう。』』』
スピーカーを通した、不吉な音声が聞こえてきたのだった。
人物ファイル015
NAME : 不明(迷彩ジャケットの男)
CLASS : 【腕を生やす者】S-LEVEL 3
依頼を受け、非合法な活動をする第3派閥の男。体のどこからでも「腕」を生やすことができる異能をもつ。腕の力は一本あたりの力が本人の腕力と等しく、物理的な空間が許せば、いくらでも出すことができる。その力で高速機動戦闘や怪力による攻撃を繰り出す。性格は非常に冷酷で利己的。自らの部下も単なる道具としてしか見ない。好きなものは、金。
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