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118 森の中の戦争19 地駆ける雷神4

 その時、御堂スグルは珍しく怒っていた。

 他ならぬ彼が『親友』と呼んで憚らない芹澤アツシに対し、強い苛立ちを(あらわ)にしていた。


「なんてことをするんだ、芹澤くん……!! あれほど動いては駄目だと言ったのにッ……!! 君はもう、そんなことができる身体じゃないんだッ……!!!」


 御堂は先ほど、芹澤を瀕死の重傷と判断し、自らの能力【姿を隠す者(サイトアヴォイダー)】で『隠して』背後に寝かせて置いてきた。予断を許さない危険な状態だとは分かっているが、こうすれば彼は敵の追跡から逃れられるし、ひとまず安全に過ごせる。

 その間に何か活路を見出さなければならない。


 ……そう思って、植木ヒトシと二人で出てきたつもりだった。


 だが芹澤は自分たちが彼の元を離れた後、どういうわけか自力で強引に立ち上がり、直後、ドサリと地面に倒れこんだ。むしろ勢いから言うと「叩きつけられた」と言う方が正しいかもしれない。

 すでに深刻なダメージを負っている彼にとって、即座に致命傷になりかねない衝撃。地面に広がった血溜まりが飛び散り、辺りを一段と赤黒く染めた。


 それだけでも、目も当てられない程の大惨事だったのに。


 彼の行動はもっと深刻な状況の引き金となった。

 御堂の異能はあらゆるものの『姿を隠す(不可視化する)』能力だが、自ら攻勢に出たり、わざと相手にサインを出すようなことをしたら、それは効果が消えてしまう。


 すなわち――


「……いたな、向こうだ」

「ああ。急いで『根源系(芹澤アツシ)』を確保しろ」


 芹澤アツシが派手に地面に倒れたその瞬間、二人の男が彼の居場所を察知した。


「……まずいッ!!!」


 二人の男が即座に芹澤アツシの元へと走るのが見える。

 御堂は焦った。自分は一歩、出遅れた。

 動揺に我を忘れ、対応が遅れた。それはこの場面において、致命的なミスだった。

 二人の移動速度は速く、今から追っても追いつけそうもない。

 このままでは(芹澤)は奴らに連れて行かれてしまうだろう。それも、先ほどの会話内容からすると、何かの研究材料(サンプル)として連れ帰られる。


「させるかよッ!! 『促成栽培(グロウアップ)』ッ!!」


 その瞬間、先に動いたのは植木ヒトシだった。


「なッ!?」

「チィッ……!!」


 植木の能力【植物を成長させる者(プラントグロワー)】で直径1メートルほどの巨大なモヤシが出現し、二人の男を大砲の如く襲うが、男達は豪速で迫る珍奇な植物を間一髪のタイミングで躱した。


 すると……二人の男の視界には、黒髪ツンツン頭の少年の姿が蜃気楼のように現れた。


 距離にして、数メートル。

 目と鼻の先の距離に潜んでいた少年は、二人の襲撃者の視線を同時に受ける。

 攻撃を仕掛けたことで御堂の能力の恩恵は解除され、植木は完全に敵に認知されてしまった。


「姿を現したか……こんな近くに隠れていやがったとはな」

「待て、油断するな。姿を消す異能者は奴ではない。他にいるはずだ」


 刺すような殺気を向けて来る二人に対して、植木ヒトシは舌打ちをしながら向き直った。


「ちっ、外したかッ。だが…………まだまだこれからだぜッ!!! 俺の真価はなッ!!」


 いつものように大げさな身振りで、当たり前のように二人を挑発しにかかる植木だったが……その状況に御堂スグルは内心頭を抱えていた。

 植木は不意打ちの技術()こそ長けているが、それ以外は一般人だ。戦闘技術に関しては自分とは違って(・・・・・・・)、素人でしかない。真正面から彼らと戦って勝てるはずがない。御堂は危険な場所にそんな友人を連れてきてしまった自分の思慮の甘さに、苛立ちを覚える。


「……遠い……! あと少しでも近くにいてくれたら……!」


 思わず、叶わぬと知っている願望が口から出た。

 御堂の『隠蔽(ハイディング)』は一度触れたものを対象となる者の認識から消すことで、ほぼ完璧に「不可視化(見えなく)」することが出来る能力だ。反面、一度認知されてしまうと再び御堂が触れない限り再び姿を消すことができない。自分はすぐにでも彼の所にたどり着く必要がある。

 ――だが、自分と植木の間には少し距離がある。

 この距離感から、植木が致命傷を受ける前に近づいて救出することなど不可能だ。

 そう判断し、御堂は大きく息を吸い込み、植木に向かって大声で叫んだ。


「植木くんッ!! 動きを止めるなッ!! すぐにこっちへ!!」


 その瞬間、御堂の姿を隠している能力『雲隠(ハイディング)』が解除され、二人の男の視線が一斉に御堂スグルに注がれる。それが御堂の意図したことだった。今はこれしか手がない。少しでも時間を稼ぎ、植木の元へと近づくのだ。叫ぶと同時に御堂は全力で地を蹴り、走り始めた。


「いたぞ、奴だ。【姿を隠す者(サイトアヴォイダー)】、『御堂スグル』。奴は厄介(・・)だ。すぐに消せ」

「わざわざ自分から出てくるとは……仲間想いのイイ奴じゃねえか。だが――」


 若干くたびれたダークスーツを着た男の姿が不意に歪んだ(・・・)かと思うと、直後、走る御堂スグルの背後に移動した。


「――そういう奴から先に死ぬ」


 御堂スグルは全身が総毛立つような悪寒を感じ、反射的に大きく()()った。その動作は完全に勘だったが、仰け反ると同時に背後から放たれた斬撃……否、陽炎のような奇妙な空間の『歪み(・・)』が先ほどまで自分の首筋のあった場所を通過し、数瞬遅れた自分の金髪サラサラヘアーを切断するのをしっかりと目にした。


「……おいおい、お前も今のタイミングで躱すのかよ。どうしてこう、バケモン揃いなんだ? 昨今の若者は」


 そう呟いた細身のスーツの男は再び『歪み』による空間の断裂(・・)を繰り出してくる。御堂スグルはどうにかそれらの「起こり」を見極め、時には完全に勘に頼りきり、当たれば即死確実の『歪みの膜』を躱していく。

 実際、それは純粋な賭けだった。右か左か。上か後ろか。次にどちらから攻撃が来るか勘で当てるゲーム。賭けが外れたら、その瞬間に自分の命は終わる。そんな一方的なデスゲームを、二度、三度と突きつけられる度に御堂の首筋は寒くなる。

 そして何とか四度目をやり過ごし、次の五度目の死線で早くも悟った。



 ――自分はどう足掻いても、この男には勝てない。



 再び自分が【姿を隠す者(サイトアヴォイダー)】で姿を隠すには、一瞬だけ相手の視線を外す必要がある。だがこの男はそんな生易しい敵ではない。それどころか、一瞬たりともこちらの一挙一動を見逃さない。冷静にこちらの動きを観察した上で、動作に虚実を織り交ぜながら確実に追い詰めて来る。


 この男と自分の間には、今この瞬間まで身体を断たれていないことが不思議なくらいの隔絶した力量差がある。それを御堂は感じていた。

 自分と植木ヒトシの二人で臨めば何かしらの活路(チャンス)があるという自分の見込みは、とんでもなく甘かったのだ。御堂の背筋に冷たい汗が流れる。もう、自分が八つ裂きにされてしまうのは遠くない未来だと言うことは分かり始めている。死は、確実なものとしてすぐそこにある。


 自分はそろそろ殺される。

 そんなことはわかっている……だが、その前に。

 たった今、もっと間近に死が迫っている人物がいるのだ。

 ここで自分が諦めることなどできるはずもない。


 十数メートル先に血まみれで倒れる同級生、芹澤アツシの姿を目端に捉えながら、御堂スグルは必死で考えを巡らせていた。


「……くそッ……! ……芹澤くん……! このままでは彼は……!!」


 今、敵の攻撃はかろうじて回避はできているが、この手練れの男と防戦一方で持久戦に持ち込む自信などない。仮にそれができたとして……このまま時間をいたずらに経過させた所で、彼を救うことはできない。

 自分の存在を初めて(・・・)認めてくれた、彼にとっての第一の親友……『芹澤アツシ』の命が先に尽きる。

 それが、御堂スグルには許せなかった。

 こんな時に、彼に大きな借りがあるはずの自分が何もしてやれないことが悔しくて、焦っていた。何か方法は。活路は?


 駄目だ、何も思いつかない。

 ならば、いっそ自分の四肢の一部を犠牲にしてでも、無理矢理この男の脇を抜けてやる。そうすれば――僅かな可能性だが、植木に接触することが出来るかもしれない。

 そんな強引な考えしか、今の御堂の頭には浮かばなくなっていた。珍しく冷静さを失い、本当に焦っていた。


「……もう時間がない。行こう」


 御堂が覚悟を決めた、その瞬間――



「――ッ!?」



 辺り一帯を眩い閃光が覆う。

 さらにすぐ近くで落雷が起こったかのような。

 大気を切り裂き、大地を震わす轟音が響く。



「……なんだ……今のは……!?」



 その場に居る全員が「大きな音を立てる何か」がものすごい勢いで近づいて来るのを感じた。焼けた森全体に轟くような爆音と、閃光を引き連れながら迫る、何者(・・)か。何かは分からないが、どう考えても新たな脅威がここに迫っている。その場にいた全員が、それを感じ身構えた。


「念のため警戒しろ。敵の増援かもしれん」


 そう言った背の高いスキンヘッドの男が『透明な壁』を展開した、その直後だった。


 ――ドゴン!!


 視界を潰すような巨大な閃光と、耳をつん裂くような雷鳴。


 同時に高速で飛び来る何者か(・・・)がその『壁』に激突し、辺りに強烈な衝撃波を巻き起こした。焼け焦げ、荒れ果てた大地がさらに抉られ、御堂と植木はその衝撃で思い切り吹き飛ばされた。


「「……なッ……!?」」


 たまたまタイミングよく直前で『壁』を展開していたことで、今の衝撃から身を守ることの出来た二人の男だったが、その表情は驚きに目を見開いている。

 彼らの目の前には……身体全体から閃光と火花を放ち、辺りを焼き焦がして煙を立てる、一人の帝変高校の制服を着た大男……しかも、どう見ても未成年には見えないアゴ髭を生やした原始人のような顔つきの男が立っていたのだ。


 その髭を生やした大男は、頭をぼりぼりと掻きながら、目の前の『透明な壁』の中にいる男たちに向けて、少し気恥ずかしそうに――


「いやあ。久々の運動で気持ちよく走り出したはいいものの……止まり方がワカらなくなってしまってなあ」


 しかし、とてもにこやかに。

 何の屈託も無い晴れやかな笑顔でこう言ったのだった。


「でも、あんたらがいい壁を作ってくれたおかげで何とか止まれたよ! 本当にありがとう! 助かったよ!」

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