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117 森の中の戦争18 地駆ける雷神3

「…………アツシ…………!!?」


 瓦礫混じりの荒れた地面に寝かされていたシロの身体が突然、ビクンと跳ね上がり、勢いよく起き上がったかと思うと耳と尻尾をピンと立て、慌ててあたりを見回しはじめた。


「……シロちゃん? 目が覚めたの!? 大丈夫!?」


 神楽マイはシロの様子に気づき、意識のない弓野ミハルを抱き抱えながら声を掛けた。


「マイ! 大変なのじゃ!! アツシが今、酷い怪我をしておるのじゃ!! 血が出てるのじゃ!!!」

「芹澤くんが?」


 シロは混乱した様子で神楽の胸に縋り付き、子供が泣き喚くように何かを訴えようとしている。その意味を神楽は察したようだったが、途端に難しい顔になった。


「早く! 早くしないとアツシが……!!!」

「わかった……!!でも今私は……!!」


 今、神楽は瀕死の負傷者達を休む事なく治療して回っていた。

 生徒たちは皆、一命は取り留めたものの身動きのできるものは殆んどいなかった。あの都市一つ滅ぼせそうなぐらいの圧倒的破壊。むしろ、誰も死者が出なかったことが有り得ないほどの幸運としか言えない状況だった。


「ごめん、まだ重傷の人が何人かいるの……!! 今すぐには……!!」


 爆発の衝撃で、氷川と土取が作り上げた数メートル厚の土と氷の隔壁(シェルター)は丸ごと打ち砕かれ、それはそのまま巨大な破片となって生徒たちに襲いかかった。

 幸い、暗崎の『暗闇(シャドウ)』の空間内に皆が避難していた為その直撃は逃れたが、その後も降り注ぐ熱線の嵐。氷川の能力で空間内を冷やし続けてなんとかそれを凌ぎ、衝撃と灼熱の波が収まり、やっとの思いでその空間から出られた時には皆、焼死寸前という有り様だった。


 何とかダメージを軽減出来ていた赤井と神楽が皆を助けて回り、やっと、話ができ動き回れる程度に回復した者が数名。その状態のまま、霧島サツキ教官とその他、戦闘の可能な数名は復活した異形の群れを食い止める為に出て行った。

 だが、まだ意識を取り戻していない者もいる。自分はここで治療を続けなければいけない。


「ダメなのじゃぁ……!! すぐに行かないと、アツシが……!!」


 だが、芹澤アツシも瀕死の重傷だという。神楽マイが自分がどうすべきか迷っていると、話を聞いて駆け寄って来た玄野メリアが彼女たちに声をかける。


「芹澤くんは生きているのね……? 行きましょう、神楽さん。重傷者の治療が終わり次第、すぐに。シロ、それで……」


「ダメじゃ!!! それじゃ、間に合わないのじゃ!!!」


 動物の本能か、芹澤アツシの異変を悟っていた。

 アツシの『中』にいるとき、シロは意識がだんだんと昏く冷たくなるのを感じていた。それはシロが知っている感覚。

 山でよく『話して』いた仲のいい鳥やケモノが、寒い冬の晩、同じように体温を失くしていく感じをシロはよく知っていた。それを心の中で感じた次の朝、その仲間に会いにいくと必ず、冷たくなってもう動かなくなっていた。そして、その仲間は二度と動くことはなかった。

 それを人間が何と呼ぶかはもう知っている。『死』だ。アツシは死ぬ。アツシはもう、長くない。生きていく為の『火』が消えかかっている。シロはそれを確かに感じていた。


「すぐじゃ!! すぐに行かないと間に合わないのじゃ……!!」


 シロは焦っていた。そして誰に教えられたわけでもなく、自分にできることを感覚でわかっていた。

 すなわち、他人の異能のイメージを自分に取り込む事で何が起きるのか、察知していた。見たものの姿を真似て、同じように真似られるように……この不思議な力にもそれが出来る。シロはそう思った。


「じゃから、マイ。お主の力、借りるぞ」

「……え?」


 その瞬間、神楽は自分の頭の中に何かが入って来るのを感じた。


「……シロちゃん?」


 心の奥底を覗き、力の源泉を『記憶(・・)』して持ち帰る。そうすれば……他人の力を自分も使うことができる。シロがそれが出来ると知っていた。そして今、それを実行した。


「まさか、シロ……!? 待って! それは駄目……!!」


 シロの意図に気がついたメリアはそれを止めようとする。


「そんなことをしたら、あなたは……!!!」


 だが、その制止の声は遅かった。遅すぎた。それはシロにとっては余りにも容易く、行為は一瞬のうちに終わっていた。


「アツシは儂が助けに行ってくるのじゃ!!」


 メリアの声には耳を貸さず、シロはそのまま駆け出したかと思うと、フッと姿を消した。




 ◇◇◇




 シロは焼け爛れ煙の立つ地面を人の姿で駆けながら、必死に考えていた。


 はやくアツシの所に行かなければならない。アツシの体温はもう、消えかけている。このままでは間に合わない。だから、急がなければならない。


 その為には、この二本足の姿のままでは駄目だ。

 もっと疾い姿にならなければならない。

 自分が一番速いと感じる形へと。


 でも、それは何だ?

 元の狐の四つ脚の姿……? 

 いや、それではそんなに変わらない。

 イノシシ……? それも違う。


 そうだ、鳥だ。

 『隼』。自分の山で一番速い者。あれなら、速い。思ったその瞬間にシロは姿を変え、羽ばたき、加速する。

 二本の脚で走っていた時とは比べ物にならないスピードで、焼け焦げ煙を昇らせる木々の間を、縫うように飛んでいく。


 だが、シロは考える。

 確かにこれは速い。ずっと速くなった。

 でも、これでも遅い。全然ダメだ。アツシの『火』はもう、消えかけている。あと数瞬のうちにあっけなく消える。こんなものでは到底、間に合わない。


 ――もっと速く。もっともっと、ずっと速く。でなければ、とてもアツシを助けられない。シロは使い慣れない二つの翼で力一杯、羽ばたきながら必死に考えた。


 ……そうだ、あれだ。


 使い慣れた四足を持つ、大きくて速いモノ。

 いつかアツシの家で、『タブレット』とかいう板で観た、大きな猫のような生き物。

 あれがいい。あれなら、もっと速い。

 だって、あの動く絵(・・・)では、風よりも疾く駆けていたのだから。

 そう思ったシロは、瞬時に純白の獣に姿を変え、4つの足で力一杯地面を踏み砕く(・・・・)

 その瞬間、衝撃と共にシロの身体は大きく加速し、視界が流れるのがわかった。

 これだ。これならもっと速い。これで進もう。

 シロは今、隼の数倍の速さで焼けた大地を削りながら踏み締めて駆ける架空の生物……『白虎』となった。

 空想上の生物に姿を変えたシロは、勢いを増し、必死に駆ける。次第に、人のような形をした化け物が沢山見えてきた。そいつらはシロを見つけ襲い掛かろうとするが、そんなのに構ってなど居られない。急げ。はやくアツシの元に辿り着かねばならない。

 その一心で、シロは突風のように邪魔な『異形(バケモノたち)』を薙ぎ倒しながら、ついさっきまで森だった焼けた大地を轟音を響かせながら駆けていく。


 だが、大きな体躯(からだ)で駆けながら、シロは考える。


 ……まだ駄目だ。まだ遅い。これでも駄目だ。すごく疾くはなったが、こんなものでは間に合わない。

 もっと速く。鋭く。でないと手遅れだ。間に合わない。

 あれらが、邪魔だ。異形の者。焦げた木々。あれを避けることなくまっすぐに貫いて、アツシの元に何よりも速く辿り着かねばならない。

 だから、シロは敵を避ける必要のない、まっすぐ進める何かをイメージした。


 なんでもいい。

 あのテレビとかいう板で見たもの。アツシの家で教えてもらったもの。

 とにかく速いもの。

 迷ってる時間なんかない。思いつくモノに手当たり次第に姿を変え、進んでいく。


 そうして、次第にシロは生物の形をとるのすら辞めた。一本の白い矢となり、一つの火を()く弾丸となり、それすらも遅く感じたその狐は、考える。


 駄目だ……こんなものではとても間に合わない。これでは、こんな速さでは――アツシの『火』が消えるまでには、絶対に間に合わない。


 まだ、自分にはアツシの姿すら見えていないというのに……あと、自分の心臓が数回打つ程度の短い(じかん)

 それでアツシの『火』は消えてしまう。

 それが『心の中』から伝わってくる声の強さでわかる。か細く、弱くなっていく。シロが必死に声をかけ続けても、もう僅かな心の動きすらない。

 こんなことでは、このままでは……。


 ――アツシと自分はもう二度と会えなくなってしまう。


 そんなのは嫌だ。

 絶対に嫌だ。

 だから、そこにどうしても、辿り着く必要がある。

 後ほんの少し、一つ呼吸をする程度の時間でアツシの『火』は尽きるだろう。


 それまでに、辿り着かなければいけない。

 何が何でも、会いに行かねばならない。


 そこまで行けるもの。何でもいい。なんだっていい。何にだってなってやる。


 それは……何だ?





 シロは、神経を研ぎ澄ませ、考える。





 ――そうだ、あれだ。





 ひどい嵐が来る前にいつも空に光る、あれ。

 棲家の山の、あのヒゲの男が出す。あの光。

 そしてさっき、向こうで光って落ちたもの。




 あれがいい。


 ――あれなら、速い(・・・・・・・)




 そう思ったシロはだんだんと、ただの『現象(・・)』へと姿を変えていった。



(はやく、すこしでもはやく、アツシのもとへ)



 そうして、シロはただ一筋の白い稲妻となり……目の前の異形の群れを貫いていった。

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