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116 森の中の戦争17 地駆ける雷神2

「『根源系(芹澤アツシ)』……力の制御が未熟とは聞いていたが、ここまで極端だとはな」

「ああ……今のは本当に死んだかと思ったぜ」


 上昇気流に渦巻く噴煙の中に二人の男が立っていた。二人は憔悴している様子ではあったが、無事だった。男たちを取り巻くのは『透明な壁』。

 その『壁』は先ほどまで例の『根源系』の異能者……『芹澤アツシ』には全くと言っていいほど意味をなさなかったのだが、どういうわけか今回の大地を抉る衝撃から身を守るには大いに役立ったようだった。


「奴は……あの少年はどうなった? …………死んだのか?」


 彼らの前には一人の少年が倒れていた。だが、男たちは彼の姿を見つめたまま動こうとしない。先ほどまで彼らを追いつめ、この大規模破壊を引き起こしたのはその少年だ。迂闊に近づくことなどできない。


「…………う……あ゛…………」


 うつ伏せになっている少年の手がピクリと動く。背中も静かに動き、どうやら呼吸もしているようだった。


「……『芹澤アツシ』はまだ、生きているようだな。とても活動できる状態ではなさそうだが……」


 あの大規模の破壊の中、少年もまた生き延びていた。周囲では深く抉れている地面が少年の周囲だけ残ったままになっていた。彼も異能の力を使ってどうにか先ほどの爆発を切り抜けたようだった。とはいえ、もう動く気配はない。全身の至る所からおびただしい量の血が流れ、相当の重傷を負っているように見える。


「おい、竜胆……もう、『根源系(プリンシプル)』の孵化(・・)だのなんだの、気にしてる場合じゃないんじゃねえか? 現時点で既にヤバいだろ。さっさと殺したほうがいい」

「いや……駄目だ、この子供はサンプルとして持ち帰る。『原典(オリジナル)』は彼のことを調べたがっていたからな」

「おいおい……正気か? またさっきみたいに暴れ出したら俺たちじゃ手に追えねえぞ」

「このまま放置しておくほうが今後の危険が大きいだろう。リスクを考慮した上で、連れ帰るメリットの方がずっと多いはずだ」


 スキンヘッドの大男はそう言うと、ゆっくりと歩いて芹澤アツシに近づいていく。だが間近まで迫り、男が抱え上げようと手を伸ばしたその瞬間、少年は突然幻のように視界から消えた。


「……何……? 消えただと?」

「ちっ……誰か他にいやがるな……どうする?」


 漆原の疑問に、竜胆は眉間にしわを寄せ、質問で答えた。


「どうするとは、何だ?」

「ほっといて逃げるかって聞いてんだよ。もうこの場にいる理由はねえだろ」

「今回の作戦の趣旨は達成したが、『根源系の確保』は我々の大目標の一つだ。この機会を逸するな」


 竜胆はそう言って、彼の異能【壁を創る者(ウォールクリエイター)】で辺り一帯に壁を張り巡らせた。


「出口は封じた。探せ、漆原。彼らはまだここにいるはずだ」

「……チッ……欲張ると碌なことがねえぜ?」




 ◇◇◇




「やれやれ、心配になって来てみたら……芹澤くん、大丈夫かい?……見た所随分酷い怪我に見えるけど」

「……あ……ああ……」


 俺は声を振り絞って、助けに来てくれたらしい御堂スグル(ヘンタイ)にそう答えた。声が張れず、うまく喋れない。ゾンビの呻き声みたいな不気味な音を出すのが精一杯だ。体にもほとんど力が入らない。

 俺は今、奴の背中におんぶされ、揺られながら男たちから遠ざかっているのだが、正直、辛い。奴が一歩踏み込むたびに振動が伝わり全身に激痛が響くのだ。

 これは……あばら数本どころか全身の骨が計数十カ所ぐらい逝ってそうな気配だな……。自分の力を制御しきれなかった俺の自業自得とはいえ……ひどすぎだろ、この状況。


「ほらな、やっぱ見に来て良かっただろ? 予想通りボロクソにやられてたじゃん、コイツ」


 ……はあ? ――ピキピキピキィン。確かに俺の頭に青筋が浮かぶ感覚があった。こんな大怪我をしている俺を、いたわるどころかこの期に及んでナチュラルに煽って来るとか、こいつ……!!!


「……なん……だと……この……クソモヤシ野郎……ッ……!!」


 俺は御堂(ヘンタイ)の背中に揺られつつ、力を振り絞ってバカに悪態をつく。このモヤシ野郎に言われたままにしておく程、俺はまだ弱ってないつもりだ。ちょっと喋るだけでも全身に鈍痛が走るというのに、余計なこと言わすんじゃねえよこの野郎……!!


「それだけ喋れたら大丈夫…………でもないか。芹澤くん……これ以上、無理して話さない方がいい。君は、君が思っている以上に酷い状態だよ」

「……あ……?」


 何言ってるんだ? 怪我が酷い状態だってのは俺なりに理解してるつもりではあるのだが、そこまで心配される状況かといえば、そうでもないと思う。割としっかり頭は回るし、いざとなったら自前の異能で移動もできるはずだ。


「……別に……俺は……」

「喋ってはいけないよ、芹澤くん。本当に出血が酷いんだ……わからないかい? 君は今、意識があることがおかしいぐらいの重傷なんだよ。これ以上の消耗は命に関わる」


 いつになく険しい声色の御堂。俺はコイツがこんなに強い口調で話すのは見たことがない。……そんなに、ひどい傷なのか俺? 痛くて首が回らず、自分の身体はよく見えないからあんま、自覚が湧かねえな……。さっきから腹の奥や目の底から激痛が走り、その辺りが派手に損傷しているのは分かる。……まあ、そう考えると結構やばいのかもな……。


「芹澤くん、君はこのままでは…………いや。無駄口を叩いている暇はない。とにかく神楽さんのところへ急ごう」


 そう言って走るペースを上げる御堂だったが、突然、俺たちの前に視界を覆う巨大な『透明な壁』が出現した。


「おい……なんだこの透明なの? 進めねえぞ? なんだこれ? 壁?」

「……どうやら僕たちの存在に気づかれているようだね」


 これは……明らかに奴らの能力だ。俺たちはそこから先へ進むことができなくなった。恐らくあいつらが消えた俺を探して、逃げられないように壁を張ったということらしい。さっきみたいに破壊してやりたいところだが、今の俺にはそのやり方がわからない。


「これは……まずいことになったね……」


 現れた『透明な壁』を前にして、御堂は少し考えていたが……何を思ったか突然背負っていた俺を地面に下ろし、横に寝かせた。

 そ〜っと、まるで優しくいたわるかのように穏やかに寝かされた。……ああ、俺があの変態にこんな風に扱われる日が来るなんてな……まんま、介護される病人かおじいちゃんて感じだな、俺。いや、普通に怪我人か。

 

「……芹澤くん。悪いがここでしばらくじっとしていてくれ。僕らは……急いで彼らにこの壁を解除させなきゃいけないからね」


 俺を地面に横たえて立ち上がった奴は、見たこともないぐらいに険しい表情をしていた。


「……あ゛ぁ゛……?」


 俺の口から、変な声が出た。なんだこの声。もうまともに喋れさえしねえのな……。

 いや……いやいや。そうじゃない。大事なのはそっちじゃない。

 ちょっと待てよ。まさかお前らだけで、あいつらに挑むつもりか? 駄目だ。絶対無理だ。速攻で殺されるぞ。そう言いたいが、口が動かず声にならない。


「こうしておけば、動きさえしなければ彼らに見つかることもないはずだ。『隠蔽(ハイディング)』」

「お前はここで大人しく寝てろ。俺たちであんな奴ら、ぶっ飛ばしてきてやるぜ!!!」


 そういうと御堂と植木は元来た方向へとすぐさま走り去って行った。


 ……ダメだ。あいつらじゃすぐやられる。

 俺だけ寝てる場合じゃない。俺も、戦わないと。あいつらが殺される前に早く、助けに行かないと。そう思ったが、本当に体が動かない。自力で立ち上がりたいが、力が全然入らない。


「……『点火(イグニッション)』……」


 それでも、あいつらを放ってはおけない。俺は痛む体を無理やり異能で作った風圧で押し上げ、なんとか直立の姿勢をとった。

 俺も、一緒に戦わなきゃ。そう思って俺はどうにか立ち上がった。

 そこまでは良かったが、その瞬間、頭から血の気が引き、視界が真っ白になった。


「……ん……あ゛……?」


 ガクン、と膝が折れる。やっぱり、足に力が入らない。俺はあっけなく、また地面に倒れた。

 全身に走る衝撃と痛み。同時にビチャリ、と赤い液体の中に自分の顔が落ちるのを感じた。


 ……なんだこれ?

 ……赤い水。……水? いや違う。


 これは……血だ。ああそうか、俺の血か。

 爆発の時に瓦礫か何か身体に刺さってたんだろうか? 全身がどこもかしこも、漏れなく痛かったおかげで、出血にまで気が回らなかった。……俺はどれぐらいの間、血を失っていたんだんだ?

 そういえば、人って、どれぐらいの血が出たら死ぬんだっけ?

 この地面に水溜まりみたいに広がってる血の量って……。どうなの?


 これ…………致死量はるかに超えてない?


「……ごは゛っ……!?」


 そう考えた瞬間に、口から大量の血が溢れて流れ出た。ビシャリ、と血の池の体積がさらに増える。

 これも、俺の血? ……やばいな、これは。…………本当に。やばい。


『…………アツシ…………?』


 心の中で、誰かの声がする。


 ああ、寒い。……今すごく、寒い。身体中が、凍えるように冷たく感じる。

 でも俺って、こんなに寒さを感じたことってあったっけ? 今までまともに寒さも暑さも感じたことないような気がするんだけど? 寒いって、どういうこと? なんで今、俺は寒いと感じている?


 そんな風に混乱していると突然、視界が昏くなる。遠のく意識の中で、またアイツの声がする。


『…………のじゃ……!? …………じゃ……!!!』


 ……シロ……? ああ、これはシロだ。シロの声。だがすぐに、俺のおぼろげだった意識の輪郭が消え。アイツの声が小さくなっていく。もう、音が聞こえない。

 

『………… …………… ……』


 まだシロが何かを叫んでいるように思えるが、聞こえない。

 それに突然何も見えなくなった。明るくもなく昏くもない。何だこれは。


 だんだんと、全てが消えていくのがわかる。

 音も、色も、痛みも、寒さも。

 そして、もう。何も感じない。不安も、疑問も、思考ごと消えていく。


『………………………』


 それでも……どこかで、誰かの声が聞こえた気がした。

 それもすぐに心の中で増大する無音に掻き消され、消えた。


『……………』


 そして……やって来たのは何もない世界。圧倒的な静寂が俺を埋め尽くしていく。


 そのまま本当に何も感じられなくなり。

 何の声も聞こえなくなり。


 最後に俺は――


 自分の()がか細い糸のように千切れていくのを感じた。

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