115 森の中の戦争16 地駆ける雷神1
「……な……なんだ、あの爆発は……!?」
電磁防護された特殊仕様の輸送ヘリの進行方向の森で、突如、大きな爆発が起きた。いや、大きな爆発などという言い方では不十分だ。ヘリの向かう先にはまるで核爆発でも起きたかのように、大規模の噴煙がキノコ雲を形作って空を覆っていた。
「……谷口さん……計器類は大丈夫ですか?」
「……え……ええ、でも……今ので外部の電装が破損したようです。計器類は無事ですが通信機器はもう駄目ですね。それと、後部のローターの出力が若干落ちています。これ以上の安定航行は難しいでしょう」
谷口と呼ばれた初老の男性は隣に座る妙齢の女性に声をかけられ、慌てて自分の仕事を思い出した。
ヘリの操縦桿を握る女性操縦士と、脇で計器類を睨む初老の男性。二人は帝変高校の『用務員さん』である。彼らの業務は「庭のお掃除」から「特殊車両の操縦」まで幅広く、改造された大型の軍用輸送ヘリの操縦もその中に含まれる。
だが、それも本人が「やれる」と判断できる所までだ。そう考えた女性操縦士は後部の貨物スペースに立っている一人の女子生徒に声をかける。
「水沢さん……この辺りで引き返しませんか? 一般人がこれ以上近づくのは危険過ぎます」
「ええ、目標地点は判明しましたから、ここで投下してください。この人は大丈夫ですから」
メガネに手を掛けながら話す、帝変高校生徒会の会長……水沢ミスズの視線の先には、彼女の異能【水を操る者】で作り出した『水の膜』で全身を包まれているアゴ髭を生やした縄文人のような男の姿があった。その男は腕組みをしながら、ヘリの側部についた窓から地上を見下ろしていた。
「大丈夫って、お前なあ。ここがどれだけ高さがあるのか分かってるのか? ……えらく高いぞ?」
「ええ。高度300メートルぐらいですが、先輩なら十分許容範囲内です。安心して落下してください」
「そうか」
男は水沢の答えに納得したのか小さく頷いた。だが、また窓の外のキノコ雲を眺め、次に浮かんだ疑問を口にする。
「でも、ちょっと遠いんじゃないか? えらい距離があるように見えるぞ?」
「走ってください。先輩ならすぐですから。むしろヘリよりそっちの方が数倍は速いです」
「そうか」
男はまた頷き、座っていた特殊絶縁ゴム製の専用座席から立ち上がった。その様子を見た初老の男性が、降下用のバックパックを男に差し出す。
「では……パラシュートをどうぞ。装着方法はわかるかな?」
「ああ、それはいらないよ。着けようとしても電流でダメになるから」
「え?」
男はそのまま機内を歩いて移動し、ヘリの搭乗口の前に立つ。すると専用ヘリのセンサーが『主人』の動きを察知し、ゆっくりと搭乗口の隔壁がスライドしていく。
「じゃあ、行ってくる」
「はい。その非常識な力を存分にふるって来てください」
ハッチが開くと途端に強風が機内に吹き込む。眼下には深い森が広がり、同時に煤けた空気が入り込んで来るが、男は遥か彼方の地面を見下ろしながら、どこか嬉しそうだ。
「久々の外だな。少し楽しみだ」
「別に、帰ってこなくてもいいんですよ? 私の仕事も随分と減りますから」
水沢は強風で靡く制服のスカートを押さえながら、淡々と事務的にそう言った。男はそんな彼女に振り返り、にこやかに言った。
「いいや、ちゃんと帰るさ。帰りの足も準備しておいてくれよ、水沢」
「……わかりましたから、早く行ってください。もう、私の方が限界です」
少女の表情はかなり険しく、額にはうっすらと汗が滲んでいた。それもそのはず、彼女は目の前の男の桁外れの能力を抑えるために、ここまで全力で異能を行使し続けていたのだ。言葉の通り、既に限界が来ていた。男の全身を覆う『水の膜』が綻び、ところどころ薄くなりかけている。
【雷を宿す者】の異能を持つ男、轟ゴウキを周囲と『絶縁』していた純水の膜が、今にも弾けてなくなりそうな様子だった。
「ああ、そうだったな。手間をかけたな、水沢。じゃ、また後で頼むよ」
男はそれだけ言うと軽く搭乗口の縁を蹴り、ヘリから無防備に飛び降りた。そのまま、直立姿勢でまっすぐに地上へ落下していき……あっという間に見えなくなった。
「……なっ!?」
「……ちょっ……!!?」
目を剥く女性操縦士と初老の男性。
だが、水沢はどこかほっとした様子で落ちゆく男の姿を眺め、呟いた。
「では、先輩……ご武運を」
――直後、直下から眩い閃光と、雷鳴。
地響きと共に落下地点の木々が放射状に焼け焦げていくのが見えた。
そして数秒ののち、轟音と共に眩い光を発する何かが爆発のあった方向へロケット弾のような勢いで飛んで行った。ソレが通り過ぎた後の木々が、炎を噴き上げて燃えていくのが見える。
「い、今のは……何ですか……??」
「彼は……無事なんでしょうか? 今、そのまま落ちたように見えたんですが……」
狼狽える操縦役の二人だったが、水沢は冷静に強風で乱れた着衣とメガネを直し、役目を終えて閉じていく搭乗ハッチに背を向けながら言った。
「あの人のことは、全く心配いりませんので……というか、常識的な心配はするだけ無駄なんです。私たちは、自分の身を守ることだけを考えましょう」
◇◇◇
噴煙の上がる地点から少し離れた場所――
そこに黒く焼け焦げた植物の塊があった。
細長い植物を編むようにして作られたボール状の塊が、焼けて炭化した表面を崩しながらゴロゴロと焼けただれた大地を転がっていた。その表面が突然、モゾモゾと動き、割れて人間の手が出て来た。どうやら、その球状の物体から外に出ようとしているらしかった。
「ふう、ビビらせやがって……!! 死ぬかと思ったぜ……!!」
そうしてそこから顔を出したのは、ツンツン頭の少年だった。
「まったく……俺の秘密兵器『無限沸き貝割球』があったから良かったようなものの……あいつ、手加減とかしねえのか? バカなんじゃねえの?」
ツンツン頭の少年は辺り一面焼け野原となった森……いや、先ほどまで森だった場所を眺めながら、一つ大きなため息をついた。その後ろから、サラサラ金髪ヘアーの少年が同じ焼け焦げたボールの中から這い出して来た。
「おかげで助かったよ、植木くん。さっきの熱線も爆発も、おそらく芹澤くんの異能によるものだろうけど……」
後ろから出てきたサラサラヘアーの美少年は、衣服についた砂埃を払いながら目の前の光景を目を細めて見渡している。
「……芹澤くんらしくないね。味方に被害が出そうなほどの規模の攻撃を無警告でやるなんて」
「なにも考えてねえだけじゃねえの? あいつ馬鹿だから。絶対やりすぎだろ、アレ……普通、ちょっと考えればわかるじゃん」
植木ヒトシはやれやれ、といったポーズで肩を竦めながら立ち上るキノコ雲を見上げている。
「いいや……きっと向こうで何かがあったに違いない。僕は様子を見に行きたいんだが……危険かもしれない。いいかな、植木くん」
あの爆心地へ行こう、といささか無謀な提案をする御堂スグルに、植木ヒトシはビシッと勢いよく右手の親指を立て、自信満々の表情で言い放った。
「ああ、いいぜ!! あいつ実際弱いし……俺の助けを求めてるかもしれねえしな!!!」
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