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112 森の中の戦争13 玄野メリア

二話連続投稿です。まだの方は先に111話をどうぞ。

 玄野(クロノ)メリア。彼女は本当に特別な存在なのだ。

 それを彼女自身、分かっているのだろうか。


 いや……彼女の言動からすると、それ程しっかり自覚をしていないのだと思う。そういう妙なところで抜けているのが彼女の凄くいいところで……私としては可愛いところでもあるとは思うのだけれど。


 私は彼女がどんな人なのかずっと興味があった。


 12歳の時に南極の激戦地区で戦闘員(・・・)として生き残っていたところを玄野カゲノブに拾われ、日本に移住するも彼女の能力を危険視した軍に処刑されそうになり……それでも生き残り、そこからわずか2年間でほぼ完璧に日本語を習得。

 それからたった6年、20歳の時に大学の博士号と最難関の国家資格とされる『異能鑑定官』の資格を同時取得。その間……実質14歳(・・・)の時から帝変高校の校長代理業務と【サイト管理者】達の連絡役を兼務しながらだったというのだから、それだけでもとんでもない人物だということが分かる。


 父、霧島マサムネからはじめて彼女の話を聞いた時、そんな人間が存在するということに驚いた。そしてすぐに、彼女に会ってみたいと思った。


 いえ、正直言えば……私は少し彼女に嫉妬していたのだと思う。私も世間で『優秀』だと言われるぐらいには、頑張ってきたつもりだったから。それに見合うだけの努力はしてきたつもりだった。でも、彼女は何もかもが規格外なのだ。私なんかとは比べるのもおこがましい。彼女のことを知る度にそう思った。


 実際、彼女はこの国有数の非常に重要な人物……今や実質的にこの国の最重要人物(・・・・・)と言ってもいい。


 あの世界最強の異能者にして【サイト】管理者、玄野カゲノブの養子(むすめ)であり、実質的なその補佐役。そしてこの世界を支配する最上層の9人【サイト管理者】の連絡役。


 さらには異能大戦終結の直接的原因となった『玄野ユキ』の所在を知る数少ない人物であり、その分身(篠崎ユリア)の保護者。異能者が第三派閥に流れるのを防ぐことを目的に設立された特殊組織『帝変高校』の実質的経営者でもあり、『根源系(プリンシプル)』、『芹澤アツシ』の発見者であり保護者。


 何より……国家首脳レベルですら閲覧が制限されるという、『八葉リュウイチ』の研究分野における知識の実質的後継者(・・・・・・)。僅か24歳にして、すでに世界最高峰の異能研究者として認知される人物だ。


 彼女の重要性を挙げようとすれば、きりがない。私も、散々優秀だなんて言われてはきたけれど……彼女の前ではとてもではないが、霞んでしまう。


 だから、私は彼女と話がしてみたかった。この教練任務を受けたのは、半分はカナメを溺愛しすぎる親バカの父からの依頼もあったのだけれど……もう半分は、完全に私の彼女に対する興味だ。お酒なんて用意して、無理矢理にでも仲良くなろうなんて、私にしては思い切ったアプローチに踏み切ったものだと思う。


 訓練初日の夜、私は彼女と話すのが楽しみだった。きっとあんな可愛い顔して、話してみれば中身はやっぱり完璧超人みたいなすごい人なんだろうと内心、期待していた。


 でも、全然違った。

 私が会いに行った彼女は思いつめていて、張りつめていて……肩を震わせ、今にも折れそうだった。


 私が目にしたのはただの、弱い人だった。だから思わず、ほっぺたをつついてしまった。横顔がとても可愛らしく……弱々しかったから。


 そして、彼女はお酒にも弱かった。飲んですぐにろれつが回らなくなってフニャフニャになり、すぐ寝入ってしまった。気持ち良さそうに寝息を立てる彼女は無防備そのもので、何度いたずらしてやろうと思ったことか……。


 私が出会う前から敗北を認めた人。その人は拍子抜けするぐらい普通だった。内心構えていた私が、馬鹿らしく思えるぐらいに。


 でも結局、それが彼女だったのだ。私が昨日抱き上げてテントの中に運んだ『玄野メリア』は、ただの酔って寝入ってしまった、ほっぺたぷにぷにの女子だった。私が憧れて嫉妬までした人物は結局、そんな感じだったのだ。


 それでも……やはり、彼女はこの時代の最重要人物なのだ。


 彼女を知れば誰もが脅威に感じる。彼女の能力。彼女の知識。彼女の置かれている環境。どれをとっても世界の核心に迫り、彼女がその気にさえなれば、とてつもない権力を握ることができることは誰の目にも明白だ。それを利用しようとする者。疎む者。恐れる者。どれだけいるか、わからない。


 ……私だってそうだったのだから。





「霧島少佐……暗崎くんをこちらに回してもらえますか」





 襲撃が起きてしばらくした後、突然、彼女は私にそう言った。その時、その場所に私が出会った弱々しい女性はいなかった。代わりにそこにあったのは、ある種の決意の込もった光の宿った瞳。


 ああ……これだ。私はそう思った。


 私が彼女に会ってみたかった理由。それがなんとなく分かった。きっと私はこういう姿が見たかったんだ。


 彼女は私に見えない何かに辿り着いた。そういう目をしていた。

 ……そうだ。彼女はこうでなければいけない。私の想像していた彼女は、あんな弱いだけの人ではない。やられるだけで黙っているような女ではないのだ。

 

 だって、彼女は本当に特別なのだから。これまで一度も敗北というものを知らなかった私が、唯一恐れ、嫉妬し……そして、とても憧れた人。それが彼女、玄野メリアなのだから。このままで終わるはずがない。


 そう思うと、私の顔には自然と笑みがこぼれていた。

 そして、私はそれが相当にリスクのある選択肢だと知った上で彼女の提案を受け入れた。

  


 ……だから、これで終わりなんてことはない。



 今、目の前で彼女の首が飛ばされて、地面に落ちた。この状況も彼女の想定の内。イレギュラーな事態が頻発し……とても不安だったけれど、上手くいった(・・・・・・)。暗崎くんは彼の仕事をした。これは、予定通りのことだった。

 

 でも……ただ一つ、この状況で誤算があるとすれば、彼。芹澤くんだ。


 彼は知らない。これが狂言であると言うことを。彼らに偽りの目的を達成させ、次の反撃へと繋げる為の布石。これは、彼女の仕組んだことなのだ。


 でも、彼は今、目の前の光景を嘆き悲しんでいる。心の底から、悲嘆に暮れている。当然だ。事実を知らなければ、誰だってそうなるだろう。


 ――あれは『人形』だ。暗崎くんの能力で作られた、本人そっくりの影の人形。メリア先生本人は、彼の『影』の空間の中にいて、無傷だ。


 ご丁寧に、彼は人形の首が飛ばされた時の血しぶきまで再現している。あそこまでやられたら、普通は本物と思ってしまう。ただでさえ黙ってさえいれば本物と見分けがつかないぐらいの代物だ。間近で注意深く見て、やっと違和感に気がつく、それぐらい非常に精巧に作られた人形なのだ。


 暗崎くんの異様な努力の甲斐あって、彼らは結局、それに気がつかなった。なぜだかわからないが、私と対峙したスーツの男はとても焦っていた。それもプラスに働いたことだろう。

  

 そして今、彼らは急いで撤退をはじめた。この時点で彼らの目的が確定した。こちらが想定していた通り、彼らの狙いは『玄野メリアの殺害』。その『目的』を達成し、このままここから離脱する予定なのだろう。不確定の要素はまだあるが、彼らの行動目的の一つは割れた。おかげで予測は随分としやすくなる。


 そして……ここまでは想定の通りだ。ここからが重要だ。彼らには無事に逃げ帰ってもらわねばならない。それが、今回の作戦の意図するところなのだから。


 彼らは私たちの準備した罠にまんまと引っかかり、意図した通りに逃げ出した。ここまで、驚くほどに順調だ。暗崎くんは私が思っていたより、ずっとずっと有能だった。それは嬉しい誤算だ。




 ……でも……。……この胸騒ぎはなんだ?




 大きな脅威は去ったはずなのに、この場の空気があまりにも不穏だ。周囲の空気は炎で暑い……なのに背筋が凍るように寒くなる。あまり恐怖を感じないように訓練している私でさえ、緊張に体が硬直している。その感覚の源泉は、明らかに『彼』から来ている。


 泣き叫び、地面に這いつくばりながら必死に立ち上がろうと、彼らを追いかけようとしている少年。芹澤くん。




 ――なぜ、私は彼に恐怖(・・)を感じている?




 わからない。でも、その感覚はどんどん大きくなり、次第に吐き気を催すほどの緊張が私の体を支配する。この感覚は何だ? 私は今まで、一度だってこんな感情を抱いたことはない。妹の恋人に対して、何でこんな感情を抱かなければならないのだ? そんな風に思うが、戦地で研ぎ澄まされた私の感覚は今、正確にその場の脅威を感じ取った。


 ……あそこに、何かがいる。ここで一番危険なものが、そこにいる。それが嫌という程、私の心臓に、肺に、手足に訴えかけてくる。



 今……身体の震えが止まらない。

 私の全身が泣き喚くように必死に訴えていた。





 ――あそこにいるのは、今まで私が出会ったことのない、想像すらしたことのない、本当に恐ろしい何かだと。





 それが、そこで生まれ始めようとしているのが分かった。

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