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111 森の中の戦争12 目的の達成

 あの『根源系』の少年……芹澤アツシ。


 ……一体、いつの間にこんなところまで来ていた? 俺はそれなりに周囲を警戒しながらあの女(霧島サツキ)と戦っていたつもりだが、近づいてくる姿さえ全く見えなかった。

 竜胆が森の奥からとんでもない速さで吹き飛ばされてきて、俺を追い越したところで踏み止まったと思ったら、少年はいつの間にかそこに居た(・・・・・)


 ……あの少年は色々とおかしい。

 まず、竜胆をあんなに吹き飛ばしている時点で、おかしいのだ。……どういうことだ? 奴の『根源系』異能は発展途上ってことじゃなかったのか? いや、そうでなくとも説明がつかないことが起きている。


 竜胆の能力の一つは【壁を創る者(ウォールクリエイター)】、あの石頭にぴったりの能力で、ほぼどんなモノも通さない頑強な『概念としての壁』を創ることができる。その『壁』を一度展開しさえすれえば、核攻撃の嵐からでも自分の身を守ることができる。そういう、壊れ気味に頑丈な能力なのだ。


 ……だが、さっきのはなんだ? 遠目にしか見えなかったが、あいつは確かに『壁』を発動していた。核兵器だろうとなんだろうとあいつの壁を突破することは不可能。そういう『概念』を扱う特殊な異能だったはずだ。故に強力……一度守りに入ったあいつを突破できる奴など、いないはずなのだ。


 だが、その『壁』をあの少年は破壊して、その上であの巨体をこんな場所まで吹っ飛ばしてきた。


 明らかに異能の概念そのものに干渉して、壊している。『根源系(プリンシプル)』ってのはそんなことまで出来るのか? そんな情報はどこにも……俺の中の『八葉リュウイチ』の記憶の中にだってない。


 ……やはり、アレは特別だ。最初からもっと警戒すべきだったんじゃないか? 今更ながらそんなことを考える。

 だが幸い、さっき俺が死なない程度に奴を痛めつけておいたのは正解だったらしい。まさかあの少年がこんなタイミングで舞い戻ってくるとは思いもしなかったし、最初はヒヤリとしたが……突然現れた芹澤少年は血を吐いて倒れ、動かなくなった。どういう状況かはこの際、いい。とにかく奴の動きは止まった。


 そのおかげで、本当に……俺の仕事はやりやすくなった。


「……助かったぜ……少年」


 俺の目の前で刀を構える女……霧島サツキ。あの少年が飛び込んできて血を吐いて倒れたところで、この女の注意が逸れた。ほんの一瞬、ひとつ瞬きをする程度の刹那。だが俺はそのほんの一瞬を欲していた。……今だ。俺は空間を歪ませ、跳ぶ。


「……しまっ……!」


 女は俺の動作の意図に気づくが、反応がわずかに遅れた。俺は女の背後に抜け、玄野メリアの元へと急ぐ。すぐさま走る俺の背後から斬撃が放たれ、致死の一閃がまっすぐに俺を襲う。だが……


 ――ガシュン。


 女の斬撃は突然空中に現れた『透明な壁』に阻まれ、消失した。

 ……そうだ。どんなものもこうならなければおかしいのだ。これが竜胆に与えられた異能【壁を創る者(ウォールクリエイター)】なのだ。


「その女の封じ込めは任せたぜ……相棒」


「……待ちなさいッ……!」


 女はそのまま俺を追おうとするが、すぐに『透明な壁』に阻まれて足が止まった。


「……行かせん。俺が相手だ」


 竜胆と念願のポジション交代だ。あの女との相性は格段にあいつの方がいい。あの女は竜胆に任せ、俺は『標的』の元へと一気に跳躍する。

 その先には先ほどの火を操る少年と、玄野メリアに付き添っていた少年の二人が待ち構えていた。次の俺の相手は、奴らだ。


「……来るぞ、暗崎……! アイツは強い。油断するんじゃねェぞ……!!」

「……フヒッ……怖いねえ……ちびっちまいそうだぜ……」


 炎を使う、体が異常な速度で再生する少年ともう一人……玄野メリアをここまで連れて来た少年。アレの名前は忘れたが、前情報では確か『影』を操る能力だった筈だ。さほど脅威にはならないと思いあまり真剣に資料をチェックしていなかったが……アイツらは、歳の割に仲々やる。


 ……もう、少年(ガキ)だと思って手を抜くのは止めだ。


 炎の少年は背中からロケットのように炎を噴出し、とんでもない速度で俺の胸元に飛び込んで来る。霧島サツキの突進よりも数段速い加速。この少年も化け物だ。

 見れば、加速の瞬間に血を吐きながらこちらに向かってくる。あの加速だ。無理もない。内臓ぐらい潰れてたっておかしくはない。衝撃で身体が再生すること前提の、捨て身の突進。……馬鹿げている。そんな発想があったって実際にやる奴があるか? そして、それを延々とやり続ける(・・・・・)というのは、もう頭が相当にいかれてしまっているか、あるいは相当の意思と覚悟を持っているかのどちらかだ。


 いや、少年は狂ってなどいない。今、少年は隣にいる仲間を気にしてか彼は辺り一面を焼くことを止めている。それは当然の配慮、賢い判断だろう。やはり奴は頭が狂っているんじゃなくて、冷静な判断の結果、こういう戦い方をしている。あの年齢で、そこまで行くか。……やはりあの少年は、危険だ。


 だが、今の状況では……その冷静な判断が有り難い。


「……それじゃあ、全然怖くねえんだよな……」


 さっきまでこの少年の厄介さを押し上げていたのは、あの周囲一帯を焼き尽くす炎の渦。炎による攻撃自体は俺の【空間を曲げる者】で回避出来ないことはないが、広範囲の環境を変えられたら逃げるしか無くなる。あれは本当にやばい。

 そう思っていたのだが、今のこの少年は、ただ再生してゾンビのように襲いかかって来るだけの存在。動きは素早いが霧島サツキほどには洗練されていない。だから……


「……ぐがァッ……!?」


 簡単に『斬れる』。

 俺は異能を発動し、空間を歪ませ少年を半分に割った。分断された身体が地面に落ち、少年は呻き声をあげる。


「悪いがそこで転がっててくれ」


 すぐに少年の体は再生を始めるが、その時間があればもう俺は先へと踏み込める。次に待ち構えるのは影を操る少年。地面から真っ黒なカーテンのような物を拡げ、俺の視界を覆った。


「……影を操る能力……空間操作系の亜種か……? 珍しい能力だな」


 同時に少年の足元の暗闇から無数の棘が俺に向かって来るのが見えた。だが、少年自体の動きは遅い。さっきの少年とは比べるべくもない。俺は瞬時に少年の黒い障壁(カーテン)をすり抜け、空間を歪ませて首を狩りにかかるが、瞬間、髪の長い少年は仰け反り俺の攻撃を回避する。


「……フヒッ……あぶねえなああ……!!」


 勘はいいようだ。そして少年は一瞬で自分の影の中にストン、と沈んで消えた。さらに地面に残った影から無数の腕が伸び、俺を『影』の中に取り込もうとしてくる。……この少年も厄介だ。変幻自在。どんな状況にも器用に対応して来る。次の行動が読めない。

 だが、幸い……そんなに場数を踏んでいるというわけではなさそうだ。


「……おいおい、意味ねえだろ、それじゃあ」


 少年の役割は玄野メリアの護衛なのだろう。だが、自分が姿を隠してしまってはその役目も果たせない。所詮は子供……いや、自分の身を守るために逃げたのかもしれない。それはそれで、正解だろう。


 俺は影を操る少年を避け、さらに先へと進む。

 目前に残るは…………玄野メリア。ただ一人。

 護衛の少年が消えた今、無防備にその場で突っ立っているだけだ。


 ――俺は即座に異能で接近し、その女の首を刈った。何の抵抗もなく、玄野メリアの首が血しぶきを撒き散らしながら胴体を離れ、地面に落ちて転がった。



「……うあ……ああ……あああああああああああぁぁぁ……!!!」



 直後、絶叫を上げる少年がいた。倒れていた少年、芹澤アツシ。……もう目覚めてやがった……。あんな血まみれの死に体で、どうやって動いてやがる? ……あれは、本当にやばい。心からそう思う。ここから早く逃げ出さないと、危険だ。



「お前がここまで来てくれて、本当に助かったぜ…………玄野メリア」

 


 当初の目的は達成した。これで他の『掲示板(ボード)』のメンバーに文句を言われる筋合いはない。さっさと、ここから離脱するべきだ。


「さっさと帰るぞ……石頭」

「ああ、よくやった。作戦は成功だ」


 竜胆は足止めの役目を終え、俺のそばまで近づいて来ていた。『透明な壁』の向こうで女と少年たちが何やらもがいているのが見える。


 ……さあ、ここからは脱出ミッションだ。難度で言えば大幅に下がる。だが、のんびりとはしていられない状況だ。あの少年、芹澤アツシのこともあるが……気になっていることが、もう一つある。


 俺たちに重要な情報を伏せていたあのガキ……武神シンヤと蘭瞳ヒトミが何を考えているかはわからないが、一刻も早くここから立ち去るべきだ。でないと、俺たちもやばい。俺の勘は強くそう訴えかけていた。

続きます。


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