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110 森の中の戦争11 目醒める力

 俺は森の中で目を覚ました。


 遠くで何度も爆発音がして、どこかから何かが焼け焦げる匂いがする。その匂いと音の刺激で目が覚めた。地面に倒れたままで辺りを見回すと、さっきまであんなにうじゃうじゃといた異形たちが一切周囲に居ない。……一体、どこにいったんだ? それに……。


「……うわ……なんだよ……あれ……?」


 痛む身体を庇いながらその場でなんとか立ち上がり、爆発音のした方向を眺めると、遠くの森から火柱が上がっているのが見えた。周辺に煙が立ち上っている。焦げ臭いのはあの匂いだったようだ。……何が起こってる? それに俺は今、なんでこんな場所に……?


「……そうか、俺は飛ばされたんだ。あのスーツの男に」


 やっと頭が回ってきた。まだ意識が朦朧とするが……大丈夫だ。全身に鈍い痛みはあるが、体は何とか動く。多分、赤井があそこで戦っている。俺は急いであそこに戻らなきゃいけない。


 今、身体中に鈍い痛みが走っている。むしろ、あそこからここまで飛ばされたんだとすると、この程度の痛みで済んでいるのが不思議なぐらいだ。でも結構骨まで響いてるっぽい。このまま走ったりするのはちょっと無理だろうな……でも、今、何故か異能の力はすごく上手く使えるような気がする。


「『点火(イグニッション)』」


 俺が異能を発動させると体がふわり、と楽に持ち上がる。

 やはりその辺の調子はいいみたいだ。そして俺は火柱の上がっている方角へと力を加え、移動をはじめる。加速も問題ない。周囲の風景が歪んで見えるほどの加速をしてもなんの制御の不安もない。まるで立ち並ぶ木々が俺を避けて、すり抜けていく行く様に感じる。……これなら、まだまだ速度を上げられるな。俺は目的地へと向けて一気に加速する。


「……あれ、まだこっちにはいたんだな」


 視線の先に、『異形(ヴァリアント)』の群れが見える。停止して相手にしている暇はないが……できればあいつらを倒しながら進めた方がいいんだけど。その方が、気休め程度だがメリア先生たちの危険だって減るだろう。


「『熱線(ヒートレイ)』」


 そこで、俺は試しにさっき新しく覚えたばかりの『熱線(ヒートレイ)』を発動し、すれ違いざまに異形の頭部を狙って撃つ。さっきは移動しながらなんて、とてもじゃないが当てられる気がしなかったが、今ならできる気がする。そうして……やってみると実際にできる。


 ……なんだ……簡単(・・)だな、意外と。


 慣れてみると、こんな風に移動しながらでも出来ないこともない。むしろ、何で今まで「出来ない」なんて思ってたんだ? こんなに簡単なのに。そうして、俺は目につく奴の頭を片っ端から破壊していく。


 ……ああ、少し気分が良くなったな。だんだん、体の痛みが引いて来た。今、とても楽だ。今ならいろんなことが上手くできるような気がする。


「……ん、火柱が動いたな……あっちか……?」


 遠くの火柱が移動している。あそこに赤井がいるはずだ。

 さっきの敵も、あそこにいる。俺も、そこに早く戻らなきゃいけない。そう思って更に加速すると、驚くぐらいにスピードが出る。周囲の異形のいる風景が歪んで流れる様にスライドしていくが、俺は何の苦労もなく『熱線(ヒートレイ)』ですれ違う『異形(ヴァリアント)』の頭を全て潰し、目的地へと向かう。


 ……なんだ……こんなの、本当に簡単じゃないか。


 なぜ俺はこんな容易い事を難しいと思っていたんだろう。さっきまで無理だなんて思っていた自分が、馬鹿らしくなる。


 ……そして、今……さっきまであった身体の痛みは全く感じない。


 それどころか、身体がとても自由に動く。すごく快適だ。



 ……とても気分がいい(・・・・・)


 そして……感覚がとても鋭敏になっている。


 感じられるもののあらゆる解像度が至るところで上がり、まるで周囲すべての小さな粒子の動き(・・・・・)まで感じ取れるような感じがする。






 …………ああ、今…………とても気分がいい(・・・・・・・・)







「……ここか……いたな、赤井……」



 そして俺はすぐに巨大な火柱の立つ場所に辿り着いた。そこではやはり、赤井とあのスキンヘッドの男が激しく衝突していた。辺り一帯を覆う炎の海の中で、二人が何度も殴り合うようにぶつかり合っていた。

 ……だが、あのスーツの男はどこにいった? 姿が見えない。

 俺はそのまま炎の中の赤井に近づく。


「……おい、赤井。さっきの奴はどこにいった……?」


 自分の口からとても低い音が出た。まるで自分の声ではないみたいだ。


 ……仕方ない。今はさっきの衝撃で体がボロボロだ。幸い何故か痛みはあまり感じないが、大声を出せば必ず体のどこかに響く。だから、俺はそうしてるんだと思う。きっとそうだ。だからこんなに声が低いんだ。


「……芹澤、無事だったのか……? あいつは、この先だ。だが、こいつが邪魔で……通れねェ……!」

「……あいつが……?」


 見れば、赤井と向き合っているスキンヘッドの男は何やら透明な壁のようなものを作り出し、赤井の炎を防いでいる。ああ、この壁のおかげで通れないのか。この先に……あの男がいるのか。それなら……。


「『根源系(芹澤アツシ)』……生きていたか。だがこの先へは一歩も……」

「気をつけろ、芹澤、こいつは……!」





「『邪魔だ……消えろ(・・・)』」


 自分の口から、自分でも信じられないような低い声が出た。

 直後、男の前の空気の塊が瞬時に温められて赤熱し、爆発した。その衝撃で奴の作った透明な壁は粉々に砕け、男はそのまま視界の奥へと飛ばされていった。


「……な……!? 芹澤、いま何を……!?」

「……じゃあ、行こうか」


 俺もあの飛ばされていった男の元に行かなきゃならない。心からそう思う。



 ……あれ、何でだっけ?

 何で、俺はあいつを追わなきゃいけないんだ……?



「おい、まずいぞ、あいつの飛んでいった方向は……くそッ!!」


 そう言うと赤井は背中から炎を噴出させ、かなりの勢いでスキンヘッドの男が飛ばされた方向へと飛んで行った。


「……ああ、そうだ。俺も急がなきゃな……」


 そうだ。俺も赤井の後を追って急がなければいけない。俺を吹き飛ばしたあの男……俺は、今すぐあいつを追わなければいけない。


 だって。





 俺は








 あいつらを

















「『壊さなきゃいけないんだから』」




 ……そうだ。

 心の底からそう思う。それが、今の俺のやることだ。


『……………………』


 心の奥底から、声がする。それでいいと。

 俺はその声に従う。従わないといけない。従うと、心地いい。





 ああ…………とても気分が(・・・・・)よくなってきた(・・・・・・・)





「『点火(イグニッション)』」


 そうして俺は急加速する。風景が溶けるように流れ、豆粒ぐらいに見えた赤井の姿がすぐに間近に迫った。赤井はまたあのスキンヘッドの男の壁に阻まれていた。

 ああ……駄目じゃないか。こんなところで立ち止まってちゃ。

 前に進めないじゃないか。…………そんな壁、俺が壊してやろう。


「赤井……『退け(・・)』」


 俺は空気を爆発させて赤井を軽く真横に吹き飛ばすと、目の前の男が作った壁を殴りつけ、


「『熱化(ヒートアップ)』」


 思い切り温めた(・・・・・・・)


 ――ドゴン!!


 俺が触れた場所から眩い閃光が走ると同時に腕に軽い衝撃が伝わり、男は砕けた壁ごと向こうへ吹き飛び、木々をなぎ倒しながらすぐに視界の奥に消えた。

 ああ……これでいい。これで先に進める。さあ、行こう。


「……なッ……芹澤……!? 何してるんだ!?」

「…………何って?」

「あっちの方向は、みんなが……神楽が、非戦闘系の生徒たちがいるんだぞ!?」

「……………………そうか…………みんなが…………?」


 そうか、そうだったのか。……それが、何で駄目なんだっけ? ……わからない。赤井、こいつは結局何が言いたいんだ……? ちょっとわからないな。


「……おい、芹澤……!? お前、さっきからどうしたんだ!? 大丈夫かよ? ちょっとおかしいぞ!? ……いや、今それどころじゃ……くそッ!!!」


 赤井はまたそれだけ言うと、また体から爆発的に炎を噴き出して飛び去った。周囲の木々がその衝撃で折れて、吹き飛んだ。俺はその衝撃波を周りの温度を急激に下げることで緩和し、その場に倒れそうになるのを逆からの風圧で押さえ込んだ。


 ちょっと危なかったな……地面に倒れてしまいそうだった。……そうだ。俺もいかなきゃ。急がなきゃ。


「『点火(イグニッション)』」


 そうして、また瞬時に風景がスライドする。俺は一瞬で赤井を追い越し、今度は先にスキンヘッドの男のところにたどり着いた。


「……なっ……!? 『根源系(芹澤アツシ)』……今、どうやって……!?」


 ああ……こいつも、しつこいな。身体中から血を流しながら、またさっきの壁を作って待ち構えている。……全く、そんなもの、無駄だと言うのがまだわからないのか。






 ……今度こそ、壊してやる(・・・・・)






「『熱化(ヒートアップ)』」


 俺は、そこに転がっていた小石の下を急加熱して跳ね上げ、手に取るとそれをさらに加熱する。小石は、次第に赤熱してドロリと溶けて球体となり、次第に輝きを持ち始め……すぐに細い光の筋が出始めた。


 これだ……これで、いい。これをあいつの頭に叩き込めば――



「芹澤くんッ!!! それは駄目ッ!!!」



 不意に俺の背後から、声がした。誰だ?


 ……この声は……メリア先生?

 先生は、みんなと一緒に避難してるはずじゃなかったのか?

 何でメリア先生がここに?


 いや、ところで……俺は今……一体、何をしてるんだ?


「……あれ? どうして俺はここにいるんだ……?」


 ……そうだ。確か、俺はみんなを守るために、赤井と一緒に走って………………それから、どうした?


「……ん……? 何やってんだっけ、俺……?」


 記憶が……曖昧だ。

 さっきまで、何か変な夢を見ていたような感じがする。身体中が酷く痛む。立っているのがやっと……いや、もう無理だ。全然無理……全身が、爪先から脳天までくまなく悲鳴をあげている。

 今まで何もなかったところから突然やってきた激痛で、苦痛で、呼吸が狂う。

 おいおい、ちょと待って……今まで、こんな状態で動いてたのか、俺……!? どうやって……!?


 それに……!!


「……おいおい……なん……だよ…………コレ……!!?」


 今、俺の手の中にあるものは確か…………ゴリラとの訓練の時に作ったものと、同じものだ。


 これって、もしかして……俺が作ったの……? ……だよね?




 ………………やばい。



 やばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばい!!!





 俺は、一体何してたんだ!??

 これじゃあ、このままじゃ、ここにいるみんなが……!!!



「芹澤くん、すぐに冷やして!!!」


 またメリア先生の声がする。

 ……そうだ。これは温めて出来たもののはず。逆のことをすればいいんだ。

 そう思って俺は手の中の光る球体を冷やしに掛かる。身体中が痛むが、そんなこと気にしていられない。


「……出来た……!!!」


 瞬時に球体は冷え、ただの冷えた石ころになった。これで最悪の事態は、逃れた。そう思っていたところで、俺は大量の血を吐いた。地面に大きな赤い染みができる。


 …………何だ、これ? 俺の血? ……だよな?


「……あ゛……?」


 ゴプリ。

 俺はさらに胃に今までずっと溜まり続けていたかのような大量の血を吐き出し、その場に倒れた。

 無防備に地面に激突し、体全体に衝撃が響く。


「…………ッ…………!!!」


 とても声にならない、痛み。

 今まで忘れ去られていたことを呪うかのように、俺の体の隅々まで一斉に強烈な痛みが襲う。腕、内臓、首、脚、腹、そして……内臓。あらゆる感覚器官の絶叫、悲鳴のオーケストラ。苦痛で体が痙攣し、呼吸(いき)ができない。


 これは…………やばい。もう、全然起き上がれない。

 さっき遭遇した敵の姿が見える。だが、俺はもう……。


 掠れる視界の中、俺の方に駆け寄ってくるメリア先生と……彼女を守るように戦いはじめた赤井と暗崎くんの姿が見えた。

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