11 ヒーローは遅れてやってくる
神楽が誘拐されたことを聞かされたその後…
俺、赤井ツバサは秋田犬のタロウと郊外の廃工場前にいた。
「ハァッ、ハァッ!!!!」
ここまで犬のタロウに引っ張られ、走って来た。
ほぼ全力ダッシュに近い状態で丸々2時間半。
そしてもう限界が来て頭の中が白くなりかけたところで、初めてタロウが足を止めた。
「ワォンッ!!」
タロウは大きくひと鳴きすると、あっちだと言うようにクイクイと鼻で俺の視線を誘導する。
視線はあの製粉工場跡。
「第3倉庫」と書かれた建物を向いている。
「…あ、あそこ、なのかッ…!!?」
息も絶え絶えに、体が欲する酸素を可能な限り吸い込みながら、神楽家の愛犬、タロウにそう確認する。
だが、犬に言葉がわかるわけもない。
でも、俺は必死だった。藁にもすがる思いだった。
「ワォーンッ!」
そしてタロウはまた一声鳴き、工場に向かって走り始めた。
「あっ…まッ、待てよッ!?」
俺は置いて行かれないようにまた全力でダッシュする。
そして走りながらスマホで通信アプリ「MINE」を起動させ、ついさっき頭に響く『声』で連絡先を送って来た彼女…篠崎ユリアに「製粉工場跡 第3倉庫」と打ち込み、送信。
あとはとにかく、とんでもない速度で走っていくタロウを見失わないように、ひたすら、走った。
あの廃工場の中のどこかに、あいつ……神楽マイがいることを信じて。
◇◇◇
「どうしたんだぁ?黙ってくれちゃって。少年よォ…」
俺、芹澤アツシは考えていた。
「…さっきまでの活躍は、どうしちゃったんだぁ?んん? ビビってんのかァ!?」
こいつは、間違いない。異能者。
それも戦闘に使える異能力を備え、躊躇なく人を殺せる精神を持った、危険人物。
どうする?
下手に動けない。
奴はこちらが何か行動を起こせば、すぐさまそれに対応して攻撃を仕掛けてくる。
相手は確実に、戦闘慣れしている。命を取り合う場面を経験している。そんな予感がする。
幸いなことに…と言えばいいのかわからないが、こいつは神楽さんを大事な「商品」として認識しているようだ。
だから、こいつとやり合っても、この男から直接、神楽さんに危害が及ぶ可能性はあまりないと考えていいだろう。
でも、それも絶対ではない。
いつ、気が変わってキレた行動を起こすかわからない。目の前の男は、そう言う危なさを持っていた。
「じゃあ…こっちから行くぜェ?依頼者との待ち合わせの時間まで、あまりないんでなァ」
男がそう言うと、男の全身から「何かが生えた」。
それが何か理解する前に、男は俺の懐に飛び込んで来て…
「はっ…速…!?」
とてつもないパワーで俺を殴り飛ばした。
ドゴンッ!!!
俺はバレーボールみたいに吹っ飛ばされ、壁に激突した。
「かはっ!?」
体の中から全ての空気を絞り出されたようになり、そのまま、壁伝いに地面に落下する。
「…ぐッ…!?」
…ッマズい。
多分、今ので、きっと色々折れた。
たった一撃で?こんなにダメージを食らうのか?
…………やばいぞ、これは。
「おうおう、面白おかしく吹っ飛んだなァ?」
男は、ゆっくりと歩いて俺のところに近づいてくる。
ああ、ダメだ。
たった一撃食らっただけなのに、体がもう動かない。
……全然、歯が立たない。
殺される。俺はこのまま、殺されるんだ。
そう考えた時だった。
不意に、俺に、何かが覆いかぶさって来た。
そして、男は歩みを止めた。
「あん?何してんだ、嬢ちゃん。そこ、退いてくんねぇかな…そのガキ、殺せないじゃん。」
神楽さんだった。手錠と足枷をはめられた状態で、俺のところまで這って来たのか?いや、俺が近くまでふっ飛ばされたのか。
とにかく今、彼女は俺に覆いかぶさり…俺をかばっていた。
「嫌だッ、やらせないッ!!」
声も、体も、震えている。
当たり前だ。こんな状況で、恐怖を感じないわけがない。
それなのに、俺をかばってくれている。なんて子なんだろう。
「嬢ちゃん…なァ…言っとくけどよ?」
男はまたゆっくりと口を開いた。
「勘違いしないで欲しいんだけどな。俺があんたを傷つけないのは…商売人としての「品質向上」に努めているだけであって…依頼者からは「とりあえず、五体満足で生きていればいい」って注文なんだぜ?」
神楽さんは動こうとしない。
「これが最後の警告だ。どけ」
男は、またゆっくりと近づいてくる。
「いいよ、神楽さん。どいて」
神楽さんは目にいっぱいの涙をため、首を振る。
「ダメだよ!このままじゃ、死んじゃうよ!」
俺は、神楽さんを強引に押しのけ、立ち上がった。
目の前で…こんな奴にこの子を傷つけられるなんて許せない。
だがやはり、いろんなところが折れている。少し動くだけでも、身体中に激痛が走る。
俺じゃあ、あいつに勝てないかもしれない。
ろくな時間稼ぎにもならないかもしれない。それでも、今、俺は立たなきゃいけない。
「来いよ、このエセミリタリー野郎…」
「おう、商品の品質向上にご協力いただき、感謝な。兄ちゃん。じゃあ、死んでくれ。」
男はそう言うと、体中から生えた「腕」をこちらに向けー
その時、風が吹いた。
「ワォンっ!!」
犬の鳴き声がしたかと思うと、部屋の扉から、突然、何かが飛び込んできて…
ドォンッ!!!
「かはッ!?」
ジャケットの男に弾丸のようにぶち当たり、男はさっきの俺みたいにバレ-ボールのように吹っ飛んだ。
「ワォーン」
そう、入って来たのは………………犬だった。
犬?秋田犬?
首輪ついてるな…飼い犬?
「タ、タロウっ…?なんで…」
神楽さんが犬の名前を呼んだ。神楽さんの知ってる犬?
同時に、バタバタと言う人の走る音が聞こえ…
「神楽ッ!!!?大丈夫かッ!!!?」
次に入って来たのは俺も知っている男ー
「あ、赤井くんッ!?」
そう、奴の名は赤井ツバサ。
『【炎を発する者】S-LEVEL 3』。たった一人で千の兵にも匹敵する男。
「お、遅かったじゃないか、ヒーローさんよ…」
そう言いながら…
俺はその場に崩れ落ちた。
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