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109 森の中の戦争10 対峙

 

「おいおい、聞いてねえぞ竜胆(リンドウ)さんよ……あんな化物女までここにいるなんて」


 あの狂人じみた戦い方をする少年からやっと逃れ、目標(ターゲット)へと向かう途中で漆原は視界の奥に予想外のものを確認した。軍用の漆黒の戦闘服(バトルスーツ)に身を包んだ、長い黒髪の女。手には鈍く光る刀を持ち、異常なスピードでこちらへと走ってくる。


「……蘭瞳(ランドウ)……あいつ、アレを見てなかったってのか? 冗談じゃねえぞ」


 『霧島サツキ』。日本國軍軍将、霧島マサムネの娘にして……軍が保有する最高戦力(・・・・)の一角。『掲示板(ボード)』の各面々が長い時間をかけて育ててきた第三派閥(ダークサイド)の組織を幾つも潰してきた、異能警察の戦闘部隊の頭領(リーダー)


 これだけの異形に囲まれながら、やけに子供達の動きがいいと奇妙に思っていたが……それもそのはず。この女がここに居たのなら納得がいく。指揮官としての能力だけでもこの女がこの上なく厄介であることは、今までの経験上よく分かっている。

 ……他の奴らもそれは同じはずだろうに。

 監視役の蘭瞳はこんな重大なことを見落としていたのか? いや、あの覗き趣味の女のことだ。必ず「視て」知っている。となれば、あえて自分たちに知らせていない…………そういうことになると思うが。


「ちっ、嫌な予感しかしねえな」


 早く仕事(・・)を終えて帰らないと、まずい。漆原の直感がそう告げていた。


「……あいつら……何を考えてやがる……?」


 同じ『八葉リュウイチ』の記憶を共有する者が集う『掲示板』のメンバー、武神シンヤと蘭瞳ヒトミ。今回の作戦を指揮する奴らは一体、何を考えてこんな事を仕組んだのか? いや……この時点で何を考えているかは大体分かる。自分たちはある程度同じ記憶を共有した者達なのだ。わかってしまう。だからこそ漆原は焦る。

 早くこの場を離脱しないと、俺たちも危ないのかもしれない。そんな思いが強く漆原に働きかける。緊張で口の中が乾いていくのが分かる。


「さっさと帰って、ビールで一杯やりてえところだが……」


 それには、目前の高速で迫り来る女をどうにかしなければならない。

 女は漆原の存在を認めると高く跳躍し、砲弾のようにまっすぐにこちらに飛び込んで来た。……こんな接近の仕方、普通ならいい的だ。だが、あの女はあえてそれをやっている。


「……誘ってやがる」


 あえて攻撃を受けて敵の動きを止め、それを強引に真正面から斬り伏せる。それがあの女のやり方だ。破壊された複数の施設の監視カメラはそんな彼女の姿を何度となく記録していた。

 駆け引きなどとは到底言えない無謀な誘導。だがあの女はそれをキッチリと成せるだけの技量を持っている。指揮官としても一戦力としても第一級。しかも敵陣の中で暴れまわりながら戦況をコントロールするから、より一層タチが悪い。

 あれは絶対に戦場で出会いたくない女だ。……そう思っていたのだが。


「何とか引きつけるしかねえな……」


 漆原は女が一太刀振るうのを待ち、ギリギリのところで躱す。高速の斬撃は漆原の肉体の回避では間に合わない。異能で空間を歪ませ、避ける。その瞬間、山を簡単に割ると云われる一閃が漆原が居た場所を裂き、地面がバクリと大きく割れた。

 一瞬で目測2メートルほどの幅の深い溝が出来、長さは視界に入った限りで端が見えない。おまけに、避けたと思ったところで正確に移動先に斬撃が飛んでくる。それが何度となく続き、その度に地面に同じような溝が増えていく。漆原はどれも直前で避け切るが、額に冷や汗が流れる。当たれば即死は免れない。寸分のタイミングのズレも許されない、刹那の逃亡劇。反撃の余裕など、どこにもない。

 そんな一方的なやり取りを繰り返すうちに二人は至近距離まで接近した。


「貴方……随分避けるのが上手いのね」

「お褒めに預かり光栄だが……通してくれねえか? 俺、ちっと急いでるんだわ」


 すでに女は漆原の攻撃の射程範囲内にいるが迂闊には動けない。漆原の動きは異能込みで捕捉されている。ここまでのやり取りでそれが分かる。この女はそういう敵だ。


「残念だけど……それは出来ない相談ね」


 女は穏やかな笑みを浮かべてそう言うと、また即死必至の斬撃を繰り出した。周囲の木々と異形が巻き込まれ、まるで蝋細工か何かのように綺麗に切断されていく。


 漆原は致死の斬撃を避けながらも、考える。考えずには居られない。

 ……やはり気になるのは、同僚たちの思惑。コイツとぶつかる事を知りながら奴らが情報を隠していた真意は何だ? ……多分、担がれている。俺達自体が囮だ。何かの時間稼ぎの駒にされている。そう考えるのが自然だ。

 問題は、それが何の時間稼ぎか、というところだが……。


 本当に嫌な予感がする。竜胆は確実に気づいていない。あのクソ真面目の石頭が、そんな事を知って看過する様にも思えない。


「正直、感心しねえぜ……こんなのは」


 とっくに自分は外道の仲間入りを果たしている。だがここまで一応、その「仲間」という建前は通してきたつもりだ。なのに奴らは竜胆も俺も、切り捨てにかかっていやがる。その線は確定じゃあないが、濃厚だ。……一体、俺たちが何をしたってんだ?

 ……もしここに竜胆がいれば、この女も容易く突破出来た。その先にも何があるか分からないが、状況が少しはマシになっただろう。そんな事は考えても仕方がないのだが、そうやって時間ばかりが過ぎていく。


 だが、漆原は霧島サツキとの熾烈を窮める戦闘の中……再び、信じられないものを目にした。


 あいつだ。あいつがこっちにまっすぐ向かってくる。

 何故あの女がこんなところにまで出てきている?

 玄野メリア。


 どういうわけか、脇に生徒を一人連れているだけで殆ど無防備だ。……まさか、ここを突破して残りの生徒を置いてきぼりで自分だけ逃げるつもりだったのか?

 あの女の重要さを考えればそれもあり得るが。こちらとしては願ってもない状況。だが……それにしても……。どいつもこいつも。


「仲間や同僚ってモンを何だと思ってやがる」


 どう考えても自分らしくない、そして全く他人の事を言えた事でないセリフが口をついて出た。だが、少なくともあの女に対しては何も躊躇する必要はないようだ。自分は良心など人生のどこかに置き忘れてきたと思っているが、あいつも同じ(たぐい)のようだ。……ならば、遠慮なくやっていい。そう思って漆原は心を固め、自身の動作を鋭くしていった。




 ◇◇◇




 私は芹澤君と赤井君が向かった方向に急いでいた。私の少し後を、暗崎君とメリア先生が追ってきている。


 赤井くんはどうやら、無事だったようだ。相変わらずこちらの音声は全く通じないが、声は聞こえた。直後、彼からの通信が途絶えたが、代わりに遠くで巨大な火柱が立ち上るのが見えた。彼は生存し、戦っている。そう判断していいだろう。


 でも芹澤くんは……向こうの音声は拾っているが先程からずっと応答しない。無線の受信側が壊れている様だ。

 だが聴き取れる音声からすると、芹澤くんはまだ無事だ。呼吸音が聞こえ、周囲に敵がいる気配もない。私は一刻も早くそちらに向かわなければならない。


 それに状況からすると、敵はなんらかの方法で彼を吹き飛ばし、放置している。だとすると彼らの狙いは……芹澤くんじゃない?

 となると……やはり。


『メリア先生。やはり敵が見えました。赤井君は奥で交戦中。芹澤君は、どこか不明。でも生きています』

『……分かりました、霧島少佐。では手筈通りお願いします』

『はい……分かっています。でも……』


 それにしても……彼女はとんでもない事を考える。この状況を覆すには、それを利用する価値があることもわかる。生徒たちをこの窮地から脱出させる為には、そういう賭けに出る必要性もよく分かる。でも、一歩間違えたら……彼女は最悪、命を落とすことになるのだ。


『メリア先生。絶対に、死なないでくださいね』

『……ええ……多分大丈夫だと思います』


 多分大丈夫だと思う。……それでは足りない。貴方は、そんなに軽い命の人間じゃない。でも、この動きはそもそも彼女の発案だ。そして彼女がそういうリスクをとることを、私は了承した。その作戦を支えるのは、彼女(メリア先生)の脇にいる彼だ。


『暗崎君。貴方が全ての頼みの綱よ……メリア先生を頼んだわね』

『……フヒッ……俺も自信無いけどなあ……? まあ、やるだけやってみるぜ……』


 この彼の頼りない返事には流石に少し不安になる。でも、ここは任せるしかない。彼を彼女が選んだのだ。何か策があると思いたい。何にせよ、もう私達は敵のすぐそこまで接近している。迷っている時間はない。


『じゃあ……行くわね、メリア先生。作戦通り動きます』

『はい……お願いします、霧島少佐』


 そして、私は相手の注意を引きつけるため、戦闘服(バトルスーツ)で常人の六倍に強化された筋力で思い切り踏み込み、目前で待ち構える男の元へと飛び込んでいった。



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