108 森の中の戦争9 帝変高校襲撃
「……通信が遮断されてる? 全く連絡がつかないの、デルタ先生?」
「はい、メリア先生は私のポートを持っているはずですが、音声転送が不能です〜! なんらかの能力によるものだと思われます〜!」
通信担当の九重デルタ先生は、メリア先生から非常時の指揮を任されている私、鶴見チハヤにそう報告した。
「では至急、校長に連絡を……!!」
「ダメなんです〜! そっちも連絡取れません! 軍にも応援要請だしてますが、反応ありません〜!」
一体どういう事だ?
突然の帝変高校への襲撃。校長、そしてメリア先生が不在の時に、通信の妨害と異形の襲撃が同時に起きた。この襲撃の目的は何だ? 襲撃者の狙いは? 狙われたのはここだけではないのか? 他でも、何かが起きている?
今、帝変高校が晒されているのは、全方位からの異形の襲撃と、強烈な電磁波による電子機器の破壊、そして電波干渉。地下ケーブルを通した軍との緊急連絡網も機能しない上、頼みの綱のデルタ先生のポータルもなんらかの手段で封じられている。外部との連絡手段が遮断され孤立している状態だ。
一見、この状況は帝変高校そのものを潰しに来ているようにも見える。でも、その割には相手はこちらを本気で攻めて来てはいるようには思えない。今回の襲撃はまばらで断続的で、帝変高校の防衛ラインを突破して壊滅させようというほどのものではない。つまり、私たちの足止めをするような動き。だから狙いは帝変高校ではないような気がする。
となれば、残るは2箇所だが……校長を狙うなんて論外。だとしたらあそこしかない。新設の『異能警察予備隊』の訓練場。あそこには今、重要な人物が多数いる。そして校長がいない今、メリア先生は無防備だ。やはりそれを狙って……?
そうだ、やはりこの襲撃の目的はうちの通信機能を麻痺させ、彼女達への応援を不可能することだ。向こうでも、きっと何かが起きている。
「……されるがままなんて、腹立たしいわね……!」
ここまでは、襲撃を計画した者の狙い通りなのだろう。
教師たちはほぼ全員外に出て警戒態勢。敵が次はどこから出てくるか分からない。シェルターに避難している生徒たちを守らねばならない。だから、そこから動けない。そういう状況を作り出されてしまった。
今、彼女たちも同じように異形に囲まれ、襲撃されているのかもしれない。
「……せめて誰か、向こうに応援を出せれば……!!」
だが、ただでさえ人材不足の帝変高校の職員に余分な人材はいない。今、帝変高校には彼女たちの応援に回せる戦力なんてどこにも………。……いや。いた。彼がいた。
「……そういえば、一人いたわね……戦える生徒が」
今、完全に手が空いていて、絶大な戦力になる人物が……すぐそこにいる。彼だ。裏山に住む彼。彼ならば能力的にも一人でだって援軍になる。問題は、どうやって彼をあそこから出すかだが……。
私は先ほどまで放送室から生徒たちに避難指示を出していた、生徒会長の水沢ミスズさんに問いかける。
「ねえ、水沢さん。前に轟君を外出させた時、どうやったの? 確かあなたが付き添ってあげたのよね?」
「それは、私の能力で無理やり轟先輩を覆って……特殊な防電処理をしたヘリに乗せて出ただけですが……」
「ちなみに、そのヘリはどこに?」
「裏山です。完全に先輩専用のヘリですから…………まさか、今?」
「学内へのアナウンスは私たち教員で引き継ぐわ。あなたは至急、轟君を連れてメリア先生のいる訓練合宿地に向かって欲しいの」
水沢さんは一瞬迷うような表情を見せたがすぐに肯定の返事をした。
「…………わかりました。先輩をそこまで連れて行けばいいんですね」
「……森本先生。シェルター内で待機している用務員さん達を拾って、彼女と一緒に裏山の山頂まで送っていってくれますか。終わったらすぐ戻って来てください」
「ハハッ!! お安い御用だ!! 軽いランニングだな!!」
そうして水沢さんは原付バイクで、用務員さんを肩に担いで森本先生と一緒に高校の外へと走っていった。
◇◇◇
「彼ら……どうやらこの襲撃の目的を察知したようですよ、武神」
「ん〜? そうなの? 電波遮断と情報閉鎖はきっちりしてるはずなんだけど」
武神と呼ばれた10代半ばに見える黒髪の少年は、後ろにいる20代半ばらしい女性の言葉に軽い調子で答えた。そんな少年に半ば呆れたという様子で、そのすらりとした長身の女性は言う。
「状況から推理して判断した。それだけでしょう。貴方が適切な準備を怠るからです。無様ですね、武神。そして数名、高校から抜け出したようですよ」
黒いドレスのような服に身を包んだその女性の周囲には小さく瞬く『目』が無数に浮かんでいる。それらはギョロギョロと眼球を動かし、何かを目で追って観察しているかの様だ。
責めるように一気にまくし立てた女性を気にするでもなく、少年は熱心に読んでいた本から目を離すとじっと帝変高校の方角を見遣り、目を細める。
「ん〜、生徒と教師が一人づつか。それに職員が二人。こちらの姿を見られる方がマイナスだし、放っておこう」
そう答える少年に怪訝そうな表情で視線を向ける細身の女性。周囲に浮かぶ「目」も一斉にそちらを向いた。
「……いいのですか、武神。向こうの応援に行くつもりかもしれませんよ」
「べつに、いいんじゃない? 行かせてあげれば。向こうで色々失敗したとしても、ここまで来れば半分目的は達成したようなもんだし」
女性は軽く首を傾げる。少年の言葉の意味を掴みかねている様だった。
「そもそも……彼らに十分な情報を渡さないというのが不明ですよ、武神。仲間の筈ではないのですか?」
彼女の疑問に、少年はあくまで軽い調子で答える。
「まあ、敵を騙すには味方からっていうじゃん? それに、彼……竜胆だっけ。忠誠心が高いのはポイント高いけど……ちょっと頭硬いからね。使いづらいんだよ。……交代もアリかなって。漆原も腕は立つけど、それだけ。使えないよあいつ」
少年の二人への評価を聞いた女性は、目を瞑って軽く首を振った。
「彼らを『掲示板』のメンバーに招待したのはあなただったと思いますが……まあ、それはいいでしょう。しかし補充の目処は立っているのですか? また無様な人選にならなければ良いのですが」
「いるからこそこれを計画したんだよ。むしろ半分はその為かな? 最悪のパターンでもなんとかなるしね。クロノに伝わりさえしなければいいんだよ」
「……まあ、いいでしょう。「原典」の指示では貴方が今回の指揮者なのですから。無残な結果にならない事を祈っていますよ、武神」
女性は目を瞑ったままで周りに浮かぶ「目」を細め、少年に静かに視線を注ぐ。少年はそんな無数の鋭い視線を気にするでもなく、彼が手に持つ分厚い本を読む作業に戻った。
「それじゃ、各方面の監視頼んだよ。蘭瞳さん。何かあったら教えてね」
「ええ……わかりました。何にせよ、私の責任はこれだけですからね。そちらは任せましたよ、武神」
女性がつぶやくようにそう言うと、周囲の目は一斉に見開き、再びギョロギョロと何かを探し求めるかのように動きはじめた。
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