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103 森の中の戦争4 砦の中のオペレーション

「ほいじゃ、築城するよ〜! 『粘土採取(アタッチクレイ)』っ!」


 私たちが拠点となる場所に到着すると、土取さんが霧島少佐の指示で『土の砦』を築き始めた。小高い丘を中心にして周囲に土の壁をめぐらせ、その外周には深い塹壕を掘る。

 そうして私たちがいる丘には即席で作られた『粘土の砦』が出現した。

 あの大群の異形(ヴァリアント)に対しては気休め程度だが、ないよりはずっと良い。

 この直径10メートル程の領域が、今の私たちの城だ。


「メリア先生……大丈夫ですか?」

「ええ、もう大丈夫よ。心配かけてごめんなさいね、神楽さん」


 神楽さんはさっきから私のことを心配して、ずっと側についていてくれた。生徒の前であんなフラフラとみっともないところを見せるなんて、自分でも教師失格だと思う。


 ……でも、今は大丈夫。体も動くし頭も回る。

 依然、恐怖はあるが押しつぶされるほどじゃない。


「助かったわ、神楽さん……ありがとう。おかげで、落ち着いたわ。あなたは重要な救護要員だからシロたちと一緒に待機していてね」

「はい……でも無理はしないでくださいね?」


 神楽さんはそう言ってシロとタロウのいる、砦の中心部分に歩いていった。

 この小高い丘に集まったのは非戦闘員・人間以外を含めて12名。

 弓野さんを中心に編成された「狙撃チーム」の4名と、土取さんを中心に編成された「防衛チーム」の3名。非戦闘員がシロと神楽さんと、タロウ。そして霧島少佐と私がいる。


 霧島少佐は先ほどから通信機(インカム)の音声から全体の状況を把握し、こまめに生徒たちに指示を出している。


『氷川君は一通りの敵の足止めが終わったら一旦、拠点に戻って来てね。暗崎くんと黄泉比良(よもひら)さんは囲まれないようにゆっくりと後退して。赤井くんと芹澤くんはしばらくそこで踏ん張って』


『了解、サツキ先生』


『フヒッ……りょ〜かい』

『……わかった……』


『……ああ、わかった』

『……えっ? マジで……?』


 生徒たちがここまでうろたえずに冷静に動けているのは、彼女の存在が大きい。

 戦場を支配する才姫、霧島サツキ。

 飛び抜けた戦闘力と統率力で仲間からも上官からも信頼を勝ち取り、従軍から僅か4年……22歳で少佐にまで昇進した破格の人物。戦争を組み立てる『天才』と呼ばれ、軍上層部からの信頼も厚い。

 彼女の『黒髪の戦乙女(ヴァルキリー)』の異名は伊達ではない。この逼迫した状況でも彼女の指示は的確で無駄がなく、戦況を柔軟に動かしている。


 ……本当に、彼女がここにいてくれてよかったと思う。

 この非常事態の中、それも戦闘に不慣れな生徒たちばかりの状況で、こんなにもスムーズに戦闘態勢を組み立てることなど普通は不可能だ。非凡な能力を持つ彼女がここにいたからこそ、いまの統率の取れた指揮体系が成り立っている。


 私は彼女に感謝しなければならない。

 おかげで、自分の思考に専念できるのだから。


 私はやっと回るようになった頭を使い、考えを巡らせる。

 それだけが今の私にできる唯一の仕事だ。

 ……この襲撃は奇妙な部分が多すぎる。ことの本質を一刻でも早く掴まねばならない。


「……一旦、状況を整理する必要があるわね……」


 私は、先ほどから帝変高校の職員たちに緊急連絡信号を送っている。しかし、全く反応がない。デルタ先生とも繋がっているはずの非常用の通信ポータルも沈黙しているし、校長(お父さん)にも、連絡がつかない。


 明らかに、通信を妨害されている。この襲撃は周到に計画されていたとしか思えない。それに気がつかなかった私の落ち度はこの際、脇に置こう。


 でも、この訓練合宿自体、そう早く決まったことではない。

 私が軍に教官派遣を要請する連絡を取ったのはつい数日前のこと。

 でも、あの異形はずっと前から用意されていたはずだ。

 この襲撃はあらかじめ、どこまで準備されていた?

 敵はどこまで状況を想定していた?

 誰を狙っている? 芹澤くん? 神楽さん? 霧島少佐?


 ……いや……駄目だ、落ち着こう。

 そうだ、相手がどこまでの計画を立てていたかなんて、はっきりとはわからない。


 でも明確に感じる違和感。これはなんだ?

 もし、彼らが私たちを押しつぶそうと思えば……出来たはずだ。

 あの馬鹿げた数の異形を用意できるのだから。

 いっそ、あの軍勢を一気に至近距離に発生させてしまった方が効率的だろう。

 それをしないのは何故?

 そうできない理由があった?

 単に近づけなかっただけ?

 それとも、それでは目的は達成できないと考えた?


 ……疑問点はとても多い。多すぎるぐらいに。

 今、その可能性を一つづつ潰している時間はない。

 ひとまず、今、起きていることから考えるべきだ。


 ……そうだ。

 そこから考えるとわかりやすい。

 あの異形の大群が突然出現したということは、同じ場所に『それを発生させた何者かがいる』と考えなければならない。現状、あれ(・・)を発生させた人間がまだ近くにいると考えた方がいい。

 だとしたら、あの大軍は確実に陽動(・・)

 私たちを散らすための布石で、他に狙いがあると見るのが妥当だ。


 ……だが、その肝心の目的がわからない。

 敵は何を狙っている? 特定の誰か? この状況自体に意味がある?


 いや……違う。

 待て。

 焦るな。

 一旦、根本を整理しよう。


 今回の襲撃者は『八葉リュウイチ』。

 あるいは、それに連なる者。それでほぼ間違いないはずだ。

 あれだけの数の『異形(ヴァリアント)』を用意できる人間など、彼を差し置いて他にはない。


 では彼は……彼らは何を狙っているのか。

 彼らが一番欲しいものは何か。

 彼らにとって何が一番厄介なのか。


 そうだ。

 それがおそらく、ここにある(・・・・・)と考えるべきだ。

 だとすれば……それ(・・)を私は知っている。


 ……そうか。

 そういうことか。


 ならば……「それ」を使って、私は奴らの情報を引き出せるかもしれない。

 状況を逆手にとって仕掛けるなら、今このタイミングだ。


 私は考えがまとまったところで、霧島少佐に一人の生徒の配置換えを依頼した。


「霧島少佐……暗崎くんをこちらに回してもらえますか」

 

 自分でも唐突で奇妙な要求だったと思うが……彼女は疑問を挟まなかった。

 てっきり詳しい説明を求められるだろうとばかり思っていたのだが、彼女はただ私に向かって微笑み、こう言っただけだった。


「ふふ……わかりましたよ、メリア先生。すぐに配置を組み替えますね!」





 ◇◇◇




 黄泉比良(よもひら)ミリヤと暗崎ユウキのチームは息のあった連携で着実に異形たちを殲滅し、敵の数を減らしていた。しかし未だに数の多寡で言えば圧倒的に不利なことに変わりはなく、彼らは若干後退しつつの戦闘を余儀なくされていた。


「……フヒッ……バテてきたかい……黄泉比良(よもひら)さん……?」

「……全然……余裕……」


 そう言って強がる黄泉比良(よもひら)ではあったが、戦闘開始時と比べると動きにキレがない。明らかに疲労の色がうかがえる。先ほどからそれを察している暗崎は黄泉比良(よもひら)を上手く庇いつつ、周囲の戦況をコントロールしていた。

 そこへ、霧島サツキから通信機(インカム)を通した連絡が入った。


使令(コマンド)修正よ。氷川君は暗崎君のところに向かって交代(スイッチ)。氷川くんと合流したら暗崎君は拠点に戻って来て。黄泉比良(よもひら)さんは氷川くんと一緒にその場で対処してね』


『わかりました』

『…………フヒッ……りょ〜か〜い』

『……りょうかい……』


 そうして、黄泉比良(よもひら)と暗崎はその場で異形を倒しながら待機し、程なくして氷川タケルが暗崎たちの戦闘地点に合流した。その瞬間、氷川の異能【冷気を操る者(コールドメイカー)】によって周囲の異形(ヴァリアント)達が凍りつき、動きが止まった。


「やあ……着いたよ、暗崎くん。僕と君で交代(スイッチ)だったね」

「フヒッ……後は頼んだぜ……氷川……上手く彼女をフォローしてやれよ」


 暗崎は氷川にそれだけ言うと、波打つ影に乗って中央の拠点に向かってすぐに移動して行った。


「……それで……僕はここで何をすればいいんだい? 君を守ればいいのかい?」


 氷川は凍りついて動きの鈍った異形達を見回し、黄泉比良(よもひら)にそう問いかけた。黄泉比良(よもひら)は白い息を吐きながら、次の戦闘パートナーの問いかけに静かに答える。


「…………人形つくって……氷の人形…………」

「ああ、そういうこと。……どれぐらいつくればいいんだい?」

「……氷川君くらいのちっこい大きさで……30体……」

「多いね。わかった。『氷鎧(アイスアーマー)』」


 そうして氷川は彼の異能【冷気を操る者(コールドメイカー)】によって、あっという間に30もの精巧な氷の人形を生み出した。それはまるで、剣と盾を持った鎧騎士のような姿だった。


「こんな感じでどうかな? 装備もサービスしてみたけど」

「……オーケー、上出来……『人形操作(マニピュレイト)』」


 黄泉比良(よもひら)の異能で『氷の騎士団』が一斉に動きだし、隊列を組んだ。

 5体を1小隊として、六小隊の編成。

 それが別々に異形の群れに突入していく。


「……アハッ! それ、面白いね。どうやってるの?」

「……話しかけないで。今、結構集中してるから……」


 30の騎士からなる氷の騎士団(アイスナイツ)の剣が一斉に異形を切り刻み、最後に核を正確に両断する。

 異形(ヴァリアント)もただやられているわけでなく、即座に反撃をしてくるが鎧騎士の一体がその攻撃を盾で受けると、周囲から一斉に氷の剣が突き出され異形を串刺しにする。そうして、動きを止めたところで背後に控えていた数体が細切れになるまで頭部を切り刻む。

 六つの小隊に別れた氷の騎士団(アイスナイツ)は一糸乱れぬ統率で、一体、また一体と異形を滅ぼし群れを駆逐していく。

 それをたった一人(・・・・・)で操る黄泉比良(よもひら)を氷川タケルは楽しそうに見つめる。


「君……黄泉比良(よもひら)さんだっけ? 君も、面白いね」

「……無駄口叩かないで、戦う…………今6体やられたから補充お願い」

「ああ、いくらでも補充してあげるから好きに使えばいい。ストックはここに置いておくから」


 そう言って氷川タケルは氷の鎧騎士を大量に生み出すと、少し嬉しそうに異形の群れに突入して行った。

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