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101 森の中の戦争2 死体の群れ

「見えてきたな……うわ……マジであれと戦うの? ……あの数はさすがにちょっとおかしくない?」


 俺と赤井は二人並んで走り、サツキ先生に指示された方向へ急いでいた。そうして2、3分ほど全力で走ったところで視線の先に大小様々の人影が見えてきた。


 ――『異形(ヴァリアント)』。


 体が溶けたみたいなやつもいれば、炎に包まれたやつ、体から棘が生えまくっているのもいるし、全身が固そうな鱗に覆われているやつもいる。見た感じ、怪獣or怪人限定の大仮装(コスプレ)パーティーって感じだ……。

 それにどうやら、全部で『数千(・・)』いるってのは、間違いがないらしい。

 近づけば近づくほど、見える怪物の数が増えていく。視界を埋め尽くす勢いだ。


「なあ、赤井? 俺ら、あれ全部相手にしなきゃいけないんだよな……?」


 俺は辺り一面に広がる人だか化け物だかわからない奴らの大軍を目にして、足がすくむ。どう見ても、二人で相手をする数じゃないからだ。


 ……サツキ先生? 俺らの配置、本当にここで合ってる??


 視界の奥の大軍勢の進むスピードは、速くはないが確実にこちらに迫ってくる。

 ゾンビみたいにうめき声をあげながら、ゆっくりとこちらに近づいて来ている。

 ……だが、どいつもこいつも生気がない。


 『異形(ヴァリアント)』は元は人間。でも、異形(ヴァリアント)化した時点で人間としては(・・・・・・)死んでいる。

 サツキ先生が昨日訓練の最初にそう言ったのを思い出した。


「ああ……そうみてェだな。……この辺に陣取るか?」


 赤井は、ここまで結構なスピードで走って来たというのに息一つ乱さずに返事をした。

 俺は背中を『点火』による追い風で押して強引に加速し、軽く原付ぐらいの速度は出していたはずなのだが、赤井も余裕でそれについて来た。異能の補助なしで、ただ普通に走ってるだけなのにだ。おまけに息も切らさず、当たり前のように会話している。前々から思っていたが、こいつはこいつでバケモノじみた体力を持っている。


「……そうだな、この辺で迎え討とう」


 若干ビビりながらも、俺はこんな所でいいかという判断で立ち止まる。

 おそらく、ここまで走ってきた感じからすると1キロ強ぐらいは宿営キャンプ地点……つまり他の生徒たちが集合している丘のある場所から距離をとったと思う。

 適切な距離感というものは分からないが、とりあえず、これぐらい離れていれば思い切りやっても彼らに被害が出ることもない。


「じゃあ、打ち合わせ通り……芹澤がアレを潰していってくれ。俺は後ろから援護する」

「……ああ、そうだな」


 赤井が奴らの「足止め」をして、俺が異形(ヴァリアント)の中に飛び込んで片っ端から『(コア)』のある頭部を狙って「蒸発」させていく。

 それが俺たちがここへ走って来るまでに決めた「作戦」だった。

 まあ、実際作戦っていうか、ぶっつけ本番っていうか……要するに俺が特攻するだけなんだけど! ……それ以上、やりようがないじゃん?


「じゃあ……いくぜ? お前は俺に遠慮せず、全力でぶっ放せ」

「ああ、お前は炎を気にする必要ねェもんな。間違って攻撃してもいいしなァ」

「………………えっ………………?」


 ……いや……いやいや。

 ちょっと待て。

 俺は赤井の言葉に一抹の不安をおぼえた。

 確かに、俺も遠慮せずにやれとは言ったけど……。

 いくら俺に熱系の攻撃が効かないとはわかってても、あんな巨大な火の玉が飛んで来るのはちょっとは怖いんだからね……? いくら害がないってわかってても、目の前で風船がバーン!ってなったら誰だってビビるじゃん? お前の、その比じゃなく怖えんだよ……!! 爆発で地面とか抉られるし……。


 ……あと冷静に考えたら、爆発でなんかの破片とか飛んできたら俺も怪我するな。


「いや……やっぱ、ちょっと控えめにな。絶対、火の玉とか俺の方に飛ばさないように。絶対にだ。わかったか? オーケー!??」

「……そうか? まァ、気をつけるが」


 そんなやりとりをしてる間に、奴らは俺たちの存在に気がついたらしく、行軍スピードが速くなった。そして、まっすぐに俺たち目指して向かって来る。


「……雑談もさせてくれねえのな……くそ、今度こそ行くぜ……『点火(イグニッション)』」

 

 俺は頭を切り替えて瞬時に背後の空気を温め、敵の大群に勢いよく飛び出す。

 体全体にとてつもない衝撃が与えられ、視界がブレ、異様に加速する世界の中でどうにか姿勢を制御し、『異形(ヴァリアント)』とすれ違いざまに頭を撫でて、俺の異能の力を瞬間的に叩き込む。


「『熱化(ヒートアップ)』……!」


 ボボボボン!

 すれ違いざまに触れた4体の異形(ヴァリアント)の頭が爆散し、残った体は地面に倒れながら灰のように崩れ去った。

 ……ああ、こいつら……もう本当に、もう人間じゃないんだな。


 今ので数体倒せたが、こみ上げる達成感など何もない。

 こいつら、なんでこんなことに……元は人だったはずなのに。

 

「おい、芹澤!! ボーッとしてるなよ!! 来てるぞ!」


 赤井の声に俺が振り向くと、背後から8体。化け物たちが俺めがけて突っ込んで来ていた。


 ……そうだな。

 今、そんなことを考えてる場合じゃない。やらなきゃ、やられる。俺だけじゃなく、俺たちの背後にいる人たちも。それをさせないために、俺たちはここに走って来たんじゃなかったのか?


「マジで成仏しろよ……『熱断(ヒートカット)』」


 そうして、俺はその化け物たちの頭部を切りとばす。首を落とされた怪物たちは少し動きが鈍るが、まだこれでは奴らは死んでいないという。

 だから、俺はそのまま「熱化」で宙に舞った頭部を消しとばす。


「『熱化(ヒートアップ)』」


 ボゥン!

 頭部の中の『(コア)』が破壊されたことで、残った体も脆く崩れ去る。


「ああ、もう……気持ちのいいもんじゃねえな……ちくしょう!!」


 相手は物言わぬ、死体……ならまだ良かったんだけど、うめき声をあげながら火の玉とか斬撃をぶっ放してくる死体だ。たまったもんじゃない。

 こいつらは、コツさえわかれば簡単に倒せる。

 でも、倒しても達成感などない。ゲームみたいに経験値やゴールドやアイテムが手に入るわけでもない。


 ……気分はまるで葬儀屋だ。


 いや……俺のやってることはマジでそんなとこなんだろうな。

 もう元に戻らないなら、せめて……こんな惨めな姿から解放してやった方がいい。


「……俺宗教とかわかんねえけど……適当にお祈りぐらいはしてやるよ……!」

 

 そうして、俺は心の中で神だか仏だかよくわからないものに祈りを捧げながら、手当たり次第に周りの異形(ヴァリアント)を蒸発させていく。


 ここで派手に暴れるほど奴らの注意がこちらに向き、神楽さんやメリア先生たちは安全になる筈だ。そのことだけを考え、俺はひたすら目の前の人のカタチをした怪物を倒し続けた。



 ◇◇◇



「……アイツ……いつのまにあんなに強くなったんだ……?」


 あれでは、ほとんど自分の出る幕はない。

 芹澤アツシが戦う光景を目にした赤井はそう思っていた。

 

 芹澤が「行く」と言った直後、爆発的に加速して奴らの背後に移動したかと思うと軌道上の怪物の頭が一斉に吹き飛んだ。

 直後、芹澤の背後から化け物たちが迫り、危ないと思って声をかけた瞬間、その化け物たちの首は全て飛ばされていた。飛んだ首は芹澤の手によってすぐに破壊され、残りの体も消え去った。


 その間、たったの数秒。

 その数秒で12体もの異形を仕留めたことになる。


「どういう動体視力と反射神経してるんだよ、アイツ?」


 その後も芹澤は片っ端から『異形(ヴァリアント)』を消滅させていく。

 目で追うのがやっとという程の高速移動で的確に、敵の頭を狙い確実に仕留めていく。

 動きの鈍い異形はその動きを全く捉えられず、素早く動く者でもアイツを正確に捕捉できていない。


 今も、相手から攻撃はされている。

 それも、全方位を囲まれている。

 奴らは味方が被弾することなんかお構いなしに狂ったように攻撃を繰り出してくるから、目の前は様々な異能による攻撃の嵐だ。


 でも、あいつは無数の斬撃や炎、巨大な岩なんかの攻撃を難なく躱すどころか飛んでくる攻撃の間を縫うように敵の懐に飛び込み、あっという間に消滅させていく。

 一瞬で近づき、頭部を破壊する。その繰り返し。

 ……それが一呼吸の間に何度も起きているのだから、もはや人間業とは思えない。


「……どっちがバケモンかわからねェな、これは……」


 先ほどまで大勢の異形を前にしてビビっていた人間とは思えないぐらい、今の芹澤は鬼神か何かの如く暴れまわり、敵の数を急激に減らしていく。

 このまま放っておけば、視界を覆う全ての怪物を倒し切ってしまいそうなほどに。


「とはいえ、俺もこのままボーっとしてるわけにも行かねェな……『火球(ファイアボール)』……ッ!」


 赤井は目の前の大軍の「足止め」に専念することを決め、広範囲に火球を撒き散らす。

 ある者には直撃し、ある者には足元に着弾し、動きを止める。

 怪物たちの注目が一斉に赤井に向いた。分かりやすい脅威を認識した怪物たちは、一斉に侵攻方向を変え、火球の飛んできた方角へと進み始める。


「それでいい。……こっちに来い」


 そうして、赤井は芹澤が開けた敵の群れの『穴』に向かって走りながら、火球を撒き散らし続ける。奴らの侵攻を少しでも遅らせる。そうすれば、きっと勝機はある。この絶望的な状況にも、活路があるかもしれない。


 ――多分、目の前のコイツが何とかしてくれる。

 

 ガラにもなく、他力本願な想いが頭をよぎる。


「……何を暢気(のんき)に構えてるんだ、俺は……?」


 咄嗟に浮かんだそんな都合のいい考えを振り払い、赤井もまた乱戦となっている戦場へと全力で走っていくのだった。

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