10 第三派閥《ダークサイド》
その時、篠崎ユリアは呼び出され保健室にいた。
向かい合っているのは保健教諭、玄野メリア。非常時の教師たち全員への連絡担当である。
「篠崎さん、その情報、確かなのね?」
「はわっ!?ひゃわっ!?ええっと!あの!?ひゃいっ!?」
「落ち着いて。返事はテレパシーでもいいから。」
『…はい…でも私が彼と対話できたのはほんの数分だけでしたから…』
「それにしても。まずいわね。保護者、失格ね…」
この子、篠崎ユリアさんの話によると、神楽マイと芹澤アツシは二人とも生きている。しかし芹澤アツシにはテレパシーで一時的に連絡が取れたものの、すぐに音信不通となってしまった。
帝変高校に入学してきた「特定保護対象者」が二人も拉致された。これは、失態だ。
あの二人は、その利用法を知る者には特に価値がある。
目的は…どちらか一方か…それとも、両方?
誰が?いや、欲しがる者たちなどいくらでもいる。
今の問題は、彼らが、今、どこにいるのか。
「居場所も向かう先もわからないとは…」
頼みの綱は、この子、篠崎さんのおぼつかない能力と、拉致された当人たち。あまりにも頼りない。
まさか、入学早々、こんなことになるなんて…
もっと早くに彼に自らの異能の特性を一部でも伝えていれば…!
彼なら自分で身を守ることもできただろう。
いや、今から悔やんでも仕方がない。もし、彼が無事に帰ってきたら可能な部分は打ち明けるよう。
その為に…できる限りのことはやらなければならない。
◇◇◇
気がつくと、俺はコンクリートの冷たい床に寝かされていた。
どうやら、車からは降ろされたらしい。
……!
しまった!
神楽さんは!?
どうなった!?
まさかもう、俺が寝ている間に…
そう考えて焦っていると頭の上で、声がした。
「なあ……今のうちに、やっちまおうぜ」
「ああ、兄貴が来るまでに終わらせれば、バレやしねぇって。痛くしねえから、な?」
「いやっ!やめてよ!」
「おとなしくしろ!このガキがッ!」
目隠しされていて、詳しい状況はわからない。
でも、これだけはわかる。俺がここで動かなければ、何かしなければ、取り返しのつかないことになる。
とっさに俺は手と足にはまっていた手錠を思い切り「あたため」はじめた。
これまで、金属をこんなに「あたため」たことはない。
今、自分が想像しているようなことが出来るかどうかもわからない。
しかしあたため続けると…俺の思った通り、手錠は熱を持ち、あたりに熱気が立ち込める。
赤く熱した手錠が、コンクリートの地面を焦がし、煙を立ち上らせた。
俺の近くにいた男がそれに気がつき、騒ぎ始めた。
「おいっ!?こいつ、何かやりやがったぞ!?」
そして、さらに温めると手錠だったモノは溶け、ドロリと地面に落ち…
ジュウウウウウウッ!!!!
音を立ててコンクリートを焼いた。
俺は手錠が溶けて外れたのを確認して立ち上がり、目隠しを引き剥がして叫んだ。
「俺が相手だッ!!!クソ野郎供ッ!!!!!!」
見たところ、相手は3人。
中肉中背の髪の長い男、筋骨隆々のタンクトップ男、そして、ナイフを持った入墨スキンヘッドの男。
その前には手錠で動きを拘束された神楽さんがいる。
勝てるかどうかじゃない。
どうせ、おとなしくしていても殺されるだけ。
ならばー
……死ぬ気で抵抗してやる。
「うおおおおおお!!!!!『熱化』ッ!!!!!」
俺は、先ほどまで手錠だった溶けた金属を持ち、さらに「温める」。
そして小規模の溶鉱炉のようにグツグツと煮え立ったそれを、一人の男に思い切り投げつけた。
「ぎゃあああああああ!?熱い!?熱いいいい!?」
ナイフを持つスキンヘッドの男から悲鳴が上がり、皮膚の焼ける音がする。
スキンヘッドは地面に転がり、悶え苦しんでいる。
そのタイミングで、筋肉質のタンプトップの男が距離を詰めてきた。
速い!
見た目からは想像もつかないような速度で俺に接近し…組みつこうとしてきた。
でも…
俺はその組みついてきた男をそのままにし、男そのものを「温めた」。
それは今まで、誰に対してもやったことはなかったが、きっと出来るということは確信していたことー
俺は奴の、「血」をあたためたのだ。
途端に、筋骨隆々とした男は痙攣し、地面に崩れて動かなくなった。耳と鼻から湯気が上がっている。
「ヒィイ!!!く、来るなァ!!!バ、バケモノめ!!!!」
先ほどまでの様子を見ていた髪の長い男は、俺たちがいる部屋…倉庫と思われる部屋の出口に向かって逃げ出した。
そして、男がドアを開けようとしたその時、先にドアが開いた。
部屋に入ってきたのは、迷彩の軍用ジャケットを着た男。
「オイオイ、使えねェなあ、お前ら。ろくにお留守番もできねえのかよ?」
そう言うと、部屋に入って来た迷彩ジャケットの男は右手を広げ…
ボシュッ
長髪の男の背中から「何かが生えた」。
「かはっ…?あ、兄貴…なんで…」
そして長髪の男の口から血が吹き出て、男はそのまま地面に倒れた。
「感謝しろよ。本当に使えねェお前らを、ここまで使ってやったんだ。逆に金払って欲しいぐらいだぜ。」
迷彩ジャケットの男は長髪の男を足蹴にしながら言う。
「それで、だ。お前、こんなことしてくれちゃって、どう責任取ってくれるんだ?大事な商品に傷でもついたら…弁償でもしてくれんのか?」
話など通じるはずがない。こいつは…間違いない。異能者だ。
そしてこいつが属するのは、異能の国家による軍事利用でもなく、異能の企業による民間利用でもなく………
異能を殺人や強盗などの犯罪行為に利用する人間の集団……
「第三派閥……」
それが、俺が初めて出会った「敵」という脅威だった。
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