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01 あたためますか?

初投稿です。不定期で一気に更新することが多いと思います。

 それは俺、芹澤(せりざわ)アツシが中学3年生の冬のことだった。


 俺は家族と鍋を囲んで、熱々の鍋物を貪るように啜っていた。


「いつも思うんだけど。お兄ちゃん、それ…熱くないの?」

「いや、ちょうどいい食べ頃の温度だろ?」


 沸騰した鍋から取り皿に移し、湯気がもうもうと立ってるのをすかさずかっ込むのが俺の流儀だ。豆腐は一口で口の中に放り込む。これで今まで火傷したことなんてない。


「でもそれ、今さっきまでグツグツ煮えてたやつじゃん!おかしいよ!」


 中学1年生の妹、由香は思春期まっさかりだ。最近何事につけても自己主張が強くてうるさい。まあ、お年頃ってやつだ。


 親父は口元のレンゲをハフハフやりながら、


「はは、由香は猫舌だからなあ…」


 と呑気に流している。


「それにしても、こんな熱いのに、アツシはよく火傷しないで食べられるわねぇ」


 一家団欒、ありふれた夕食の風景だった。

 しかし不意にその時、俺たちを突如として巨大な地震が襲った。


「うわっ!? 何だこの揺れは!?」

「きゃあああああ!!!」


 直下型の震度6。

 震源地は不運にも俺の家のすぐ近く。

 床が垂直に跳ね上がり、食卓が跳ね上がる。


 ついでに煮えたぎっていた熱々の土鍋が中身ごと、俺の頭に降りかかってきた。


「むわあああああああ!!!!?」


 俺の頭から鍋物の飛沫と大量の湯気がたちのぼり、妹の由香と両親が悲鳴をあげた。


「きゃああああ!!!」

「アツシ!!!」

「い、今すぐ救急車を!!」


 パニックになる家族。

 しかし、そんな中……俺はとても冷静だった。


「いや、大丈夫……かな? ていうか……全然熱くない??」

「そんなわけあるか!あんな熱湯を被ったら大ヤケドだぞ!」


 親父は急いで俺が頭に被っている土鍋に手をやり、持ち上げ…

 不思議そうな顔をした。


「あれ……? ほんとに熱くない?」


 土鍋だけでなく、俺にかかった鍋の具や床にぶちまけられたスープまで…何故か人肌程度の「ぬるま湯のような温度」になっていたのだ。


 しばらく呆然と突っ立っていた俺はある可能性に思い当たった。

 そんなまさか、という気持ちもあるが、でもそうとしか思えない。


「これって……も、もしかして……」

「……」


 両親は顔を見合わせて呆然としている。


「それ…もしかしなくても異能だよ」


 誰もが思っていたことを、由香が最初に口にした。

 俺に「異能」があることがわかった瞬間だった。




 ◇◇◇




「はい、次の方どうぞ」


 そして俺は今、国立の異能研究センターにいる。

 異能鑑定を受けて、担当の美人鑑定官からその結果を聞いているところだ。


 そう、いつからかはわからないが俺はすでに異能を授かっていた。

 考えてみれば、俺はどこかおかしかったのだ。


 思いつく例を挙げると


「冷めたお風呂が適温まで温まる」

「夏場でも手に持ったアイスがずっと溶けない」

「蒸し暑い部屋でも俺の周りだけひんやりする」


 両親はそういう異変に全然気がつかなかったらしいが、妹は前々から感づいていたらしい。


 そして、俺の授かった異能は、国の専門施設が鑑定したところによると『温度を変える程度の異能 レベル1』。触れたモノの温度を変えることのできる力だ。


 異能といえば大戦時代の英雄達が持つような特殊能力。「世界の脅威」と恐れられる一方で、国を守る「第一級の戦力」ともされる異能力者。


 ふふふ、これで、俺も彼らの仲間入りってことだよなあ?

 内心ちょっとワクワクしながら、鑑定官の人に聞いてみた。


「あの!俺の異能の『【温度を変える者(サーモオペレーター)】』って、どうやったら国を守るような「戦力」として使えるんでしょうか?」


 せっかく異能を授かったんだし、無双とかしてみたいじゃん?

 胸いっぱいに夢が広がった俺に対して…

 金髪碧眼の美人鑑定官は深いため息と、とても可哀想なものを見るような目で答えてくれた。


「はあ…キミ、本気で言ってるの?」


 銀縁の眼鏡の奥で細められた目が、恐ろしく冷たい。


「え? ……あ、はい……一応」


 予想していたよりもはるかに冷たい対応にビビりつつ、俺は諦めずに言葉を続けた。


「俺、大戦で活躍した異能者の英雄の一人に憧れてて!自分もそんな風になれたらなぁって」


 俺は自分でも気恥ずかしいぐらいに夢を語った。

 だが返ってきたのは


「英雄? あなた頭は大丈夫?」


 とんでもなく冷たい言葉でした。


「あんなのは山を粉砕したり、核ミサイルを殴りとばしたり、大洪水で島を沈めちゃったり…世界の地形図をめちゃくちゃに書き換えた、バケモノの群れでしかないわ。それが英雄? 笑わせるわ」


 あれ?

 この人、国家公務員の人じゃないの? 口悪くね?

 ていうか、国の人がそこまで言っていいもんなの?


「逆に聞きたいんだけどね。キミは飲み物の温度を変えられるぐらいの力で…誰と戦うつもりなの?」

「……」


 ……うん。


 まあ、言われてみればその通りだった。

 俺の能力の強さを示す数字は五段階評価でいうところの「超常レベル1」。

 国のガイドラインによると異能の強さは大まかに分けて5段階に分けられる。



 ///////////////////



<異能能力評価指標>(S-LEVEL = 超常レベル)


S-LEVEL 1 潜在級 <無能>

超常の異能が発現はしているが現状では特に秀でた有用性が認められない者


S-LEVEL 2 汎用級 <有能>

何らかの形で国家にとって有用な異能と能力を有すると認められる者


S-LEVEL 3 一線級 <戦力>

個人単位で戦場前線で活動可能な強力な異能と能力を有する者、又は同等の有用性が認められる者


 ――絶対境界ボーダーライン――


S-LEVEL 4 戦術級 <災害級の脅威>

影響を広範の地理的範囲に及ぼすことのできる、戦術兵器級の価値が認められる異能と能力を有する者

(脅威度:核ミサイル単発級〜九九発程度)


S-LEVEL 5 戦略級 <国家崩壊級の脅威>

戦略兵器級の価値が認められる異能と能力を有する者 国家の最高機密級の存在で具体的には公にされていない

(脅威度:核ミサイル百発以上)



 ///////////////////



 俺は5段階評価中最低の「レベル1 <無能>」。

 つまり最弱でほとんど使いみちのない、無能力に毛が生えた程度の能力ってことらしい。


 うん、それは最初に聞いたから知ってた。

 戦闘に向かないどころか、特に有用性も見受けられないって。


 まあ人類が超えてはいけない限界「絶対境界(ボーダーライン)」を超えたレベル4とかレベル5の人間かどうか疑わしいぐらいのヤバい人達と比べればそうなのかもしれないけど…


 でも……でもさあ!!

 もしかするとってこともあるじゃん?

 せっかく異能に目覚めたんだし、俺にもワンチャンぐらいあるかもって思っちゃっても仕方ないじゃん?

 聞くぐらいはタダなんだしさ!


「ち、ちなみに能力の進化とかは? あるんですよね?」


 このかなりキツい感じの女性鑑定官が丁寧に教えてくれた所によると、


「一度発現した異能は『使用者の多少の成長』はあっても異能の特性自体は一生変化することは無い」


「また今後、複数目覚めるということも絶対に無い」


 そして


「キミのは珍しい能力には違いないんだけどね…使いみちが電子レンジにも劣るのよね」


 という聞きたくもない追加評価を頂戴した。


「そうですかあ。いやぁ、あまり役に立ちそうな能力じゃなくて残念だなあ!」


 俺は涙をこらえながら女性鑑定官に精一杯の虚勢を張ったのだが


「うん。全く役に立ちそうもないわ」


 …

 うっわ…

 この人、本当に心を抉ってくるな。素なの? 鬼なの?

 この人絶対恋人どころかお友達も居なくない?


 などということを考えていると、今までで一番鋭い目つきで睨まれた。怖い。


 ちくしょう!昨日までの俺の野望に燃えた夢とかワクワク感を返せ!

 期待して損したよ!!


 …いや。


 いやいやいや。待てよ!そうだ、逆に考えるんだ。


 考えようによっては、中途半端に強力な能力を授かって戦争の最前線に送り込まれちゃったり、人体実験のモルモットみたく扱われるよりはマシだとも言える。凹みまくった俺は無理矢理自分をそう納得させた。

 そうだ!下手に力を持って逆に自由を奪われるとかそんな展開じゃなかったのを喜ぶべきなのだ!


 いやあ!自由最高!

 無能万歳!

 一般人でよかったああああ!!!


「じゃ、じゃあ俺はまたこれで元の普通の生活に戻っていい訳ですね?」


「いえ…そんな訳ないじゃない?」


「えっ」


 俺の思考が一瞬が止まる。


「そんなのでも異能は異能。今後、君の人生…もとい能力は国家の管理下に置かれることになるの。春から君は帝都の異能者養成学校へ通うことになるわ」


「…えっ?」


 そんな……!


 予想外の展開に目を見開く俺。


 俺、地元の高校に進む気満々だったんだけど?

 俺の初恋の美少女エリちゃんとのハイスクールラブロマンス(予定)は?


「異能鑑定の結果、入学先はFランクの帝変高校で決まりね。ちなみに法律で決まってて拒否権とか無いから」


「……」


 鑑定官は俺の異能鑑定書に何かデカいハンコをポンと押して、


「はい、じゃあもう帰って良いわよ」


「……はい」




 ◇◇◇




 センターからの帰り道、俺は小腹が空いたのでコンビニに寄った。

 うめおにぎりをレジまで持っていくと、綺麗なお姉さんが笑顔でこう問いかけてきた。


「おにぎり、あたためますか?」


 俺は毅然とした態度でこう答えた。


「いえ、自分であっためますから」


 そして俺はコンビニを出ると……

 自然と目からあふれる涙をぬぐい、空を見上げながら決意した。


「絶対に……絶対に強くなってやるっ……!」

人物ファイル001


NAME : 芹澤アツシ

CLASS : 【温度を変える者(サーモオペレーター)】S-LEVEL 1


触れたものの温度を自分の任意の温度に操作できる。例としては…


「冷めたお風呂を適温まで温める」「冷めたおでんをアツアツに温める」「蒸し暑い部屋を快適な程度にひんやりさせる」「夏場でも手に持ったアイスがずっと溶けない」など。


実用性のない能力(電子レンジやエアコン、冷蔵庫でも代替可能)として最低のレベル1に分類された。触れたものが触れたものぐらいまでは能力の適用範囲内。


<特技>

熱化 ヒートアップ (あたためる)

冷化 クールダウン (ひやす)


///


ブクマや評価いただけると嬉しいです!


///


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下記広報用のついったーです。基本怪文書と広報だけですが、絡んでもらえると喜びます。

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俺は全てを【パリイ】する 〜逆勘違いの世界最強は冒険者になりたい〜


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下記広報用のついったーです。基本怪文書と広報だけですが、絡んでもらえると喜びます。
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