6/10
6フレーム目 『先輩と作画と』
「先輩は、どうしてアニメを作りたいって思ったんですか?」
美濃は、作画したまま言った。彼がこのアニメ制作サークルに入って2か月。
その間、聞けなかった疑問を、やっと言えた。
「好きだったからだよ」
甲賀が答える。
「その人のことが」
昔の彼氏のことだろうか、美濃はそう思った。
「その人ね、アニメが好きだったの。でも」
少し間ができる。美濃は鉛筆を止めていた。
「でも、中一で死んだの。一緒の中学だったんだけど、結局一度も学校では会わなかったな」
美濃は視線を外す。自分の描いた線画が見える。
「私は」
甲賀の声に、美濃は顔を上げる。
「アニメが好きかどうかわからないんだ。でも、こうして作画をしてるとさ、少し落ち着くんだよね」
「…」
部室内の空調の音が大きく響く。
「ねえ美濃くん」
「なんです」
「キミ、もうちょっとだけ、作画していく?」
「はい」
「ありがと」
美濃はふたたび、紙に向かった。それを見て甲賀も鉛筆を持ち直し、目にかかった前髪をかき上げて作画し始めた。
部室内に、鉛筆を走らせる音が響いた。