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5フレーム目 『一陣の紫の風』
「ときどき『あの時もっとやりたいことやっとけばよかった』
と思うことは無い?私は…」
「あるよ」
「まだ話途中だよ」
イサは食い気味に応えるのが癖だ。
「ごめん、続けて」
「私は…これってさ、『あの時』を『今』って思えばいいんじゃないか
って思うの、つまり、『今』の自分は、未来で後悔した自分が、今に
やって来たってわけ」
「うーん?よくわからないよ」
「要は、生まれ変わった私ってことだよ」
というとシオンは立ち上がり、ベンチに腰掛けたイサの後ろに回った。
「というわけで、午後の講義サボろう」
「どこ行くん」
「一緒に行きたいお店ある」
「明日は?」
「今日が良い。だって…」
「どうして?」
また食い気味だ。シオンは答える。
「生まれ変わったから」
「ふーん」
イサも立ち上がる。
「じゃあ行こうぜ。今が『あの時』なら」
イサがそう言うと、シオンは大きく頷いて、二人は
学校とは逆方向に歩いて行った。