3フレーム目 『アゲハ蝶』
ユリちゃんのアゲハ蝶だけが、なかなか脱皮しなかった。
理科の授業で、各班でアゲハのさなぎを見つけてきて、それが脱皮、羽化するまでを観察するというものだ。
僕の班では、タイチとケイコ、そして僕のアゲハは既に脱皮したので、ケースからアゲハを逃がしてあげた。だから、ケースにはユリちゃんの見つけてきた、アゲハのさなぎだけが残っていた。
「ユリのアゲハだけはおっせーな!」
他の男子たちがからかう。
「私、のんびりしてるから、アゲハさんも似ちゃったのかな」
といいながら、ユリちゃんは少し寂しそうな表情をしていた。
数日後、朝登校すると、教室には一人、ユリちゃんがケースの前にいた。
じっとケースの中を見つめている。
僕はハッとして傍にかけよる。
「見て!」
とても美しい羽根がさなぎからのぞかせている。
そして、バッと羽が広がった。
僕らはただ、見とれた。
「きれい」
やがてさなぎの背が破れ、アゲハの全身が露わになる。
その様子がスローモーションのように、見て取れた。
羽根の黒と黄色による鮮やかな紋章。お姫様のようだった。
朝日が僕らのいる教室を照らす。
ユリちゃんと僕は、そのお姫様を、しばし二人で見つめていた。
今日は、休校日だ。