1フレーム目 『密偵は見ていた』
ヤスオはルカの密偵である。
簡単に言うと、ルカの知りたい情報をヤスオが密かに探り、それをルカに報告する役目だ。
「タカとユキが明後日にライブに行くらしい」
「3組の大林さんと、うちのクラスの橋本が付き合っているらしい」
そんな人間関係のちょっとした秘密なども、ルカの耳に入ってくる。ルカの耳は大きい。
「なかなか使えるじゃない、キミ」
ルカは特にヤスオをいじめているわけではない。ただ知りたいのだという。
この学校に蔓延る、ちょっとした秘密を。
「知ってどうするって?どうもしないわ。『キミには関係ないこと』よ」
ルカは自分の大きな耳を触りながら、ヤスオに応える。
「じゃあ次は、木谷先生が、音楽の増山先生に抱いている感情を調べてきてよ」
「情報は分かっても、他人の感情までは目に見えないからわからないよ」
「キミの見たまま報告すればいいの」
ヤスオは、ルカが知りたい情報に共通点があることに気づいていた。
そして、それらの情報は、ある一つの情報に関わっていることも知っていた。
ある日の放課後。いつものように、使っていない美術室に二人は話していた。
「ねえ、『吉田さん』。もうやめにしないか?」
「…」
「今まで僕が調べたことは、本当にキミの知りたい情報なの?」
「知りたい情報よ」
「僕の知る限り、キミは僕に対して、この学校の全員の情報を調べさせた。
僕ひとりを除いて」
「…」
「教えてくれ、キミの目的は何なんだ?」
沈黙が続く。やがて、机の上に座っていたルカが机から降りて。
「密偵君、じゃああとひとつだけ、調べてほしいことがあるの」
「なんだい」
「キミの明日の予定」
ルカの大きな耳は赤くなっていた。