アイスを融かす熱
髪型を変えると性格も変わる女の子の話、第四段です。
風邪引いてますねん。風邪には○○
一に睡眠、二に○○○
ママの手と○ィックス○○ラップ
くしゃみ三回○○三錠
○○○○でじきに直って
その零。男目線
風邪をひいてしまったわけで、
体温を測って温度を知ったら、そのまま力尽きてしまいそうなくらいの高熱を出している自覚があるわけで、
熱で朦朧としているせいか、とあるドラマのモノローグのような思考になってしまっているわけで、
とにかく、僕は今日、風邪で学校を休んでいるわけなのです。
父、母はそれぞれ仕事に行ってしまい、今は家に一人でいるわけで、
あ、電話が鳴っている。電話が鳴っているなら電話に出なければいけないわけで、
二階の自分の部屋から、一階の廊下の電話の前にようやくたどり着いたら、電話が切れたわけで。
ヘタリ込みつつ、もういちどかかってくるかもなんて思ってたり、
後から考えるとナンバーディスプレイがあるじゃんなんだけど、
いまはとりあえず失念していたり、
そのまま、気が遠くなってしまったりしたわけで・・・・
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その一。彼女の目線
今日彼はお休みでした。
なので、お見舞いに行くというか、今日配られたプリントを届けるというか。
どちらも合っていると言えるし、どちらも間違っているような気もする。
彼の家の場所ならばわかっている。
情報の収集、分析は【ポニーテールと眼鏡】にした私の得意分野。
こんなとき、【ツインテール】にした私だったら、
「おっ、お見舞いなんかじゃないわよっ。たっ、ただプリントを届けるだけなんだからねっ」
とか、言っているかしら。
でも、【ポニーテールと眼鏡】にした私だったら、きっとこう言うわ。
「うむ。お見舞いに決まっているだろう。風邪を引いた恋人を看病して、風邪をうつされるのはお約束じゃないか」
どちらも私。催眠術のおかげで手に入れた私の新しい性格。
無理に演じているわけているわけでもないし、それぞれが自然な性格。
彼の家に到着。カメラ付のインターホンだったので、
軽く身だしなみをチェックしたりして。
だって、ご家族の方がいるかもしれないし。
インターホンを押して応答を待つ。
ピンポーン・・ピンポーン
あら。応答がない。ご家族はお留守なのかしら。
でも大丈夫。
【ポニーテールと眼鏡】にした私だったら、きっとこう言うわね。
「うむ、大丈夫だ。なぜなら、この植木鉢の下に合鍵があるからだ」
うん。合鍵確認。玄関をそっと開けて中に入らせてもらう。
「・・・・・(おじゃまします)」
あれ?廊下に人が倒れてる!?
かっ、彼だ!!!
「・・・・・・・・・(わたわたわたわた)」
どっどどどどどどどどうしようっっっっっ
おっおおおおおおおおちつかなくちゃっっっっっっ
こっこここんなときは【ポニーテールと眼鏡】がいいんだけどっっ。
あああああっっ、めっ眼鏡がないっっっっ。
なっなななんで持ってきてないのよっっ、私のばかっっっっ。
りっりりリボンならあるからとっとっととりあえず【ツインテール】にしようっ。
【ツインテール】にして胸に手を当てて深呼吸をする。
「すーっ、はーっ、すーっ、はーっ、すーっ」
胸に手を当てたまま息をつく。
「はーっ。とっ、とりあえずちょっと落ち着いてきた、すーっ」
両手を後ろに回して、休めの体制。
「【ストレートへア】のわたしは、パニックになると収まらないから、はーっ」
でもまだちょっとあわてているので、独り言がとまらない。
「こんなとき一番冷静になれるのは【ポニーテールと眼鏡】なんだけど、だっ!大丈夫よ。記憶も共有しているし、当然同じ体で基本のスペックは同じなんだしっ!!」
体の前でぐっとこぶしを握り締める。
「そう。大丈夫。【ツインテール】にしているわたしにだって、ちゃんと看病できるわよっ」
そう。落ち着いたら、状況の確認だ。
彼は廊下にうずくまっている。
呼吸は規則的で、変ないびきもかいていない。
とりあえずは安心かな?
でも、すごい熱だ。暖かくして寝かせて、
氷嚢で熱を冷やしてあげないと。
一階にはLDKと、客間らしき和室がある。
彼の部屋は二階だろうけど、意識のない彼を二階に連れて行くなんて絶対無理。
和室の押入れに布団か何かないかしら。
押入れを開けてみる。期待通りの展開につい声を上げてしまう。
「ぃよっっしゃっ。布団ゲットッ」
布団を敷いて彼を運ぶ。わたしはこう見えて柔道の段を持っているので、
体格の割には結構力持ちだったりする。彼には絶対ナイショにするけど。
「ベッドは無理だけど、布団の上までなら何とか運べるわよっと」
布団に彼を寝かせて考える。
着替えの場所がわからないから、着替えさせるのは無理だけど、汗を拭いてあげたほうがいいよね。
氷嚢の場所がわからないけど、フリーザーバッグと、冷凍庫の氷で代用させればいいか。
何か食べれるようなら、消化にいいおかゆか何かを食べさせて、
スポーツドリンク等で水分と塩分も補給させたほうがいい。
汗を拭いてやり、フリーザーバッグ in 氷を彼の額に乗せる。
楽になったのか、寝顔が安らかになる。
「わっ、わたしにここまでさせたんだから、絶対元気になんなさいよっ!」
口調はいつも通りだけど、ボリュームは小さめになってしまう。
落ち着いてきた彼の寝顔を見ていたら、
ここに来るまで考えていたことがよみがえってきた。
【ストレートへア】、【ツインテール】、【ポニーテールと眼鏡】
いずれも私。もともとの私と、催眠術のおかげで手に入れた私の新しい性格。
無理に演じているわけているわけでもないし、それぞれがそれぞれ自然な私の性格。
髪型、性格を変えたからといって、学校の成績が特別よくなるというわけではないけれど、
性格によって向き、不向きっていうのはあると思う。
体育の授業なんかは、先生に【ツインテール】にするように、半ば、強要されていたりもする。
【ツインテール】にしていると、不思議と活躍できるのよね。やっぱり積極的になれるからなのかしら。
彼に話しかけることができない私に、友達が催眠術をかけてくれてから、
物事に対して、三通りの受け取り方ができるようになったと思う。
三通りの受け取り方をして、三通りの考え方ができるようになった。
彼と、三通りのやり方で仲良くなって、
彼と一緒にいて、三通りの時間の過ごし方をして、三通りの幸せを感じている。
だから私は、普通の恋する女の子の三倍、いや、それよりも、もっとしあわせなんだと思う。
七日後の友達の誕生日、感謝を込めて例年の三倍以上にお祝いしてあげよう。
あ、いっけない、もうこんな時間だ、帰らなくちゃ。
彼を起こさないように小さな声で話しかける。
「わっ、わたしが看病したんだからねっ、明日元気に学校に来ないとただじゃおかないんだからっ!」
はやく元気になってね。願いを込めて、彼の唇に、自分の唇を合わせた。
彼の家を出て、合鍵で鍵をかけ、鍵を元通り植木鉢の下に戻して家路に着いた。
翌日。しっかり風邪をうつされてしまい、彼に看病してもらったのは、
「べっ、別の話なのよっ!!」
めでたしめでたし?
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その二。女の友人目線
えー、今日は私の誕生日なんですけど、指差してたずねて見る。
「これは何かな?」
例によって、視線に思いを込めて見つめてくる
「・・・・・」
「誕生日祝いのケーキ?なのかな?」
「・・・・・(コクリ)」
うなずかれた。
例年通り、今年も彼女が作って持ってきてくれたんだけど、
「なんか、やたら大きくない?」
「・・・・・(ニコニコ)」
満面の微笑。
「日ごろの三倍の感謝を込めて?去年の三倍の大きさにした?」
「・・・・・(コクリ)」
「いや、無理無理、とてもこんなには食べられないよ、あたしを太らせる気?」
「・・・・・(ニコニコ)」
満面の微笑。
「それは感謝の意を仇で返すようなもんなんじゃない?」
文法がおかしいかもしれないが知ったこっちゃない。太らされるのはごめんだ。
「・・・・・(クスクス)」
なんだか、照れくさそうで、でもうれしそうで。
「そう思って、彼をつれてきたぁ?」
あーあー、ご馳走様。
あたしも彼氏ほしいなぁ・・・
約一名めでたくもなし。
お読みくださった方、ありがとうございます。
読んでくださったあなたを少しでも楽しませることができていたら良いのですが。
多重人格ではなくて、状況に合わせて「性格を使い分ける少女」の話だということが、
今回のお話で伝わりますでしょうか。
今回は、素直な【ツインテール】娘を書こうと考えたんですが、うまくいったかなぁ。
もうちょっと、融かすというか、デレデレさせたかったんですが、「彼」は寝たままだし、
でも、「彼」がおきたら、素直になれないだろうし・・・
もうちょっと発酵に時間をかけて、膨らましたほうがよかったかな?
第四弾目にしてやっと、全体のおぼろげな構成を考えはじめました(おいおい)。
〆の回では「ク○○が立った」みたいな感動の場面をお見せしますよ?(ホントかよ)
次回は、今から書くと、微妙に遅れてしまう「浴衣とうなじ」のお話にしたいと思っています。
物語の中の時間も歪むかも知れないんですが、
でも書きたいんじゃーっ「浴衣とうなじ」ということで。
「浴衣とうなじ」には、どの髪形がいいですかねぇ?
ま、うなじが見えるのといえば、アレかアレですけどね。
そういば状況に合わせて変形するゲッ○ー○ボが好きだったなぁと思いだしつつ。
今回はこの辺で。
2008/08/31
誤字修正「溶かす」⇒「融かす」