第9話:限界突破11 (第9話 終)
不運であった―――ヤヨイは、困難なレールガンの二十キロ狙撃を成功させたにもかかわらず、肝心のタイガーシャークの燃料タンクが、激しい戦闘の末、今このタイミングで空になっていたのだった。
そして、レールガンはサツキの予想通り、二回の射撃でもって、その銃身がひしゃげてしまい、もう再射撃はできない。
ヤヨイがヘルメットを脱ぎ、その悔しさを全身で表していると、コクピットのモニターの中で、撃たれたタイガーシャークが動き出した。
――――――!
ヤヨイが、タマキが、そしてサツキが、ミライミナト駐屯地の一同が―――戦場を見守るすべての者が息を呑んだ。
漆黒の機体―――KF-20タイガーシャークは、もはやジェットは使えず、また着弾の破損のため、機体バランスが大きく変動したためにホバーも使えない。
だがそんな満身創痍の状態でもタイガーシャークは、ヒューマンモードのその二本の足で、大地をしっかりと踏みしめながら、歩き出していた。
向かう先は、地に転がる暗緑色の機体―――KF-15Eストライクイーグル。それはすでに両腕を失い、また全身も限界突破の影響で、タイガーシャークと同じく満身創痍であった。
そして、先程の大転倒が致命傷になったかのか、こちらは今や動かぬ鉄塊と化してしまっていた。
コクピットの二人も軽い気絶から、今ようやく目覚め、お互いを気にかける。
「アカネ……大丈夫?」
まず、声をかけたのはアオイだった。
「ええ、なんとかね……アイツは?」
まだ霞む視界の中、アカネは敵機について尋ねた。
「まだ……いるみたい……こっちに歩いてくるよ……」
少しずつ戻る視界の中で、アオイはタイガーシャークの健在をアカネに告げた。
「……ぶっ倒してやるわ」
機関砲を撃ち尽くし、今また両腕のダガーも無くし、武装のすべてを失いながらも、アカネの闘争本能はその炎を失わなかった。
横転しながらも、タンクモードのまま、正座の様な姿勢で海に向かって鎮座するストライクイーグル。それに向かってタイガーシャークは、左腕の鎌を振り上げながら、一歩一歩近付いてくる。
万事休すか―――見守る一同が、あきらめかけた瞬間、
「アカネ、海が見えるよ!」
海を背にするタイガーシャークの、胴体の大穴から海を見たアオイが叫んだ―――そしてその一言で、アカネはすべてを理解し、カッと目を見開いた。
「アオイ、ジェットはいける!?」
「ラスト一回、いけるよ!」
「点火して!」
阿吽の呼吸で、二人はストライクイーグルに、最後の息を吹き込むと、機体は人型のヒューマンモードに変型しながら、迫るタイガーシャークに向かって、ジェット加速で特攻をかける―――だが、もう打撃用のダガーはない。
「いくわよ!」
アカネの叫びとともに、空中で両脚を折りたたみ、ストライクイーグルはタンクモードに変型すると―――ジェット加速そのままに、なんと戦車部の突端をタイガーシャークの胴体の大穴に向けて―――体当たりを敢行したのであった。
「うおおおおーっ!」
まるで二体の人馬戦車が合体した様な形のまま、アカネはアクセルを踏み続ける。
そして、そのまま数十メートル進み、もう海が眼前に近付いたところで、体当たりの衝撃で千切れたタイガーシャークの上半身が―――宙に浮いた。
見守る皆が、目を見張る―――そして、放り出されたタイガーシャークの上半身が、海面に着水した。
ストライクイーグルは、ヒューマンモードに変形しながら、両足を地面に擦りつけ加速を殺す―――そして火花を上げながら、なんとか湾岸部にとどまる事に成功し、タイガーシャークと向き合う形で、その動きを停止させた。
タイガーシャークが、海に水没していく―――いまだ鎌をを振り上げ、その戦闘意思を示してはいるが、いずれ海底まで沈み、機体内部に浸水すれば、完全に沈黙するのは明らかだった。
それを見届けたアカネとアオイは、ストライクイーグルのコクピットで茫然自失となっていた。
感慨からではない、限界突破を繰り返した二人の体力が、今度こそ限界を迎えたのだった。それに歩調をあわせる様に、ストライクイーグルも役割を終えたかのごとく、次々とモニターや、システムが停止していった。
並列複座のコクピットの中で、眠りに落ちる前、二人はモゾモゾと手を重ね合った。
「勝ったわ……」
「勝ったね……」
そう言葉を残して、意識を失ったアカネとアオイの手は―――無意識とは思えないほどの強さで、固く握り合わされていたのであった。
アカネとアオイの勝利を喜ぶ、ミライミナト駐屯地の仲間たち。困難なレールガンの支援射撃を成し遂げたヤヨイも、その疲労感から大きく息を吐きながらも、その表情はどこか嬉しそうであった。
そして人工知能バクフの制御室で、この世紀の一戦を見届けたサツキは、厳しい表情を崩さぬまま、しばらく呆然としていたが、戦況を映すモニターからようやく目をそらすと、ハッとある異変に気付いた。
それは、めまぐるしいスピードで計算を繰り返す、バクフの複数の演算モニターから―――それまで、演算式の中から消える事がなかった『フロンティア』の文字が、次々と消えていく様子であった。
「フロンティア……負けを認めて、撤退するのね……」
米軍AI機、KF-18ホーネット、KF-20タイガーシャークをハッキングする事によって、人工知能同士でありながら、同盟国である日本担当ガーディアン『バクフ』に援軍を送り続けた、アメリカ担当ガーディアン『フロンティア』。
だが、その全機をヴァルキリー隊に撃破された事実をもって、世界最強の人工知能は、人類との抗争から遂に手を引いたのだった。
残る役者は、人工知能バクフと人類―――そのアンサーに向けて、新たな展開が動こうとしていた。
第9話:「限界突破」終
第10話:「バベルの塔」に続く




