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人馬戦車は少女と踊る  作者: ワナリ


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第9話:限界突破10

「アオイ、燃料は!?」


「あと少しだけど……大丈夫!まだいけるよ!」


 ジェットの残り使用時間を気にかけたアカネに、勇気を与える様に、アオイは力強くそう答えた。


「でもこっちは―――機関砲が弾切れよ」


 苦笑いで言うなり、アカネは機関砲を投げ捨てさせると、ストライクイーグルの残った右腕から、ダガーを飛び出させた。


「エンジンへの攻撃は、あとはキサラギ少佐に任せて―――私たちは最初の計画通り、格闘戦でアイツを海に突き落としてやろう!」


「そうするしかないわね、了解したわ!」


 アオイの声に応じると、アカネは機体をジェット加速で、右腕を失ったタイガーシャークの右側面に滑り込ませる―――そして、反撃の危険のない安全な位置から、その右腹部にすれ違いざまの強烈なダガーの一撃を加え、ヒットアンドウェイの様に駆け抜けた。


 タイガーシャークのお株を奪う様な、加速打撃を繰り返すストライクイーグル―――だが、受け身に回ったタイガーシャークも、巧みなディフェンスと強化装甲で、アカネたちの思う様にはさせない。時折、繰り出す左腕の鎌からの反撃も、フロンティアの戦意が消えていない事を証明していた。


 人類が生み出した人型機甲兵器、人馬戦車ケンタウロス―――その最強の二機が、片や人間、片や人工知能に操られ、雌雄を決している。


「フルタンクで出撃したので、もう三十分以上も戦い続けています……」


 その戦闘を、駐屯地のモニターで見守るヴァルキリー隊の中、限界突破の戦闘が長時間に及んでいる事を、シオンが心配した。


「アカネ、アオイ……頑張るのですよ、あと少し、あと少しなのですよ……」


 終局に近付きつつある死闘を見つめ、チトセは二人にエールを送る。


 そしてカノンは―――何も言葉を発せず、両手を胸の前に組んだまま、真剣な眼差しで、ただただ二人の勝利を祈り続けていた。


「もう、ここまできたら……あとは、あの子たちと……キサラギ少佐に賭けましょう」


「ああ……」


 総括する様なミユウの言葉に、リンは力強く頷いた。言う通り、あとは己が未来を託した二人―――アカネとアオイを信じるだけである。


 人工知能バクフの制御室で、タカハネ=サツキも、間もなく終わるであろう、この戦いの行方に思いを馳せていた。


 最強の人間と、最強の人工知能が操る、最強の人馬戦車ケンタウロス―――その戦いの先に、果たしてどんな答えが待っているのだろうか。


 人類は人工知能をねじ伏せるのか、はたまたそれに屈するのか―――そこに『アンサー』の鍵があるのか―――もう、サツキでさえ、予測不可能であった。


「あーしがいるのが分かったんなら、なんで待てねーんすか、アイツらは!しかも、チョロチョロ動くんじゃねーっよ!射線に入ってるんすよ!」


 戦場であるミライミナトから、北方約二十キロの高層ビルの屋上では、レールガンによるタイガーシャーク破壊を狙うヤヨイが、緊張の眼差しの中、アカネたちの動きに苦言を漏らしていた。


「少佐、チャージ完了しました!撃てます!」


 そこに飛び込んでくるタマキの声。レールガン発射のための蓄電は完了した。だが狙いが絞れない―――めまぐるしく動くジェット加速の中で、二機は激しい近接格闘を繰り返していたため、下手に撃てばストライクイーグルまで巻き込む危険があったからである。


「一瞬でいい、止まれ……止まるっすよ……」


 その一瞬を逃すまいと、イーグルのコクピットで、ヤヨイはスコープを覗き込む―――様々な情報表示を、わずらわしく感じながら瞬きも忘れ、その時のために全神経を集中させるその姿は、まさに鷹であった。


 そして、戦場に最後の変化が―――決着の時が訪れた。


 繰り返される乱打戦の中、タイガーシャークを海に落とすべく、アオイの算出する誘導進路に沿って、アカネは機体を最後の限界走行で、縦横無尽に走らせていたが、


「アカネ、もうすぐ燃料がなくなる!」


 という、タイムリミットを告げるアオイの言葉に、まだタイガーシャークを海に誘導し切れていないアカネは舌打ちした。


 そして、それに追い打ちをかける様なアクシデントが、二人を襲う―――


 ジェット走行が、間もなく封じられる焦りもあってか、アカネがダガー攻撃を急ぎ、最大加速でタイガーシャークの右胴部に一撃を加えた瞬間―――ストライクイーグルの右腕が、無情にも肩口からもげて吹き飛んでしまったのだった。


 強化装甲に向けての、度重なる打撃。かつタイガーシャークの様に、ジェット加速でのダガー打撃など想定されていないストライクイーグルでは、いずれ訪れる当然の結果であった。


 そして、今度はアカネも受け身が取れず、ストライクイーグルはバランスを崩したまま、タンクモードのまま地面を激しく横転していった。


 だが、それが好機であった―――まとわりつくものが無くなったタイガーシャークは、その姿を無防備に、しかも偶然にも北に向かって、真っすぐに晒してくれたのだ―――ヤヨイの待ち望んだ、その瞬間がきたのだった。


「消し飛べー!」


 ヤヨイの気合一閃、北方二十キロから放たれたレールガンの光の帯が、今度は逸れることなく、タイガーシャークの胴部を深々と撃ち貫いた。


 強化装甲を撃ち抜かれ、胴体にポッカリと大穴を開けたタイガーシャーク―――しかし、その機体は倒れなかった。


「あ……あれ……少佐?ば、爆発してませんよ……?」


 発射を終えた高層ビルの屋上で、震える声でタマキは戦場を見つめ、呟いた。


 作戦では、タイガーシャークのジェット燃料タンクを、レールガンで強化装甲ごと撃ち抜き爆発させる―――しかし、標的はその胴体に大穴を開けたものの、爆発はせず、いまだ健在であった。


 タマキのヘルメットに、ギリギリという歯をくいしばる音が無線に乗って聞こえてくる。


「クソッ!このタイミングで空タンクっすか!」


 ヤヨイはそう叫び、無念に顔をしかめた。




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