第9話:限界突破8
「次いくっす!早くチャージを開始するっすよ!」
そう叫んだ、レールガンと呼ばれる電磁加速砲の射手の正体は―――イチガヤ駐屯地ゼロ部隊、『ゼロのキサラギ』こと、キサラギ=ヤヨイ少佐であった。
そして叫ばれた相手は、当然、別名『キサラギの小間使い』の異名を取る、同駐屯地所属のキンジョウ=タマキ少尉である。
「えーっ、またですかー!?この発電機、バチバチいってて、すっごく怖いんですけどー!」
その発射に膨大な電力を必要とするレールガンの、電力供給の任に無理矢理つかされたタマキは、恐怖の声を上げた。
東京湾の高層ビル屋上の、そのほとんどを埋め尽くす複数の巨大な発電機―――それをフル稼動させても、わずか直径八十ミリの対戦車砲を撃ち出すのが、やっとであったが、その飛距離は凄まじく、今、二十キロ先の標的の腕を吹き飛ばしてみせた。
だが目標を完全破壊した訳ではなく、ヤヨイは次弾の装填とともに、その発射のための蓄電を急いでいるのである。
「うるせー、キンタマ!余計な事、言ってねーで、さっさと全部の発電機をフル回転させるっすよ!」
「あー、もー、やればいいんでしょー!やればー!」
禁断の愛称とともに、ヤヨイに怒鳴られたタマキは、半ばヤケっぱち気味に、発電機を起動させる。
すると、まるでその空間だけが、雷雲の中に入ったかの様に、バチバチという破裂音と、スパークの光がその場を包み出す。
「ひいいーっ!」
タマキが恐怖の声を上げる。その危険な任務ゆえに、タマキもKF-15イーグルに乗って、作業に当たっているが、発電機の一斉ショートも考えられるその内容は、たとえ人馬戦車の中といえども、安心できるものではなかった。
その環境の中で、銃身約十メートルのレールガンを、全高約四メートルのイーグルが構えている。
シチガヤには、シチガヤの意地がある―――サツキに、その決意を告げたヤヨイ。
日本政府はサツキの脅迫があったとはいえ、ストライクイーグルを提供する事で、ヴァルキリー隊がタイガーシャークを撃破してくれる事を、内心では期待していた―――国内で米軍の秘匿機が、人工知能に操られ暴走する事態を、一刻も早く終息させたいのが本音であった。
そのため超法規的措置ともいえる、敵対勢力への実験型ジェット人馬戦車の提供であったが、それでも勝てるとは限らない状況の中、政府は独自のタイガーシャーク討伐を検討した。
そこで白羽の矢が立ったのが、政府の裏仕事を請け負うゼロ部隊所属であり、かつエース級の人馬戦車の操縦士でもあるヤヨイであった。
そしてその討伐方法は、日本が世界的に開発をリードしている電磁加速砲―――レールガンでもって、長距離狙撃を行うというものであった。
だが、まだ正式に運用には至っていない、レールガンの可能性は未知数であった。理論数値では十分、タイガーシャークの強化装甲を破れるだけの威力を秘めていたが、安全性は保証されておらず暴発の危険もあった―――まさに命がけの仕事であったのだ。
しかも、制約も存在した―――それは、その発射に膨大な電力を消費するため、そして銃身に多大な負荷がかかるための、発射回数の制限であった。
レールガンの開発にも、アドバイザーとして関与していたサツキは―――レールガンは、使えて二回―――とヤヨイに忠告した。
それに、「ワンチャンじゃねえだけ、マシっすよ」と気丈に答えたヤヨイだったが、一発目を外してしまった。
狙いは、タイガーシャークの燃料タンクを撃ち抜き、そのまま爆発させる―――アカネたちと同じ作戦であったが、弾丸は意に反し、その右腕に当たってしまった。
もう外せない―――それでもシチガヤの意地、すなわち日本の意地を、米軍機であるタイガーシャークと、それを操る人工知能フロンティアに思い知らせてやりたい。
はからずも、その思いは『人口知能に屈しない、人間の力を人工知能に見せつける』という、ヴァルキリー隊の思いと共通していた。
「大和魂……見せてやるっすよ……!」
そう言うとヤヨイは、ヒューマンモードの機体を射撃姿勢に着座させ、コクピットに装備された特殊スコープを覗き込み、遥か二十キロ先の標的を視界におさめた。
タイガーシャークは、限界突破を試み、機体に負荷がかかったのに加え、レールガンの着弾のショックで、まだ動けないでいる。
今なら撃ち抜ける―――だが、まだその準備が整っていない。
「まだか、タマキン!?」
苛立ちながら、これもまた禁断の愛称その二で、タマキに問いかけるヤヨイ。
「まだ全然、無理ですよー!フルチャージまでに、あと五分はかかりますよ!」
緊張した声で、状況を報告するタマキ。
あと五分―――それまでタイガーシャークが沈黙しているのか?しかも、ストライクイーグルは動きを停止させてしまっているのに。
急がなければ―――ヤヨイの心は、焦燥にかられた。




