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人馬戦車は少女と踊る  作者: ワナリ


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第9話:限界突破7

 KF-20タイガーシャークとの最終決戦の決意を胸に、湾岸部に突入したアカネとアオイの戦いぶりを、タカハネ=サツキも人工知能バクフの制御室で、息を呑んで見守っていた。


 昨日からのストライクイーグルの変化は、一定のリミッター解除によるものと見抜いていたサツキだったが―――今日の常識を超越したその動きは、それがいかなる理由なのか、いまだ理解が及ばず、ただただ驚愕し続けるばかりなのであった。


 高速移動形態のタンクモードで、ジェットエンジンを点火させながら、湾岸部を高速で駆け抜けるストライクイーグル。その素早い動きに翻弄され、タイガーシャークは戦闘序盤から受身に回り続けている。


 幾度となくジェットの加速戦を制し、タイガーシャークの背後を取るアカネ―――だがその背中のエンジンに機関砲を撃ち込もうとすると、そのすんでの所でタイガーシャークは、エンジン噴射口に備えられた強化装甲のフタで、その弾丸を防ぎ続けていたのだった。


 あまりの激しい戦闘のせいで、タイガーシャークの両腕に埋め込まれた二十ミリバルカン砲は、すでにその弾丸を使い尽くし、もはや残された武器は、同じく両腕側面に固定された大鎌のみとなっていた―――その大鎌でストライクイーグルを両断するためには、ジェットによる加速が必要であり、それを狙うタイガーシャークは、被弾の危険を含みながらも、そのフタを開け放つジェット加速を、幾度となく強いられているのであった。


 ペースは完全にアカネが握っていた―――だがその動きは、およそ人間の操作とは思えないものであり、そこがサツキの疑問でもあったのである。


 まさか―――と、サツキの脳裏に、ある考えが浮かんだ。


 もしや、有人機であるために施された、操縦者保護のための設定を全解除したのでは―――いや、まさか、そんな事をすれば人間の限界を超えた加速に、乗員の命さえ危うくなる―――だが、それしか考えられない。


 サツキの表情は苦悩に満ちたものとなった―――ついに、あのファントム使いの二人は、人ならざる領域に足を踏み入れたのか、と。


 実際、ストライクイーグルのコクピットでは、アカネとアオイが顔面蒼白になりながら戦っていた。


 昨日までとは比較にならない加速G、そして不安定な挙動、全身の血が消し飛んでしまう感覚に、意識を保つのがやっとの状態で、それでも二人は戦い続けていた。


 タイガーシャークを完全撃破で倒す。そして人間の屈しない心を、人工知能に見せつける―――その思いだけが、二人の心を支えていたのだった。


「だが、フロンティアも人ならざる人工知能……このままで終わるかしら」


 アカネとアオイの、人間を超越したその動きに感嘆しながらも、世界最強の人工知能―――フロンティアの底力を警戒したサツキは、思わずその懸念を口に出して、呟いてしまった。


 そして、激しい加速戦の中、再びタイガーシャークの背後を取ったアカネが、そのエンジンに向け機関砲のゼロ距離射撃を加えようと試みたが、またもやその寸前で噴射口にフタがかかってしまった。


 だが、今度はアカネもそれでは終わらない―――


「うおりゃーっ!」


 気合いの叫びとともに、機関砲を持つ逆手の左腕からダガーを出すと、アカネは機体を近接格闘戦形態のヒューマンモードに変形させるやいなや、大上段からタイガーシャークの後頭部に向けて、激しい一撃を加えたのだった。


 ガシーン、と激しい打撃音が響いた。それは全身を強化装甲で守られたタイガーシャークへの、致命傷にはならなかったものの、確実に深刻なダメージとなって、その機体を激しくよろめかせた。


 すると続いて、タイガーシャークもヒューマンモードに変形すると、鎌を振り回しながら、まるでボクシングのクリンチの様に、ストライクイーグルに組みついてきた―――まるで、その動きは時間稼ぎをするかの様に無様なものであった。


 瞬間、戦闘を見守るサツキに、嫌な予感が走った。


「フロンティア―――まさか!?」


 その直後、タイガーシャークはストライクイーグルを投げ飛ばす様にその場を離れると、再び機体をタンクモードに戻し、距離を取るためにジェット加速で離れていった。


 加速による鎌の攻撃を封じるために、同じく機体をタンクモードに戻し、その後を追うストライクイーグル―――だが今までのパターンと一変した、思わぬ反撃がアカネたちを襲う。


 タイガーシャークは加速中に、いきなりジェットエンジンを止めて、ホバーの逆噴射によって無理な急停止をすると、追走の勢いの止まらないストライクイーグルに向かい反転すると同時に―――その鎌で、左腕を空中に切り飛ばしたのだった。


 完全に不意を突かれた形になったアカネは、機体のコントロールを失ったものの、戦車部底面を地面に接触させ、激しい火花を散らしながら、なんとか転倒を免れ、再びホバーで浮遊する事に成功した。


 だが、息つく暇も与えてくれないタイガーシャークの猛攻に、ストライクイーグルは逃げるのが精一杯になってしまった。


「なんなのアイツ!?なんか急に覚醒したみたいに、強くなってるじゃないの!?」


 逃げながら、かわしながら、アカネはガラリと変化した展開に、驚きの叫びを上げる。


「みたいに、じゃないよ!覚醒したんだよ、アイツは!―――フロンティアが、タイガーシャークの限界突破を選択したんだよ!」


 アオイは気を失いそうな疲労感の中、それでも状況を冷静に判断して、そう答えた。


「タイガーシャークが!?限界突破!?フロンティアが、アイツのリミッターを外したって言うの!?」


「そうとしか考えられない……たぶん、さっき組みついてきたのは、プログラムを変更するための時間稼ぎだったんだ―――フロンティアも……勝つために必死だって事だよ!」


 アカネの問いに、苦しい息を吐きながら、アオイは懸命に叫んだ。


「フロンティア……やはりまだ、その先があったのね……」


 人工知能バクフの制御室で、戦局を見守るサツキも、自身の嫌な予感が的中した、この展開に目を見張る。


 タイガーシャークの運用に際して、人工知能フロンティアも、その機体の限界値を超えない様に、ある一線でセーブをかけていたのだが―――それを超えてきた予想外の人類の反撃に、もはやフロンティアもタイガーシャークの限界性能すべてでもって、対抗する道を選択したのだった。


 後先を考えないタイガーシャークの猛攻にさらされ、アカネとアオイは為す術なく、追い詰められつつあった。


 さらにスピードを増した高速戦は、体にかかるGもこれまで以上の激しさで二人に襲いかかり、その視界はだんだん暗くなっていく―――強烈なGによって、脳への血流が滞る事で起こる『グレイアウト』の症状であった。


 意識も朦朧としてきた―――このままでいけば、完全に視野を失う『ブラックアウト』から、失神に至る事は間違いなかった。


「いかん、もう限界だ!アカネ、アオイ、離脱しろ!」


 ミライミナト駐屯地の管制室から、リンが叫ぶ。戦闘を映し出す湾岸部のモニターを見つめる、ヴァルキリー隊の面々も皆、不安の色を浮かべ、二人の身を案じていた。


 だが、その声はもう届かなかった―――コクピットの無線で、遠く人の声が聞こえる気がするが、もう意識が混濁していた二人には、それがリンの声という事も識別できなくなっており、同時にストライクイーグルも、遂にその動きを停止させてしまった。


 対してタイガーシャークは、アカネたちと同じく、限界突破へ踏み込んだ影響のために、もはや機体制御に支障が出ているのか、ガタガタと機体を揺らしているが、それでもストライクイーグルに攻撃を仕掛けるべく、そこから距離を取るべく移動していった。


 狙いはひとつ―――動けなくなったストライクイーグルを、ジェット加速の鎌で両断して、とどめを刺すためである。


 そして、タイガーシャークは所定の位置につくと、まるで精神統一をする様に、ゆっくりとジェットエンジンに火を入れていった。


 これまでなのか―――サツキが、そしてリンたちが、息を呑んで戦況を見つめる。


 そんな中、ストライクイーグルのコクピットで、アオイは朦朧とした意識の中で思った―――悔しいな……頑張ったのにな……と。


 アカネは微かに残る視界の中で、それでもタイガーシャークをにらみ続けていた。そして、その漆黒の機体が右手の鎌を振り上げ、動き出そうとした瞬間―――


 光の帯が、ミナトミライ湾岸部を、音もなく突き刺した。


 その少し後、プゥワーン!という、聞いた事もない破裂音の様なものが、遠く北の方角から聞こえてきた。


 そして戦場では、今まさに、アカネたちを切り裂かんと、振り上げたタイガーシャークの右腕が―――宙に舞い上がりながら、粉々に粉砕されていた。


 何が起こったのか―――皆、状況がつかめない中、ミライミナト駐屯地の管制室で、ミユウが叫んだ。


「こ、これは……レールガン!」


 その光弾の正体を、ミユウが指摘した頃―――


 ミライミナトから北方約二十キロの、東京湾の高層ビルの屋上で、


「ちっ、外したっす!」


 全長約十メートルの、歪な銃器を構えるKF-15イーグルのコクピットで、その操縦士は舌打ちした。




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