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人馬戦車は少女と踊る  作者: ワナリ


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第9話:限界突破5

「これなら、やれるかもしれねえっすね……」


 そう呟いたヤヨイの目は、例の鷹の様な光を放っていた。それをまたサツキも、妖しい眼差しで見つめる。


「やるって、また何をする気なんですか少佐!?もー、また変な事、企んでるんじゃないでしょうねー!?」


 すかさずタマキが、嫌な予感を感じて不安を表明する。残念ながら、彼女のヤヨイに対する危険感知センサーは、百パーセントの的中率であった。


「うるせー、タマキン!準備するから、お前も来るっす!」


 所定の燃料を使い果たして、ストライクイーグルが撤退を始めたのを見届けると、そう言いながらヤヨイは、制御室を後にするべく歩き出した。


「あれは使えて二回よ……気を付けてね」


 ヤヨイの背中に向かって、そう告げたサツキ。その意味が分からず、二人を交互に見比べて、タマキは目をパチクリさせる。


「ワンチャンじゃねえだけ、マシっすよ」


 チラリとサツキに振り返ると、ヤヨイはそう言い残して、再び歩き出した―――その背中には、何か得体のしれない決意が満ちていた。それに不安を感じながらも、サツキに一礼すると、タマキもそそくさと、その後について制御室を後にした。


 一人残された、人工知能バクフの制御室で、サツキは満足そうな笑みを漏らしながら、物言わぬコンピューターに向かって呟いた。


「世界は……今度こそ、本物のバベルの塔を築き上げるのかもしれないわね―――その時は、アンサーを出したあの子たちに……バクフ、あなたのアンサーも、ちゃんと出してあげてちょうだいね」




 ミライミナト駐屯地に、ストライクイーグルが帰還してくる―――そしてハンガーに入り、機体を降りるアカネの表情は、昨日までとは打って変わり、自身に満ちたものとなっていた。


「いやーアカネ、すごいのですよ!今日はタイガーシャークの動きに、キッチリついていってるのですよ!」


「しかも、今日はこれで三回目の出撃ですが、回を追うごとに、アカネさんのキレが増している感じがします!」


 出迎えるチトセとシオンの声も明るく、アカネの成果を次々と称賛する。


「そう?まあ、これも実力ってやつしらね!」


 上機嫌のアカネが、それに鼻高々に応じると、


「そうやって調子に乗ってますと、海に突き落とされるのは、あなたの方になりましてよ。気を引き締めなさいまし!」


 と、カノンからの手厳しい忠告が、ピシャリと飛んでくるのであった。


 そして、いつもの様に二人の言い合いが始まる中―――ストライクイーグルの管制席から降り立った、アオイと目を合わせたリンとミユウが、満足そうに頷く。それを受けてアオイも、顔を上気させながら笑みを浮かべ、深く頷いた。




 昨日のブリーフィング後―――『試してみたい事があるんです!』と、ストライクイーグルの機体資料のすべてを閲覧させてくれる様、リンに要望したアオイ。


「話してくれないか、その策を」


 そこに状況打開の策を見出したのだと、ミユウとともにリンは理解し、この稀代の策士にその内容を問うた。


 それに、「はい!」と笑顔で応じると、招き入れられた司令室で、アオイは自身の推測から導き出した、策を語り始めた。


「おそらくなんですが……ストライクイーグルには、リミッターがかかっていると思うんです」


「リミッター……機能に制限がかかっているという事か?」


「はい、おそらくそれは公式の設定ではないと思うんですが、AI機のタイガーシャークに対して、有人機のストライクイーグルには、その運用が人間の限界を超えない様に、各機能にセーブがかかっているはずなんです」


「人間の体力の限界か……」


 完全機械のAI機に対して有人機は、それを操る人間の体力が続かなくなれば、その運用が停止してしまう。言われてみれば確かに、加速Gに対する操縦者の失神などを、ストライクイーグルが考慮していても不思議はないと、リンもアオイの説に納得した。


「それでアオイ准尉は、どうしようと考えているの?」


 リン同様、アオイの説に納得したミユウは、話を一歩前に進める。


「リミッターを……解除してみようと思います!」


 想像できる答えであったが、あらためてそれを耳にして、リンとミユウは息を呑んだ―――それは、人間の限界を超えてみると宣言しているのと、同じだったからである。


「大丈夫なの?」


 ここまで言うからには、相応の覚悟はできているはずだと思われたが、それでもミユウはアオイにそれを確認した。


「はい……アカネは言いました―――なんか思う様に動けない、こんな感覚は久しぶりだ、って―――きっと、それは初めて軍用ファントムに乗った時と、同じ感覚なんだったと思うんです」


 アオイの言葉に、リンとミユウはハッとした。そして、アカネが初めて軍用ファントムを与えられ、このミライミナト駐屯地を出撃した日を思い出した。


 あの日、アカネは軍用機の標準設定となっていた、セミオートマシフトの感覚に振り回され、その戦いの前半で苦戦していた。


 だが、アカネの真骨頂が、練習機に設定されていたマニュアルシフトにあったと見抜いたリンは、アオイにその設定変更を命じ、そこからアカネは生まれ変わった様に、ファントムを戦場に踊らせ、華麗に敵機を殲滅したのだった。


 それをリンとともに、管制室で見守っていたミユウも、その戦いぶりに感嘆したものだった。


 そしてリンとミユウは思う―――アオイの推論通り、どんなに困難であろうと、アカネには制限というものが、常にその足枷になってしまうのではないかと。


「やれるか……?」


 その説に納得しながらも、リンも今一度、念を押した。


「はい。でも、いきなりだと、さすがアカネもキツイと思うので、最初はそれを言わずに、徐々にプログラムを変更して、慣らしていこうと考えています」


「そのために、機体資料が必要だったのね?」


「はい。たぶんリミッター解除の設定はないと思うので、機体構成を理解した上で、手動でプログラム書き換えるしかないと思います」


 ミユウの指摘に、簡潔に理路整然と答えるアオイ―――アカネが操縦の天才なら、アオイはまさに、そのナビゲートの天才であった。


「分かった……全資料の閲覧を許可しよう―――だが……けっして無茶をするんじゃないぞ」


 すべてを納得した上で、アオイの要請を許可したリンであったが、アカネとアオイの身を心配する事は忘れなかった。


「はい、ありがとうございます!アカネなら、必ずやってくれると思います!」


 アオイは、弾ける様な笑顔で感謝を述べると、リンとミユウにそう請け合ったのだった。




 そして、その日のうちにストライクイーグルの機体構造を熟知したアオイは、すでに三回を終えた今日の出撃で、アカネに気取られぬ様に、段階別にリミッターを解除していった。


 アオイの予想通り、リミッターを解除していくごとに、足枷が外されかのごとく、アカネはストライクイーグルを縦横無尽に操り、三回目のさっきの出撃では、もうタイガーシャークとほぼ互角に渡り合うほどの、戦果を挙げていた。


 いける、これならタイガーシャークを倒せる―――


 真実を知るアオイ、リン、ミユウだけでなく、皆の胸にも希望の光が、差し込み始めたのだった。




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