第9話:限界突破3
それから話は、タイガーシャークの燃料が尽きた後の話になった。
順調とはいえない進行具合だが、このままいけば脱走機のため、補給の当てのないタイガーシャークの、ジェット燃料と機関砲の弾丸が尽きる事は間違いなかった。
しかし、ジェット燃料が尽きても、ホバーとのハイブリッド機ゆえに、その動きが完全に停止する訳ではなく、両腕の鎌と強化装甲に加え、世界最強の人工知能であるフロンティアが操るその機体は、依然、脅威である事に変わりはなかった。
ホバードライブであれば、互角の戦いに持ち込む事も可能かと思われるが、二十ミリ機関砲がまったく通らない、その強化装甲はやっかいである。
むしろ、ジェット燃料を搭載している状態で、そのエンジン部に被弾させて爆発させたいところだが、タイガーシャークはエンジンの噴射口を完全に閉じる機構を備えている―――ゆえに、それが不可能と判断したからこそ、燃料切れを狙うという戦術を選択しているのだった。
引き分けに持ち込む―――アオイが発想し、またヤヨイも提案した戦術であったが、それはジェット対ジェット戦の話であり、その後には、やはり勝たなくてはならない。
リンたちヴァルキリー隊の真の目的は、首都東京への進攻であり、そのためには、それを阻むタイガーシャークは撃破しなければならない障害である―――引き分けに持ち込んでも、それで終わってはならないのだった。
だが、一番の問題である強化装甲への対抗策が浮かばず、皆は頭を悩ませていた。
「まず二十ミリ機関砲では、まったく歯が立たないのは、これまでの戦闘で証明されている」
逃走時にミユウが、そしてストライクイーグルでアカネも、幾度となく機関砲を正面から当てているが、効果を上げていない事を振り返り、リンが難しい顔で呟いた。
「レールガンでもあれば、良いのだけれどね……」
「レールガン?」
ミユウから発せられた聞きなれない言葉に、アカネが首をかしげる。
「電磁加速砲の事だよ」
「電磁加速砲?」
アオイはレールガンに対する知識があるらしく、その別名を説明するが、余計に訳が分からなくなるアカネは、ただその言葉をおうむ返しにする事しかできない。
「うーん、簡単に言うと、二本のレールの間に電気を流して、その磁場を利用して弾を発射する……とにかく、すごい威力の武器なんだよ」
「レールガンの開発は、今、日本が世界をリードしているのだけれど、まだ実用化には至っていないのよ……非現実的な話をして、ごめんなさい」
ままならぬ現状に、聡明なミユウでさえ、希望的な発言をしてしまうあたりに、彼女たちの苦悩がにじみ出ていた。
「いっそ、近接格闘に持ち込んで、ダガーを打ち込んだ方が効果的かもしれません」
続いて、カノンが口を開く。
人馬戦車の主要武装は、二十ミリ機関砲以外に、両腕に格納されているダガーもある。元々、人馬戦車は近接戦を想定して開発されており、ゆえにそのダガーは、鋭角な短剣状の鉄塊といえども、その威力はクリーヒットすれば機関砲以上の威力を秘めていた。カノンは、そのダガーの可能性に言及したのだった。
「確かに機関砲がダメなら、あとはダガーなのですが……でも、タイガーシャークのあの鎌と近接戦でやり合うのも、相当に危険なのですよ」
チトセの言う通り、タイガーシャークはその両腕にダガーどころか、大型の鎌を装備している。ジェットが有効ならば、そのスピードを活かして、すれ違いざまに敵機を両断するそれは、おそらく近接戦でも相当の威力を発揮するだろう。
「まあ、そこは―――アカネが、なんとかするでしょう」
「なによそれ!」
チトセの危惧に対して、にべもなく言い捨てたカノンに、アカネはいつもの様に噛みついた―――先程のライバルを心から励ました風景はどこへやら、いつもの二人に逆戻りした有様であった。
「あ、あの……」
罵り合うアカネとカノンの喧騒の中、遠慮気味な、か細い声をシオンが上げた。
「どうしたシオン、何か意見があるのか?」
いつもの雰囲気にリラックスしたのか、リンは笑顔でシオンに問いかける。
「は、はい……あの、幼稚な発想かもしれないのですが……」
自信なさげに、そう前置きした後、シオンは勇気を振り絞って言った。
「海に……落としてしまうというのは、どうでしょうか?」
「―――!」
皆が目を見張ったのを、呆れられたと思い込んだシオンは、
「あ、あの……すみません!」
と、すかさず頭を下げたのだったが、その意に反して降り注がれてきたのは、称賛の嵐であった。
「そうか、その手があったか!」
「そこは盲点だったわね」
リンやミユウに続き、皆も次々とその作戦の有効性を認める発言を繰り返す。
着水機能を持たない陸戦機が、海に落ちるという事は、その時点で戦線復帰の道は絶たれ、それは撃破に等しい打撃となる―――タイガーシャークとて、それは例外ではないはずであった。
そして戦場は湾岸部―――条件は満たしている。
もし近接戦で、優位な位置を確保しながら、タイガーシャークを誘導して海に落とせれば―――それで勝利であった。
「シオン……見事でしたわ」
「お姉様……」
姉からの賛辞に、シオンは弾ける様な微笑みを見せた。




