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第1話:人馬戦車8

 自衛軍東部方面隊ミライミナト駐屯地―――


 そのブリーフィングルームらしき部屋に、アカネとアオイは座らされていた。


「うわー!ここ本物の作戦会議室だよ。すごいね、アカネ!」


 人がいないのをいい事にアオイは、はしゃぎ回っている。


 破壊されたファントムから引きずり出された後、軍事車両に乗せられ、ここに連れてこられるまでの道中も、終始アオイはこんな調子だった。


 人型機甲兵器である人馬戦車ケンタウロスについて学ぶ機甲科に入学するぐらいだから、その気持ちは理解できなくもないが、それにしても浮かれすぎだ。


 それ以外にも苛立つ理由がアカネにはある―――先程の完膚なきまでに叩きのめされた戦闘だ。


 今日初めて人馬戦車ケンタウロスに乗ったアカネだったが、それにしても見事に倒された。付け焼き刃ではあったが、乗りこなせているという自信を得ていただけに、そのプライドはズタズタに引き裂かれた。


 加えてその相手が自分に送った視線―――


 KF-14トムキャットの概要を、興奮気味に浮かれたアオイから聞かされたので、前席の見下した笑いを浮かべていた女が、ファントムに裏拳を食らわせた操縦士らしき事はわかった。


 そいつに対しても怒り心頭ではあったが、それよりもアカネの心をかき乱したのは後席の士官の視線。


 それは刺す様に真っすぐで、気高く誇り高いものであったが、アカネにはまるで自分が値踏みされている様な思いにかられたのだった。


(なによ、あの上から目線!)


 思い出す度に、怒りがこみ上げる。


 そんなアカネの思いを知ってか知らずか、アオイは先程の戦闘から話を逸らす。


「ねえアカネ、あんなに人馬戦車ケンタウロスの操縦ができるんだから、アカネも機甲科に編入しない?」


 冗談とも本気ともつかない問いを投げてくる。


「はあ?なに言ってんの。アタシはダンスで世界の頂点に立つのよ!それ以外はないわ!」


 得意満面で、そう切り返すアカネだったが、


「ほう、結構な事ですわね。人馬戦車ケンタウロスが滑稽に踊っていたのも、そのせいだったのですね。納得ですわ」


 それに冷や水をぶっかける様な言葉が割り込む―――声の主はマキナ=カノン。アカネに敗戦の屈辱を与えたトムキャットの操縦士だ。その時の、人を見下した態度同様、言葉にもいちいち棘がある。


「あの時の!」


 身を乗り出そうとするアカネを、肩を掴んでその動きをアオイは制する。


「フン!自分の立場をわきまえなさいな。あなたは、ここに連行されてきているのですわよ」


 上品な口ぶりだが、カノンの言葉は、やはりいちいち鼻につく。アカネを抑えたアオイでさえ、苦笑いでそれに応じるしかなかった。


「待たせたな」


 そこにまた一人の女性が加わる―――その瞬間、眼鏡の奥のアオイの瞳が輝き、先程はアカネの身を抑えたにもかかわらず、今度は自分が遠慮なく身を乗り出してしまう始末だった。


「自衛軍東部方面隊ミライミナト駐屯地司令、クスノキ=リン大佐!」


 もうミーハーとしか言い様がない程のノリで、アオイはリンに近付こうとしたが、素早くカノンがその間に入り、あろう事か拳銃を向けてくるではないか。


「言いましたわよね。立場をわきまえなさいと」


「くっ、アンタなにやってんのよ!」


 怒りの導火線に火の付いたアカネは、もはや制する者がいないのを幸い、椅子を蹴って飛び出そうとしたが、


「よせ、カノン。ヒビキ=アカネ、お前も落ち着くんだ」


 カノンの腕を掴み拳銃を降ろさせ、もう片方の手でアカネに向かい『止まれ』のポーズを作り、リンはひとまずその場を収束させた。


 抵抗したとはいえ、自身が操縦するファントムを完膚なきまでに叩きのめし、それから有無を言わせずここまで連行してきたばかりか、今また自分に向かい手のひらひとつで、その動きを掌握するリンに、アカネは形容し難い嫌悪感を募らせていった。


 なにかこの女の手の上で踊らされている様な気がする―――言うなれば、そんな感情かもしれなかった。


 だが、リンはアカネのそんな感情などお構いなしに、


「とりあえず座ってくれ、コダマ=アオイ。ヒビキ=アカネ、お前もだ」


 話を前に進めるべく、二人に元の位置に着席する様に促した。そんな態度もアカネには、いちいちカンに触る。


 二人が着席すると、


「質問だ。あの時お前たちは、あそこで何をしていた?」


 リンはまったく無駄のない、簡潔な言葉で事情聴取を開始した。




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