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人馬戦車は少女と踊る  作者: ワナリ


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第9話:限界突破1

「くそっ、速いわ!」


「アカネ、後ろを取られないで!一旦、逃げるわよ―――三秒後にジェット点火!」


 ストライクイーグルのコクピットで、激しい焦りを見せながら、アカネとアオイが叫んでいる。


 場所はミライミナト湾岸部―――米軍、ホーネット部隊、タイガーシャーク、そしてヴァルキリー隊が、戦闘を繰り返してきたこの場所で、アカネとアオイは日本政府から提供されたストライクイーグルを駆り、今またタイガーシャークと相対していた。


 アメリカの秘匿機に対して、日本の秘匿機でもって、それにあたる―――まさに、毒をもって毒を制す有様であった。


 タイガーシャークの機動力についていけないと判断したアオイは、ストライクイーグルのジェットエンジンを点火させ、戦域離脱を目論む―――そしてジェットエンジンの轟音の中、人型形態のヒューマンモードから、両脚を折り畳み、高速移動形態のタンクモードに変形すると同時に、アカネがアクセルを踏み込むと、ストライクイーグルはものすごいスピードで、タイガーシャークから遠ざかっていった。


 ホバードライブの二倍近い、そのスピードの加速Gに耐えながら、


「アカネ、追ってくるよ!たぶん鎌でくる!あと百メートル進んだら、急速反転して鎌をかわしながら、弾幕で威嚇した後、あいつの後ろを取って!」


「簡単に言わないでよ!こっちは、よけるだけで精一杯よ!」


 二人はお互いに叫びながら、必死に戦っていた。ジェットの轟音のせいで、普段は開けたままの、フルフェイスヘルメットのバイザーをおろさないと、会話もままならい状況であった。


 アオイの指示ポイントで、アクセルを緩めて旋回運動を取るアカネ―――その横Gは、このまま首がもげるのではないかと思うほどきつく、骨がきしむ思いであった。


 うまく反転を決めたストライクイーグルが、その暗緑色の機体を、迫り来る漆黒のAI機―――タイガーシャークに向ける。


 そしてジェット加速で近付くそれに、こちらもジェット加速で向かっていく恐怖を押し殺しながら、アカネはアクセルを踏み込んだ。


 アオイがモニターに映し出した、敵機の予測進路と、こちらの予定進路を一瞬で見定めると、アカネはストライクイーグルの機関砲のトリガーを引きながら、操縦桿をミリ単位で操り、タイガーシャークに向けて特攻していく。


 対するタイガーシャークは、その最大の武器である、両腕の鎌を大きく開いて向かってくる―――その加速を活かした斬撃の威力は凄まじく、先の逃走戦では支援機のファルコンが、腰から一刀両断にされている。


 浴びせられる二十ミリ機関砲をものともせずに、タイガーシャークは迫ってくる。だが、その弾幕のせいで、直線軌道を接触ギリギリで外してくる、ストライクイーグルへの対応が一瞬遅れた。


 その隙を突いて、鎌を紙一重でかわすとアカネは機体を、近接戦闘形態のヒューマンモードに変形させるやいなや、形成された脚部を前にせり出し、アオイがジェットから切り換えたホバー動力を、逆噴射の様に前方に吹き出しながら、機体のスピードを懸命に殺した。


 ここで反転、ジェットで再加速して、通り過ぎたタイガーシャークの背後を取る―――つもりが、減速、反転に手間取ったせいで、タイガーシャークはもう遥か彼方まで遠ざかってしまっていた。


「チッ!ファントムなら、こんな事ないのに!」


 思う様に進まない戦局に苛立ったアカネが、思わず吐いた一言だった。


 確かに、今までアカネが駆ってきたKF-4ファントムなら、反転にこれほどの手間と時間を要する事はなかった。


 だがそれは根本的な機体構造の違いであり、車輪走行の第三世代機であるファントムは、地面との摩擦を活かしたブレーキ、及びターンが可能であった。


 対する第四世代機はホバー走行であり、その逆噴射という手段はあっても、基本、ブレーキという概念はなく、いかにコンパクトな旋回軌道を取れるかが鍵であった。


 ファントム使いと異名を取るアカネも、ホーネットとの海上戦で、ホバー駆動のN型ファントムを経験した事により、今では第四世代機にも順応してはいたが、ジェットエンジンはやはり勝手が違いすぎた。


 加えて、ストライクイーグルが実験機なのに対して、タイガーシャークは実戦機。そして、それを制御しているのは、世界最強の人工知能フロンティア―――その機体制御に無駄はなく、もうアカネはこれまで、何度もその動きに翻弄され続けていた。


 次こそは、と挑んだ今回も状況は変わらず、遂にアカネはファントムならば、と意味のない愚痴を漏らすまでに、その心は追い詰められつつあったのだ。


 仮にファントムで挑んだとしても、ホイールドライブのそれが、正面からジェットと渡り合える訳もなく、そんな事は百も承知の上だが、それでもダンス走法で、無敵の強さを誇ったファントムを、思わずにはいられないアカネであった。


「アカネ、燃料が少なくなってきてる……距離が離れた今は、かえって好都合だよ。駐屯地に戻ろう」


 管制パネルの燃料計の表示を見ながら、アオイは撤退を指示した。


 残量から計算すると、もう二、三回のジェットを利用したアタックが可能と思われたが、アカネのモチベーションの低下をアオイは重視した―――集中の糸が切れた状態の戦闘は、あまりにも危険だからである。


「今なら、一気に逃げ切れるよ!タンクモードに変形!」


 まるで命令の様な強い口調で、アオイがそう言うと、アカネは悔しさに歯噛みしながらも、黙ってその言葉に従い、機体の変形操作を行った。


「ジェットエンジン点火!アカネ、逃げて!」


 アオイの号令とともに、ストライクイーグルの機体側面に搭載されたジェットエンジンが火を吹く―――それを、戦う事ではなく、逃げる事に使わなければならない現実に、アカネのやり場のない怒りは、募るばかりであった。




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