第8話:ストライクイーグル9 (第8話 終)
その言葉を受けて、ヤヨイはニヤリと笑った。
やはりこのJKは切れる、本物だ―――世界最強の人工知能を破った頭脳はダテではない、と。
「お前……気に入ったっすよ。実は、あーしも今からその事を教えてやろうと思ってたんすよ」
ヤヨイは嬉しそうに、アオイを見つめたまま、そう言った。アカネの事も、タマキの事も、内心では気に入っていても、彼女たちに対しては、ヤヨイはそんな素振りはおくびにも出さない―――人の愛情表現は、複雑なのだ。
「勝てなくても、引き分けになら持ち込める方法が、あるって事?」
神妙な面持ちでミユウが問いかける。彼女も策士ゆえに、アオイとヤヨイの発想に、興味をそそられているのだ。
「あるっす……そのためには、まずタイガーシャークとストライクイーグルについて、説明するっすね」
機密情報レベルの内容を、ヤヨイがいとも簡単に暴露しようとしているのに、傍のタマキはアワアワとするばかりだったが、当然それには構わず、ヤヨイは語り始めた。
「まず、人馬戦車の動力源は永久電池っす。それによって第四世代機は、駆動部とホバーを動かしてるのは、知っての通りっす―――だから基本、人馬戦車は機体が限界値を迎えるまで、永久に稼働でき、しかも爆発しない……」
そこまでで、聡明な者はヤヨイの意図を悟り、ハッとした顔になった。
「しかし、ジェットエンジンには燃料がいる。それはいつか尽きるものであり、しかも万が一、それに引火すれば爆発もする―――」
「つまり、タイガーシャークのエンジンに被弾させれば、勝てるという事か!?」
たまらずリンが、結論を急いだ。
「フフッ、それができればっすね―――でも、できないっすよ……そのストライクイーグルではね」
謎かけの様な言葉に、一同が困惑するのに満足しながら、ヤヨイは言葉を重ねる。
「タイガーシャークは……そのストライクイーグルも同じっすけど、ジェットとホバーのハイブリッド機っす。で、タイガーシャークは都合が悪くなると、背中のジェットエンジンにフタをして、ホバー駆動に切り換えちまうんすよ―――つまり背後を取って、いざエンジンに機関砲を撃ち込もうとしても、できないんすよね……これが」
ニヤリ笑うヤヨイに、一同、言葉を失う。タイガーシャークが実戦機であるという事を、思い知らされた瞬間であった。
「弱点は封じているという事ね……しかもあれは相当の強化装甲……私も二十ミリ弾を正面から当てたけど、ビクともしなかったわ」
「あれをここまで引き寄せた時に、反転する奴の背中に、一斉射撃を加えたのに、なんの効果もなかったのは、そのせいか……」
ミユウとリンが、タイガーシャークからの逃走劇を思い返す。ヤヨイの説明によって、皮肉にもその時の疑問がすべて理解できた。
「いくらストライクイーグルでも、タイガーシャークの背後を取るのは至難の技―――仮に取ったとしても、パタンとフタをされて終わりっすよ……だから、勝とうなんて思わない事っす」
そう言い終えるとヤヨイは、リンたちの希望を打ち砕いた事に、少なからぬ喜悦を感じてニヤついた。
だが、いつの間にか、ストライクイーグルのコクピットから降りてきたアオイがその正面に立つと、
「なら、つまり……タイガーシャークを燃料切れに追い込んで、あれをただのホバー機にしてしまえば……それなら、互角に―――引き分けに持ち込めるって事ですよね!?」
なんと、ヤヨイが提示しようとした案を、見事に言い当ててしまった。この展開に、今度は本心から嬉しくなって、ヤヨイはさらにニヤついてしまった。
「その通りっす、大正解っすよ……でも、それも簡単じゃあないっすよお……」
ヤヨイの言葉に、アオイの隣まで降りてきたアカネも、真剣に聞き入っている。
「タイガーシャークは……それを操るフロンティアは賢いっす。けっしてタイガーシャークが、不利になるフィールドでは戦わないっす」
タイガーシャークは、ヴァルキリー隊の追撃に失敗した後、首都東京への入口を塞ぐべく、またもや湾岸部に陣取っている―――すなわち広大な敷地の湾岸部は、タイガーシャークにとっても、有利な戦場であったのだ。
「敵のフィールドで、あのタイガーシャークの機動力に合わせながら、燃料切れになるまで、延々走り回るんすよ―――まあ、こっちは燃料補給して、仕切り直しもアリっすけど……それもその前に、やられなきゃの話っすけどね」
それを聞いて、リンの表情が変わった。
「待て!?―――という事は、ストライクイーグルもエンジン部に被弾すれば、爆発するという事か!?」
血相を変えて問うリンに、
「ジェットなら当然の事っす。かつ実験機のストライクイーグルに、便利なフタなんて付いてないっすからね……タイガーシャークの燃料が切れるのが先か、ストライクイーグルが捕まるのが先か……」
ヤヨイは非情の宣告を突きつけた。
「待て、ストライクイーグルには、やはり私が―――」
アカネたちの危険を思い、そう言いかけたリンに、
「待ちなさい、リン!こいつは私が乗るわ!」
毅然とした態度で、アカネはそう言い切った。その顔には、虚勢など微塵もなく、あるのは迷いのない凛とした決意であった。
「だがアカネ、やはり危険すぎる」
と、それでもその身を案じるリンに、
「リン、アンタはアタシに賭けたんでしょ……なら、最後まで迷うんじゃないわよ。あとアタシは、アンタに言われたからだけじゃなくて―――アタシの意思で、ストライクイーグルに乗って、タイガーシャークに勝ってみせるわ!」
引き分け―――ではなく、あえてアカネは『勝つ』と言い放った。
「リン大佐、私もアカネと同じです!だから私たちに任せてください!」
アカネに続き、アオイもその覚悟と決意を表明した。その二人の勇姿に、駐屯地の一同ばかりでなく、ヤヨイとタマキまでが心を震わされた。
「決まったっすね……健闘を祈るっすよ」
そう言うと、ヤヨイは一同に背を向け、待たせ続けているトレーラーに向かって歩き出した。その後を、一同に礼をしてから、タマキがそそくさとついていく。
だが、フッと何かを思い出した様に、ヤヨイは振り返ると、
「頑張ってる子には……必ず天からの助けが来るっすよ」
と、アカネとアオイに向かって、意味深な発言をすると、再び背を向け、手を振りながら歩き去っていった。
狐につままれた様になる駐屯地の一同―――まったく、嵐の様な、ヤヨイの駐屯地訪問であった。
「届けてきたっすよ―――」
人工知能バクフの制御室に、ミライミナト駐屯地からの帰路に立ち寄ったヤヨイは、この計画の立案者であるタカハネ=サツキに、ストライクイーグル引き渡しの一部始終を報告した。
「報告感謝するわ……今日は可愛いお連れも、ご一緒なのね」
サツキは、ヤヨイの傍で警戒心を前面に出している、タマキに向かって目を細める―――本来、サツキへの政府からの取り次ぎは、ヤヨイ一名しか許されていないが、今や『共犯者』となったヤヨイが意味のない人間を連れる訳がないと、サツキの方ではタマキに、まったく警戒心を抱いていない。
だからサツキは、タマキの前でも重要事項を、平気でヤヨイと語り合う。それにタマキは目を白黒させている―――そこには国際レベルの機密事項が、次々と繰り出されていたのだったから、無理もない事であった。
そして、その締めくくりとして、サツキはヤヨイに問いかけた。
「で、あなたは、やる気なの?」
それにヤヨイは、「ああ、やるっすよ」と答えると、隣のタマキが思わずゾッとするほどの、いつもの彼女からは想像できない、怒りに満ちた険しい表情を見せた。
「シチガヤには……シチガヤの意地があるっすよ!」
そう言ったヤヨイの目は、まるで獲物を狙う鷹の様に鋭かった。
第8話:「ストライクイーグル」終
第9話:「限界突破」に続く




