第8話:ストライクイーグル8
「そ、その呼び方は、やめてくださいって言ってるじゃないですか、少佐!」
「じゃあタマキンの方が、良かったっすか?」
抗議の声に対して、さらなる侮辱で応じるヤヨイ。
「わーっ、なんでそっちも言うんですか!ほら、見てくださいよ、ミライミナトの方たち、完全に引いちゃってるじゃないですかー!」
周囲の呆気に取られた視線を感じて、暴言を吐かれた女は涙目になりながら、再びヤヨイに向かってわめき散らした。
このままでは収拾がつかないと、冷静に判断したミユウは、
「そちらは……少佐の部隊の方かしら?」
と、苦笑いの引きつった表情ながら、つとめて平静を装って問いかけた。
すると女は、ハタと我に返った様に、背筋を目一杯に伸ばし、敬礼のポーズを取ると、
「し、失礼いたしました!わたくしは、東部方面隊シチガヤ駐屯地、キンジョウ=タマキ少尉であります!」
と、幼い容姿に負けない様に、ことさら大人ぶった態度と声音で自己紹介するのだが、それがかえって彼女の可愛らしさを引き立ててしまっていた。
「み、皆様、お騒がせいたしました」
そう言いながら、頭を下げるタマキ。早くこの話題を終了させるべく必死であった。
だが、そんな彼女の頭上から、
「『キン』ジョウ=『タマ』キ……なるほどね……」
と、ことさらアクセントをつけて、感心しながら頷く、アカネの声が降りそそがれてきた。
ストライクイーグルのキャノピーを閉めないまま、一部始終を見守りながら、余計なタイミングで、余計な一言をぶちかますあたりは、まったくもってアカネらしかった。
「ちょっ、ちょっとアカネ」
と、隣のアオイが止めに入る。チラと下を見ると、タマキが涙目のまま恨めしそうに、こちらを見ていたので、アオイももはや、苦笑いする以外に手段がなかった。
「そうそう、それでキンタマっすよ。もしくは名前の方で、タマキンって可愛く呼んでやってもいいすっすよ!」
そこにヤヨイもさらに被せてくる。口調を変えて、可愛く言ってくるあたり、タチが悪いとしか言いようがなかった。
「はあ……もういいです。少佐、帰りますよ……」
ため息混じりに、タマキは呟く―――これ以上、抗っても意味がない事を経験上悟った彼女は、ヤヨイを連れ帰るという、任務の遂行を優先させる事に、気持ちを切り替えたのだ。
「で、この機体の使い方っすけどね―――」
「ちょ、ちょっと、少佐!まだ喋るつもりですか?帰るんですよ?人の話、聞いてますー!?」
ストライクイーグルを指差しながら、その運用について語り始めたヤヨイに、その帰還を促すタマキは目を丸くする。
「こいつで、あれに―――KF-20タイガーシャークに勝てるとは、思わない事っすよ」
構わず語り続けるヤヨイの隣で落ち込む、タマキを不憫だと思いながらも、聞き逃せない情報に、まずはリンが質問を開始する。
「勝てないとは、どういう点でだ?できるだけ具体的に教えて欲しい」
「なに、簡単な話っすよ。タイガーシャークは、アメリカが戦闘用の人馬戦車として、本気で開発していた実戦機っすよ―――対して、ストライクイーグルは、そのタイガーシャークの技術を盗んで、日本が研究のために作ってみた試験機っす―――同じジェット搭載機でも……天地の差があるっすよ」
与えられたストライクイーグルに、活路を見出せたかに思えた一同に、ヤヨイの言葉は深く突き刺さった。
再び、暗いムードに包まれそうになる前に、一同の頭上から、
「あのー、上からで失礼します。質問していいですか?」
と、皆が囲むストライクイーグルのコクピットから、アオイが身を乗り出して、ヤヨイに声をかけてきた。
一同とともに、ヤヨイがその姿を仰ぎ見ると、アオイはハッと、何かを思い出した様に、
「あっ、私はコダマ=アオイ……准尉です。よろしくお願いします」
と、丁寧に臨時の階級まで付けた上で、自己紹介した。アカネが無礼な対応で、殴打された事を踏まえての対応だろう。
「ああ……お前が、フロンティアを止めたJKっすね……」
そう言いながら、ヤヨイはアオイの顔をマジマジと見つめると、
「いいっすよ、何が聞きたいっすか?」
と、見るからに好印象を持ったという、雰囲気を醸し出しながら、にこやかに問い返した―――明らかにアカネの時とは正反対の対応であった。自業自得の面もあったが、アカネはアオイのこういう、そつのない面が時として気に食わない。
それを前面に出して、唇を尖らせながら苦い表情を見せるアカネが気になったが、そこはアオイは割り切って、
「このストライクイーグルでは、タイガーシャークに勝てないって事ですが……」
そこまで言ってから一呼吸おくと、さらに身を乗り出して、まさにアオイならではの一言を放った。
「それなら―――どうすれば、引き分けに持ち込めますか!?」




