第8話:ストライクイーグル7
リンが選んだのは、第三の選択肢だった。
「えっ、なんで!?アンタとカノンが乗るんじゃないの!?」
予想外の指名に、アカネは素っ頓狂な声を上げる。
ストライクイーグルはジェット搭載という以前に、ホバードライブの第四世代機であり、アカネはホイールドライブの第三世代機使いなのだから、それに驚くのも無理はなかった。
第四世代機なら、そのエースであるカノンが乗るべき―――しかも、カノンとアカネは幾度となく、エースの座をめぐって争っている―――またもリンが自分を指名する事で、カノンが噛みついてくると警戒したアカネだったが、リンの後方に控えるその姿は、意外なほどに涼やかな顔をしていた。
「私はお前と、アオイに賭けようと思う。ストライクイーグルで、黒い機体―――タイガーシャークに挑んでくれないか?」
リンからの再度の要請に、
「アカネ、リン様はあなたを見出し、あなたにこの乱の終息への希望を託したのです。あなたがリン様の心に添ってくださるのなら―――ストライクイーグル、乗りこなしてみせなさい!」
と、叱咤激励をまじえ、カノンもリンの考えを支持する意思を表明した。
ライバルだったカノンの言葉は、アカネの胸を打った―――そして、その心は定まった。
「分かったわ、リン、カノン……アオイもいい?」
隣に立つ、パートナーに確認をするアカネ。リンからの要請は、アカネとアオイのコンビに対してだったからである。
「もちろんだよ、アカネ。リン大佐、お受けいたします!」
アカネに向かって頷くと、アオイはリンに向き直って、敬礼のポーズを取りながら拝命した。
これによって、KF-15Eストライクイーグルは、アカネとアオイが駆り、KF-20タイガーシャークに挑む事に決定した。
「しかし、こんな機体が日本で極秘開発されていたなんて……驚きなのですよ」
「本当ですよね。いくらイーグルがベースになっているからって、まさかジェットエンジンを載せた人馬戦車を日本が作れるなんて……」
さっそくアカネとアオイは、ランウェイに鎮座するストライクイーグルのキャノピーを開け、コクピットに乗り込んでみた―――それを見守る一同の輪の中で、チトセとシオンは、それぞれ感慨にふける様に、その暗緑色の機体を仰ぎ見ながら呟いた。
「ああ、その事っすか」
「うわっ!」
突然、ニョキっと二人の間から首を出して、話に割り込んできたヤヨイ。その不意打ちに、それを受けた当人だけでなく、その周囲の人間も驚き、のけぞってしまった。
だがそんな反応など、どこ吹く風で、ヤヨイは二人の疑問について語り始める。
「こいつは、日本がアメリカのジェット兵器開発の秘密試験場になっていたのをいい事に、そのデータをちまちまとネコババしながら作った、実験機っすよ」
「に、日本は、アメリカのジェット兵器の試験場だったというのか!?」
またもや驚愕の事実を突きつけられ、リンは思わずたじろいでしまった。
「タカハネ補佐官が言うには、大佐の乗ってるトムキャット―――あれの開発協力を補佐官が、日本政府から依頼されたあたりから、その関係は極秘裏に始まっていたそうっすね」
「では、リン様がテストドライバーを務めてらした、あの頃から……」
ヤヨイがトムキャットの名を出した事で、それにリンが関係していた事を思い、カノンは両手を口にあてて絶句する。
「タカハネ博士は……すべてを知っていたのね……」
「すべてを知って……それを止める決意をしていたんだな……あの頃から……」
ミユウの言葉に、リンは遠き日を思い、目を伏せた。
「あーしらシチガヤの人間でも、知らない事だらけっすよ……同盟国ヅラしながら、盗んだデータでこんなもん作ってたんすからね……」
首都防衛の要であるシチガヤ駐屯地の、そのまた政府直属の秘密部隊に所属しながら、サツキに教えられるまで、日本政府がアメリカに対して、面従腹背の同盟関係を演じていた事さえ知らなかったヤヨイも、しかめっ面でストライクイーグルを睨みながら、そう呟いた。
各々が、各々の感慨を抱きながら、場は沈黙に包まれようとしていた。だが―――
「ちょっとキサラギ少佐、いつまで油売ってるんですか!?機体の引渡しが終わったら、すぐに戻る様に司令からも言われてたじゃないですか!もう、どうしていつも少佐はそうなんですか!?この前も抜け出して、タカハネ補佐官に勝手に接触したり……後で怒られるのは、私なんですからね!もう、いいかげんにしてくださいよ!」
静寂を突き破る、マシンガンの様な叫びが、ヤヨイの後方から次々と繰り出されてきた。
皆が一斉に、その方向に目を向けると―――そこには背の低い、見るからに可愛らしい少女が立っていた。
だが、その姿は自衛軍の制服を着用しており、そうなると彼女は見た目とは裏腹に成人しており、しかも自分たちと同じ軍人という事になる。
それが信じられない一同は、今度はそれに対する驚きで、言葉を失ったが、ヤヨイはチラと後ろを振り返り、自分を睨みつけている、その存在を認めると、
「うるせーっすよ、このキンタマ!」
開口一番、あられもない暴言を浴びせかけたのだった。




