第8話:ストライクイーグル6
アカネの魂の叫びを受けて、リンは思う―――
そうだ、自分は電脳謀反から日本を救うために、あの日、迷わずアカネを利用すると決めた。それが非情と言われようが、己の信念に迷いなどなかった。
そして今はわかる―――自身を巻き込んだ恩師、タカハネ=サツキも、同じ気持ちだったに違いない。それでも彼女も世界を救う信念のもとに、迷わず非情の決断をしたのだ。
ならば、アカネの言う通りだ―――何を迷う事があろう、と。
「言ってくれるじゃないっすか。ファントムのJK」
大見得を切ったアカネを揺さぶる様に、ヤヨイはあえて挑発的な態度で、アカネを睨みつける。だがそれに対して、
「アタシの名前は―――ヒビキ=アカネよ!」
と、アカネは真正面から、ヤヨイを睨み返した。
こういう感じは嫌いではない―――だが、もう一度ひっぱたいてもやりたい。ヤヨイの心中は複雑な思いに、さざ波立った。
「このストライクイーグルで……あの黒い機体を倒せというのが、タカハネ博士の意思か?」
そこに突然、飛び込んできたリンの声―――そこには、先程までの憔悴など微塵も感じさせない、いつもの凛とした姿があった。
アカネが、己の非情の決断を許してくれるのなら、また自分もサツキを許そう―――その表れか、リンはサツキへの呼び名を、それまでの『タカハネ=サツキ』から、かつての恩師としての『タカハネ博士』に改めている。
フフ……覚醒したっすね―――立ち直ったリンの姿を見て、ヤヨイはそう思う。
なぜ自分は、あんな言わなくてもよかった挑発を―――まるで、サツキとリンを引き離す様で、結びつける様な駆け引きを仕掛けたのだろう。
ヤヨイにも自分の心が分からない。ただ、自分を『共犯者』と言ってくれた、サツキへの思いが関係しているのだろうという事は推測がついた。だがそれ以上、深く考える事をヤヨイはやめた。
そして、不敵な笑みを崩さずヤヨイは、
「だから、それを考えるのは、あなたっすよ―――クスノキ大佐」
と、リンの問いに対して、当初と同じ答えを繰り返した。
だが先程は分からなかったが、今のリンには理解できた―――その通りだ。タカハネ博士は、己の力で未来を考え、切り開けと言っているんだ―――そのためのストライクイーグルだと。
「分かった……タカハネ博士に伝えてほしい。ストライクイーグル、確かに受け取ったと。私は……私たちは、私たちのアンサーを必ず見つけてみせると」
アンサー―――それは、サツキが未来へ向けたキーワードだった。それを受けて、リンが、アカネが、各々が皆、自分自身へのアンサーを抱いて、未来に向けて戦っていたのだ。
「承知したっすよ」
リンの決意に、ヤヨイもあてられたのか、わずかに上気した顔でそう答えた。
「さっき、タカハネ博士が、ストライクイーグルはイレギュラーだと言っていた意味って……本当は、私たちをここまで巻き込むつもりはなかった、って事だったのかしら?」
話が一段落したところで、ミユウはアカネの殴打騒動のせいで聞きそびれたままになっていた、サツキの発言について、あらためて問い直した。
「その真意までは言ってなかったっすけど……おそらく、そうっす。たぶん当初の予定では、タイガーシャークが……あっ、これアンタらが『黒い機体』って言ってるやつの名前っすよ……で、タイガーシャークが出てきた時点で、国連軍を日本に投入して、ジ・エンドの予定だったんでしょうけど……」
そこまで言うとヤヨイは、サツキの姿を思い浮かべる様に、空に目を向けると、
「たぶん、アンタたちに最後まで任せてみたくなったんでしょうね……世界の未来を。自分は公正な審判とか言っておきながら、変なとこでブレるっすよね……あの人は」
と、呆れた様に、ほくそ笑んでみせた。その表情は、サツキに対する親愛の情が、ほのかに見え隠れしているかの様であった。
託された未来―――各々の胸に、新たなる決意が去来する。
「で、誰が乗るんすか?あのストライクイーグルに―――」
そしてヤヨイは、今や希望の光の様にそびえる、暗緑色の人馬戦車に、誰が乗るのかを問うた―――ここからは、多分にヤヨイの興味も含まれていると言っても過言ではなかった。
だが問われてリンは思った。確かに、誰がこれを操り、あの黒い機体―――タイガーシャークに挑むのか、考えなくてはならない。
機体はKF-15イーグルの発展型。そして胴体側面に、双発のジェットエンジンを備えた、禁断の人馬戦車―――誰が乗ろうと、まさに未知の機体であった。
しかも並列複座。おそらく操縦と機体管制を分けなければならない程、その運用には高度な技術が要求されるのだろう。
複座機ならば選択肢は三つ―――
まずは当代のエースと呼ばれるカノンが操縦、その管制にリンという、トムキャットのコンビ。
二つ目は、リン自身が操縦にまわり、その管制にかつての相方であるミユウを据えるという案。リンもこの案で―――決着をサツキの愛弟子である、自身とミユウでつけるという考えに傾きかけた。
だが、リンは思い直す―――サツキが自分に未来を賭けた様に、己が未来にかけた希望はなんだったかと。
そして次の瞬間、自然と口が開き、言葉を放っていた。
「アカネ、アオイ、頼めるか!?」




