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人馬戦車は少女と踊る  作者: ワナリ


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第8話:ストライクイーグル5

「まったく、あーしはお前の上官っすよ。口の聞き方に気を付けるっすよ」


 突然の出来事に、皆が目を丸くして言葉を失う中、ヤヨイは淡々と殴打の理由を説明した。


 相当痛かったのか、アカネはまだ頭を押さえて、うずくまったまま動けない。


「まったく、部下の教育がなってないっすねー」


 そう言いながらヤヨイは、チラリとリンに目を向けた。


 リンはまだ、告げられたサツキの真意を受け止めきれず、肩を落とした様に押し黙っていたが、ヤヨイの行動にはさすがに驚き、違った意味で呆然としてしまっていた。


ったいわねー!いきなり、なにすんのよ!」


 ここでアカネがようやく、はたかれた衝撃から復活して、ヤヨイに抗議するべく、すかさず食ってかかっていった。


「まだ、分かんねーみたいっすね」


 そう言いながら、ヤヨイがさらなる一撃をアカネに加えようと、腕を振りかぶった瞬間、


「待て、キサラギ少佐!部下の非礼は詫びさせてもらう。だが、彼女は非常事態権限で、私が無理に軍属にした民間人だ。それに免じて許してもらえないだろうか?」


 リンは、アカネをかばうべく颯爽と進み出てくると、ヤヨイに向かって頭を下げた。


「フン、まあ大佐がそこまで言うんなら、いいっすよ」


 そこまでされたら、ヤヨイも引き下がらざるを得ない。だが、怒りが収まらないアカネと、それをなだめるリンを交互に見比べると、


「似た者同士っすね……ほんと」


 と、ヤヨイは意味深な発言をした。


「似た者同士……?」


 リンをはじめ、その言葉に皆、キョトンとした。その真意がまったく掴めない―――少なくとも、今そこにいるリンとアカネが似ているとは、誰も思えなかったからだ。


 その様子を見て、ヤヨイはニヤリと笑うと、


「いやなに……クスノキ大佐とタカハネ補佐官の事っすよ」


 と、その発言の真意を、特にリンの方に向かって説明した。


「タカハネ補佐官は世界の未来のために、電脳謀反という大乱を企て、その駒に自分の愛弟子を非情の決意で―――でも、迷わずに引き込んだ……」


 動揺するリンから目をそらすと、ヤヨイは誰に向けるでもなく、雄弁な独り語りを始めた。


「最初にそれを知った時は、鬼畜だと思ったっすよ……一人の人間の人生を、狂わせたんすからね……」


 リンの苦悶の表情が深くなる。ヤヨイの指摘は、まさにリンがサツキに抱いた憎しみの感情を、まるで見透かした様に言い当てていたのだったからである。


「しかし、その愛弟子も―――巻き込まれた苦境を乗り越えるために、なんの関係もない民間人を、戦場に引きずり込んだんすからね……因果は巡るってやつっすかね?」


 そう言いながら、ヤヨイはアカネに目を向けた。


 その瞬間、リンは崩れ落ちそうな衝撃を受けた―――気付いていなかったが、ヤヨイの言う通りだった。受けた仕打ちに、己は怨嗟を募らせながら、その裏で自分も同じ事を他人に強いていた―――自身はサツキに地獄に落とし込まれたが、今、自分も民間人であった、アカネとアオイを地獄に落とそうとしているのだと。


 私にタカハネ=サツキを憎む資格はない―――


 それを痛感して、放心状態になったリンの肩を、ミユウが抱いた。真実とはいえ、あまりにむごい有様であった。


 さらに重い空気が、あたりを包み込む中、


「なに言ってんのよ!」


 それを突き破ったのは、アカネの叫びだった。


「アカネ……!?」


 皆が一斉に、その姿に注目する。


「勝手な事、言ってんじゃないわよ!確かにアタシは、あの時リンに無理矢理、ここに連れてこられた―――そして、ファントムに乗せられた!」


 あの日、ミライミナト学園で、アオイのいたずら心から練習用ファントムに乗った事で、舞踊科の高校生だったアカネの生活は一変した―――


 電脳謀反の序幕として、市街制圧に出たファルコンに襲われ、それを討伐に来たリンに、その操縦センスを見込まれ、非常事態権限で有無を言わさず、アオイとともに任官させられ、戦場に送り込まれた―――そして、今日まで戦いの日々であった。


 リンもそれを思い出し、今、己をタカハネ=サツキと重ね合わせ、自責の念にかられている。


 そんなリンに目を向けながら、「でもね……」とアカネは前置きした上で、ヤヨイに向き直ると、


「アタシは今、自分で選んでここにいる!リンは、人が人として生きるために人工知能と戦うと言った!」


 それは、トムキャットを賭けた模擬戦の後、リンが駐屯地の皆に向けて放った決意の言葉だった。


「アタシはそれに、ついていくって決めたのよ!―――最初は無理矢理だったけど……今、アタシは自分の意志で、ここでみんなと戦っているのよ!」


 アカネの心にまさか、そこまでの深い決意があろうとは―――その叫びに、一同は魂を奪われた様に、放心状態となってしまった。


だが、ただ一人、アオイだけはその隣で、大演説を終えたパートナーを称える様に、笑顔でその横顔を見つめていた―――ここまで一緒に進んできたアオイの気持ちも、アカネとまったく同じだったからである。


そして畳みかける様に、アカネは最後の叫びを放つ。


「だからリン、迷うんじゃないわよ!アンタだって、タカハネ=サツキに巻き込まれたけど、決めたんでしょ!?アタシと同じなんでしょ!?―――自分の意志で戦うって!」




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