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人馬戦車は少女と踊る  作者: ワナリ


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第8話:ストライクイーグル4

「なるほど……そのための三日だったのね」


 ヤヨイの説明でミユウには、サツキの『ミッカマテ』の意図が理解できた。


「タカハネ補佐官からの申し出に、緊急の極秘閣議を開いて、政府がストライクイーグルの譲渡を決定、輸送するまでの最低所要日数っすね」


 補足とばかりに、ヤヨイが簡潔に経緯を説明した。


「これを……私たちに、どうしろというのだ?」


 話に置いていかれた様になっていたリンが、ここでようやく口を開いた。だが、その口調はひどく動揺の色を帯びていた。


「自分は、これをここまで運べって言われただけっすよ……考えるのは大佐、あなたっすよ」


 まっすぐに、リンの瞳をのぞき込むヤヨイ。その視線に気圧される様にリンは、言葉が出てこない。


「……………」


「ねえ、キサラギ少佐。タカハネ博士は、なんて言っていたのかしら?―――共犯者のあなたなら、知ってると思うんだけど……教えてくれないかしら?」


 押し黙ってしまったリンに代わって、突破口を開くべく、サツキの真意を説明してくれる様、ミユウはヤヨイに乞うた。


 その『共犯者のあなたなら』というキーワードを入れたあたり、ヤヨイの心をくすぐる絶妙の言い回しであり、それが見事にツボにはまったらしく、ヤヨイはニヤリと不敵な笑みを見せると、


「タカハネ補佐官は……相当、アンタらに肩入れしてるっすよ―――こう言っちゃあ、なんすけど……味方っすね」


 と、開口一番、一同驚愕の発言をぶちかました。


 タカハネ=サツキが味方?―――彼女は、日本を制御するガーディアン『人工知能バクフ』を扇動して、国内のAI人馬戦車ケンタウロスをすべてハッキングさせた、この電脳謀反の黒幕である大罪人―――それが一同の認識であった。


 バクフのハッキング、及びアメリカの『人工知能フロンティア』の参戦を事前通告してきたりと、敵ながらその姿勢に不可解な点は多かったが、リンをはじめ、ミライミナト駐屯地を、この乱に作為的に巻き込んだ事実は明らかであり、その点でいえば、サツキは間違いなく『敵』であった。


 だが彼女が表明した、『人類と人工知能の人馬戦車ケンタウロスを巡る未来を、現代に具現化する』という目的は、当初、彼女の科学者として興味かと思われたが、乱が進むにつれ、国連規定違反のジェット兵器が露見するなど、その内容は想像以上に根が深いものであるという認識は、皆の胸に少しずつ刻まれていった事も事実であった。


 だとしても、サツキが『敵』ではなく『味方』であると―――それは容易に信用できるものではなかった。


「話してもらえるかしら?」


 当初から、サツキが敵ではない事を予測していたミユウは、話を進めてくれる様に、ヤヨイに依頼する。


 それを見守る一同の表情は硬く、リンに至っては苦悶さえ浮かべている様に見えた―――それはある意味、リンがもっとも聞きたくない話であったからである。


 ホーネット部隊殲滅の前、リンはミユウから、サツキの救世の志の可能性を指摘され、自身がそれを理解できずに、ただこの戦いに巻き込まれた事にのみ、怨嗟の感情を抱いていた事を悔いた。


 だがそれは、サツキ本人から聞いた訳ではなく、心のどこかでは、まだ自分の怨嗟の感情にも、正当性があるのではという可能性に、救いを感じていた事も事実であった。


 その真実が明らかになる―――


「いいんすか?」


 ヤヨイはそう言った―――それは、お隣の相方は知りたくないって顔してますよ、と言わんばかりの口ぶりであった。


 それに対してミユウは、いささかも動じる事なく、


「私たちには、知る権利が……そして、その義務があると思うの」


 そう言うと、横目でリンをしっかりと見つめた。それは、いいわね、と念押しする様な強い眼差しであった。


 リンからの返事はない。だが、それを受けてミユウは、視線をヤヨイに戻した。それだけでヤヨイはすべてを理解すると、「分かったっす」と小さく頷いた。


 ヤヨイが語ったサツキの真意―――


 人工知能バクフを電脳謀反に至らせたのは、国連規定違反のジェット兵器開発を、実戦という形で世界に晒すためだった事。


 その過程でサツキは、リンたちを思い、少なからぬ良心の呵責に苛まれていた事。


 それでも心を鬼にして、世界の兵器開発の促進を止めるため、非情の決意で事に挑んでいる事。


 ―――それらを、ヤヨイは自身の推察も交えた上で、と前置きしながら、そのすべてを語り尽くした。


 そして、その最後に新たなる事実を付け加えた。


「ああ、そういえばタカハネ補佐官は、こうも言ってたっすよ……」


 そう言いながら、ヤヨイはバレエのステップで、ストライクイーグルの付近をピョンピョンと跳ねまわる。それは重苦しくなった空気を払拭しようとする、彼女なりの気遣いだったのかもしれない。


「ストライクイーグルの投入は、イレギュラーだと……私は審判として反則を犯してしまった、ってね……」


 それに対して、ミユウが問おうとした瞬間―――やる気のない表情とは裏腹に、華麗なバレエのステップを見せたヤヨイに魅せられてしまったアカネが、一同の列から飛び出して、その目の前まで駆け寄ってしまった。


「んんー?なんすか?」


 突然、自分に迫ってきた少女を、怪訝な表情で見るヤヨイ。


「ねえアンタ、そのステップ、すごいじゃない!」


 この緊迫した重い空気を、ぶち壊しにする様に、アカネは食い入っていく。それにヤヨイが答えないでいると、


「ごめんなさい、キサラギ少佐。彼女は、ヒビキ=アカネ准尉。舞踊科の学生なので、あなたの踊りに関心を持ってしまったみたいね」


 と、ミユウがフォローの言葉を入れたが、


「ああ……お前が例のファントム使いのJKっすか……」


 そう言うなりヤヨイは、ランウェイに響き渡るほどの音量で、スパーンとアカネの頭をはたき落としたのだった。




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