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人馬戦車は少女と踊る  作者: ワナリ


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第8話:ストライクイーグル2

「じゃあ、ここにハンコいいっすか?」


 声の主に、いつの間にか傍らまで迫られていた事に気付き、リンは静かに驚く。


 運搬物に気を取られてたとはいえ、ここまでの接近を許すとは、只者ではない―――その思いを気取られぬ様に、努めて平静を装いながら、リンは視線をそちらに移した。


 見れば、自衛軍の制服に身を包んだ女性―――それは運搬物に随行してきた、やる気のない声を上げていた、さっきの士官の姿であった。


 だが、その見かけとは裏腹に、音も立てずに自身の懐まで近付いてきたその能力に、リンは内心困惑した。


 そして、まるでそれを見透かした様に、


「これが実戦なら、あーしのステルスでドカン……だったっすね……クスノキ大佐?」


 女性士官は、ニヤリと笑いながら呟いた。


 本当に油断のならない相手だ―――リンの当惑は最高潮に達したが、それは一切表に出さずに、反撃とばかりに「貴官は?」と、問い返した。女性士官は、駐屯地に入ってから、まだその姓名身分を一切、明かしていなかった。


「ああ……これは失礼しましたクスノキ大佐、いや司令……あーしは、自衛軍東部方面隊シチガヤ駐屯地、キサラギ=ヤヨイ少佐であります」


 頭を下げながら、下から見上げる様な不敵な態度で、ヤヨイは名乗りを上げた―――数奇な運命を経て、今、ヴァルキリー隊とヤヨイは邂逅を遂げたのだった。


 やはりシチガヤの人間か―――トレーラーのエンブレムからも、その予想はついていたが、あらためて政府からの使者が、しかも首都防衛の要であるシチガヤ駐屯地の士官が来訪してきた事実に、リンは警戒の念を深めるばかりであった。


「じゃあ、ここに荷物受け取りのハンコ、いいっすか?」


 ヤヨイは再び、宙に受領書を描き、ふざけてみせた。それに応じずに、リンは居住まいを正すと、


「キサラギ少佐、貴官は政府からの遣いと認識しても良いのだろうか?」


 これまで不干渉の名のもとに、ミライミナト駐屯地と『人工知能バクフ』との戦闘に、見て見ぬふりを決め込んできた、日本政府の対応の変化について探りを入れた。


「まあ、大枠ではそう考えてもらっても、間違いではないっすよ」


 はぐらかす様に、奥歯にものが挟まった様な言い方をするヤヨイ。


「では、この運搬物はなんだ?中身はおそらく、人馬戦車ケンタウロスだろう―――今さら、なぜ政府が我々に、それを送ってくる!?」


 ヤヨイの得体の知れなさに、少し苛立ち始めたリンの語気が、やや強くなる。探り合いは、熱くなった方が負けである。


「なぜって……そりゃ補給っすよ。同じ日本っすからね」


 ニヤけながら、ケロッとそう言ってのけるヤヨイ。政府のミライミナト駐屯地へ対する真意など教えはしない―――このあたりの駆け引きは、ヤヨイは百戦錬磨である。リンの敵う相手ではなかった。


 そこにミユウが、一歩踏み出してきた。


「初めまして、キサラギ少佐。ミライミナト駐屯地副司令、タチバナ=ミユウ中佐です」


「こりゃ、ご丁寧に……っすよ」


 まずは挨拶という切り込みに、それとなく応じたヤヨイだったが、天性の勘で感じるものがあった―――この女は油断ならない、と。


「初めまして……というのが不思議な気がするのよね。ミライミナトは『首都の前門』と呼ばれてるほど、中央には近い存在だし、同じく『首都防衛の要』と称されるシチガヤの……ましてや佐官である、少佐のあなたと初対面だなんて……」


 ミユウの言葉に、リンもハッとした―――確かに、ヤヨイに対する面識がない。シチガヤの佐官以上であれば、式典等含めて、なんらかの形で今まで接触があっても良さそうなものであった。


 政府からの使者という点にのみ、思考が固執してしまっていたリンの盲点を、ミユウは見事に補完した。


「ゼロのキサラギ……という事かしら?」


 そう言ったミユウの言葉に、半開きの目を、さらに半開きにしながら、ヤヨイは苦笑を浮かべた。


「ゼロのキサラギ……?なんだそれは?」


「噂なんだけどね……シチガヤ駐屯地には、政府の裏仕事を請け負う秘密部隊があると……それは存在を隠蔽され、部隊名も付けられなかったため、いつからかコードネームの様に『ゼロ部隊』と呼ばれる様になり、そのメンバーに凄腕の―――『ゼロのキサラギ』と呼ばれる人物がいると……まあ、自衛軍の七不思議みたいな話なんだけどね……」


 リンの問いに、ミユウはおどけながら、その由来について解説した。だがどこか、その表情は自信に満ちており、ヤヨイの反応を横目で待っていた―――駆け引きの第二ラウンドは、もう始まっているのである。


「なんかねー……自分が都市伝説みたいになってるっていうのは、知ってたんすけど……こう目の前で、それを聞くと……なんだかなーって感じっすねー」


 おどけた様な、照れた様な、その本心が見えない態度を示しながら、ヤヨイは自身の存在を認める様な発言をした―――だが、それも駆け引きの一端であり、表情を妖しい笑みに切り換えると、


「その通り……私がゼロのキサラギっすよ……でもね……この噂には、続きがあるんすよ……」


 と、まるで怪談話でも語るように、言葉を重ねていく。


「ゼロのキサラギ……その正体を知った者は……」


 ここで一旦言葉を切り、ランウェイ中央まで運ばれてきた運搬物を指差しながら、


「必ず葬られると!」


 勢いよくヤヨイが言い放つと、それを覆い隠していたシートが、一斉に取り払われた。


 そこにあったのは、機関砲をリンたちの方向に向けている人馬戦車ケンタウロス―――暗緑色の迷彩が施された、またもや見た事のない機体であった。




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