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第1話:人馬戦車7

 そのアカネが駆るファントムの戦況は―――


 シミュレーションの模擬戦同様、不規則な動きを繰り返すファントムに、無人機であるファルコンのAIは対応し切れず、アカネはその背後を取る事に再び成功した。


 先程はここからのゼロ距離射撃で、見事に敵機を撃破したが、今のファントムには武装がない。狙いはファルコンを転倒させて、その動きを封じる事だ。


「アカネ!足のスカートよ!」


「転びなさいよ!」


 敵機の背後に付いた瞬間、アカネはファントムをタンクモードに変形させると、その低くなった機体で、地上からわずかに浮遊しているファルコンの脚部ホバー部に、体当たりを加えた。


 ホバーの弱点は、スカート部に破損が生じると、エアクッションの高さが安定しなくなる。小型ホバー、かつ二足ホバーの人馬戦車ケンタウロスでは、その影響は大きく、ヒューマンモードでは最悪、転倒する。


 逃げては背後を取り、体当たり―――この方法を繰り返し敢行していくうちに、目に見えて四機のファルコンの挙動が鈍くなってきた。そして、ホバー部にもっとも深刻な損傷を受けた一機が、遂に転倒したのだった。


「やったわ、アカネ!」


「この調子で全部、黙らせてやるわ!」


 意気揚々とアカネはファントムをヒューマンモードに変形させると、旋回運動を繰り返しながら、残り三機の間を縦横無尽に舞い駆け抜けた。


 そして次の標的と定めたファルコンまで、あとわずかの距離まで接近した瞬間―――そのファルコンが、銃弾を全身に受けながら踊る様に砕け散った。


「い、いったいなんなの!」


「アカネ、まずは距離を取ろう!その間に私が状況を掴むから」


 動揺するアカネに指示を与え、自身は素早く索敵にかかろうとしたアオイだったが、レーダーをのぞき込む時間も与えられないまま、二機目、三機目と、敵機のファルコンが同じ様に銃弾を浴びて、完全撃破の状態で地に崩れ落ちてしまった。


 不明機の素早い射撃に内心動揺しながらも、迅速にキーボードを叩き続けたアオイが、


「見つけた!」


 と叫ぶと、銃撃を加えた機体がサブモニターに映し出される―――その人馬戦車ケンタウロスはファルコンよりもひと回り大きく、胴体部には金色と赤の、気高さを連想させる様なペイントが施されていた。


「なんなの、また見た事ないのが来たわよ」


「あれはKF-14トムキャット……それにあのペイント……まさか!?」


 アオイが何かを感じ取った人馬戦車ケンタウロス、KF-14トムキャットはホバー移動を始めると、アカネたちのファントムにゆっくりと近付いてくる。


 その道すがら、アカネが地面に転ばせたファルコンが二足歩行で、じたばたと立ち上がろうとするのに向かって、


「こぉんのクズが!クズが!クズが!」


 トムキャットの操縦士、マキナ=カノンは罵りの叫びを上げながら、機体が原形をなくす程に、機関砲を弾倉が空になるまで撃ち続けた。


「しょせん『バクフ』の制御能力なんて、こんなものですわ、リン様。ファントムごとき相手になんて無様な!」


「……………」


 ファルコンを粉砕して悦に入るカノンの分析に、後席のクスノキ=リンは厳しい眼差しのまま沈黙を守る。


 ファントムのコクピット内にも緊張が走り、


「今度のやつは、相当ヤバそうね」


 そう言うなり、アカネはアクセルを踏み込み、トムキャットに向かって突進を開始した。


「だめ、アカネ!あれは違うの!」


 そう叫んだアオイだったが、闘争本能に火の付いたアカネの耳には、もうその言葉は届かない。


 定石通り、ファントムをドリフトさせながら、トムキャットとの距離を詰める―――そしてヒューマンモードのまま標的の直前で急ブレーキをかけ、スピンターンを決めると、その背後に回り込んだ。


(―――獲った!)


 アカネがそう思った瞬間―――コクピットにとてつもない衝撃が加わった。


「クソが!AIと同じ手が通じると思ったか!」


 カノンの気合一閃、トムキャットは左右の脚部ホバーを巧みに用いた急旋回行動を取り、その勢いそのままに背後に回ったファントムに裏拳を食らわせたのだ。


 そして、その衝撃にファントムは体勢を維持できず、今度はアカネたちが地に倒れる番となった。


「アオイ、大丈夫!?」


 右旋回で裏拳を胴体に食らったため、並列複座の右シートのアオイへの影響をアカネは心配した。どうやら頭部も吹っ飛ばされたらしく、モニター系もすべて消え、暗いコクピットでアオイの様子が見えない事にもアカネは苛立った。


「大丈夫だよアカネ。第三世代機のいいところは頑丈なとこだからね」


 アオイの無事に安堵半分、こんな時まで人馬戦車ケンタウロスの知識を披露するマニアぶりに呆れる気持ち半分のアカネが、


「アンタねえ……」


 と、いつもの様に苦言を口にした瞬間―――横倒しに倒れたファントムのコクピットに、さらなる衝撃が加わってきた。


 今度の衝撃は地響きの様に断続的で、その回を重ねるごとに、ファントムのキャノピーがひしゃげ、遂にアカネとアオイの姿が機外に露出してしまった。


 アカネの視界に、無骨な機械の足が目に入る―――どうやらトムキャットはホバーを解除して、その脚部で巧みにファントムを足蹴にしながら、キャノピーを潰したらしかった。


 人馬戦車ケンタウロスとはいえ、自身を足蹴にされた屈辱にアカネはその身を怒りに震わせた。


 そして見上げるトムキャットのキャノピーが開いた―――そこで初めて、アカネは相手が有人機だった事に気付いた。しかも乗っているのは女二人。


 前席の女は、ヘラヘラと笑いながら、明らかにこちらを見下した態度を取っており、後席の女は無表情だが、威厳に満ちた、刺す様に真っすぐな視線を送ってくる。


 どちらにしても気に食わない―――アカネが噛み付かんばかりの叫びを上げようとした瞬間、


「クスノキ大佐ですよね!?」


 その耳に飛び込んできたのは、アオイの素っ頓狂な声だった。


「はああーっ!?」


 言葉の意味が理解できないアカネは、疑問の声を上げながら、横倒しのコクピットの、自身の下に位置するアオイを振り返ると、


「お会いできて光栄です!」


 顔半分まで眼鏡をずり落とした滑稽な容姿を、満面の笑みで輝かせながら、そう言うではないか。


「はああーっ!?」


 もはやアカネに言えるのは、それだけだった。




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