第8話:ストライクイーグル1
「ああ、別にぶっ壊れてもいいから、さっさと降ろしていいっすよ」
自衛軍東部方面隊ミライミナト駐屯地のランウェイで、大型トレーラーから、仰々しいシートにくるまれた大型荷物が降ろされていた。
輸送班のスタッフがそれを慎重に降ろす姿を見ながら、随伴してきた軍服の女が、責任感のない言葉を投げかけている。
そして駐屯地司令であるリンが現場に姿を見せると、軍服の女は面倒くさそうに、その方向に歩き出した。
すでに副司令であるミユウをはじめ、ヴァルキリー隊の面々も全員がその場に集まっていた。皆、目の前に運ばれてきた得体の知れない物体に、目を丸くしている。
リンはまず、駐屯地に入ってきたトレーラーに目を向けた―――それはリンたちと同じ、東部方面隊所属の車両。エンブレムはシチガヤ駐屯地。
「これがタカハネ博士が、三日待てと言った理由?」
隣に並んだリンに、ミユウが問いかける。
「今日がその三日目だ。おそらくそうだろうな」
そう言いながら、リンは一昨日を思い返す―――それは、ヴァルキリー隊がタイガーシャークから、決死の逃避行を成功させた日だった。
あの日、半壊となったN型ファントムを回収し終え、全員が無事に駐屯地へ帰還すると、リンもトムキャットから降りて、深い息を吐きながら胸をなでおろした。そこに通信担当の隊員が、人目をはばかる様に近付くと、極秘の暗号打電がもたらされているという報告を、耳打ちでもたらしてきたのだ。
「わかった、司令室で聞こう」
リンは周囲に気付かれない様に、目をそらしながら、それに小声で応じた。
数分後、ハンガーから離れたリンが操縦服のまま、駐屯地の司令室に入り、通信員を招き入れた。その傍らにはミユウも控えていた。
「内容は?」
さっそく本題に入るリンに、
「ハッ!暗号打電がきたのは約三十分前、内容は―――ミッカマテ―――です」
「それだけか?送信元は判明しているのか?」
あまりのシンプルな内容に、おおよその検討はついたが、リンは念のためと、その送り主を問うた。
「ミッカマテ、の五文字だけです。送信元は不明ですが、自衛軍の暗号方式を用いていますので、その筋かと」
「分かった、下がっていいぞ。あと、この情報に関しては、関係した者に箝口令を敷いてくれ。未確認情報で、皆にいらぬ動揺を与えたくない。くれぐれも頼む」
「了解しました!」
そう言いながら敬礼を残し、通信員が退出した。
「やはり、タカハネ=サツキだと思うか?」
二人きりになると、リンは核心をミユウに問いかけた。
「でしょうね……三十分前というと、ちょうど私たちが黒い機体から逃げ切った頃……できすぎてるわね」
そう答えたミユウは、苦笑いを浮かべる。
「また、あの人か……今度は何を考えているのか」
ミユウとは対照的に、リンは厳しい表情で考え込む―――自身をこの電脳謀反に巻き込んだサツキに対しての、疑念がまだ拭えないのだ。
「リンが、タカハネ博士を警戒する気持ちは分かるわ……個人的感情を抜きにしても、それは司令として当然だと思うわ」
まずは親友の心を慮りながら、話を進めるミユウ―――そして話を本題に移すために、言葉を重ねた。
「でも、おそらくあの人は、私たちを陥れる様な情報はもたらさないと思うの……あくまで推測よ」
「三日……明後日まで、動かずに待ってみろというのか……?」
サツキの言葉に従う事を、リンは躊躇した。だが、その表情は当初の様な険しさは消えていた―――それは、リンも心のどこかでは、サツキを信じようとしている証であった。
「どのみち、今日明日で動きが取れる訳でもないでしょう?あの黒い機体に対しての、対策も練らなければならないし……」
ミユウの言い分は正論であった。その追跡から逃れたとはいえ、リンたちはタイガーシャークを退けた訳ではない―――その黒い機体は、ミライミナト海上に陣を張っていたホーネット部隊に代わり、今またリンたちの首都強襲を阻まんと、湾岸部に居座っている―――人工知能フロンティアの脅威は、まだ消えてはいないのだ。
「そうだな……あれを撃破しない限り、首都への道は開けんな……」
「それにね……これも希望的な推測なんだけど、タカハネ博士が三日待てと言うのも、それに関係してる気がするの」
「あの黒い機体を打倒するため……というのか?」
リンの言葉に、ミユウは黙って頷いた。
そしてリンは少し考えると、
「よし、タカハネ……サツキの提案に乗ってみよう」
と決断した。タカハネと言った後に間が空いたのは、おそらく『タカハネ博士』と言いそうになったのを、思いとどまったからだろう。そんなリンの心の変化を、好ましく思うミユウだったが、あえてそれに気付かぬフリで、
「私たちも、それまでにやれる事をやりましょう。黒い機体の分析、損傷した機体の再整備、日本とアメリカの動向探索―――やる事は、山の様にあるわよ」
と、目の前の問題を整理しながら、その着手を促した。
それから三日―――今、リンの目の前に、おそらくタカハネ=サツキが関与しているであろう、何かが運び込まれている。
直感だが、シートの中身は間違いなく人馬戦車―――それを確信するリンの鼓動は、高鳴りを増すばかりであった。




