表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
人馬戦車は少女と踊る  作者: ワナリ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

76/127

第7話:秘匿機7

「こりゃ詰みっすかね……ヴァルキリーの奴ら、動けないままっすね」


 人工知能バクフの制御室で、ホーネット殲滅から、ここまでの戦況を見続けているヤヨイは、ヴァルキリー隊の圧倒的不利に厳しい眼差しを向ける、隣のサツキに語りかけた。


 だがサツキはそれに答えず無言を貫く。どちらかといえば、言葉を発する事ができないといった方が、適切かもしれなかった。


「ホバーとのハイブリッドとはいえ、あのジェットの速度は現行機の二倍は出てるっすね……駐屯地まで約一キロ……いったい何機が無事に逃げ切れるんすかね……」


 構わずにヤヨイは自身の感想を、一人語りの様に呟く。その指摘は、サツキの心中の危惧とまったく同じだった。


「さあて、あのタイガー……シャークっすか?あいつの始末をどうつけるかも、考えなきゃならないっすね」


 自衛軍の隠密部隊、シチガヤ駐屯地ゼロ部隊に所属する、『日本政府の掃除屋』でもあるヤヨイは、事後の対応に心を巡らせる―――この後始末を命じられる公算が高まってきたからである。


「国連にはもうバレたとして……一応、言い訳するためにも、とりあえず奴は破壊しとかなきゃならないし……あっ、国連動かすの少し待ってもらえないっすかね?」


 国連と通じて秘匿機の告発を策した、その当の本人であるサツキに向かって、ヤヨイはぬけぬけと手心を加えてくれと要望をした。


 それにもサツキは答えない。当然であった。ヤヨイもそんな戯れ言が通じるとは、もちろん思っていない。


「国連軍が来るとして……やっぱり生で目撃されちゃうのと、消した後だと、ごまかし方も変わるんすよね……ここは、もう一度アメリカに出てもらうか……」


 その瞬間、サツキはピクリと反応した。そして沈黙を破り、言葉を放った。


「アメリカって……米軍にまたミサイルを使わせるつもり?」


「……?そうっすよ。あれを倒すのは、現行機にはキツイっすよ。ジェット兵器には、ジェット兵器っすよ」


「あなたも、やはりそう思うのね……」


 そう言ったサツキの表情には、明らかな不快感が滲んでいた。


「米軍だって、元々そのつもりだったっすよ。ホーネットを駆逐したら、反転してミサイルを補給した後、出てきたタイガーシャークもミサイルで撃破する作戦だったはずっす……まあ、まさかのホーネットに全滅を食らったので、ご破算だったっすけどね……」


「アメリカは、それでいいわ!」


「―――!?」


 ヤヨイは、語気を強めたサツキに困惑した。


「当事者国であるアメリカが、計画通りミサイルの運用を考えるのは、当然の事よ……でもね、巻き込まれた側が、それに対してミサイルの使用を発想するという事―――大きな力に、それと同じ力で……場合によっては、さらなる大きな力で、それに抗おうと考える事が問題なのよ!」


「……………」


 突然の剣幕に、ヤヨイには返す言葉がない。だがサツキは我に返ると、「ごめんなさい……キサラギ少佐」と、取り乱した事を謝罪しつつ、今度は穏やかな口調で語り始めた。


「ジェット兵器には、ジェット兵器で……ミサイルには、ミサイルで……その連鎖が世界に広がれば、どうなるかしら?ガーディアンの演算で、航空力を放棄した人類が手に入れた平和なんて、まだたった五十年……ほんの僅かなキッカケで、また世界に長距離兵器開発の波が広がるわ……」


「タカハネ補佐官……アンタ……」


 サツキの真意に触れ、ヤヨイは息を呑んだ。


「人類はガーディアンを、制御できていると誤解している。人工知能を甘く見てはいけないわ。それはバクフとフロンティアを見ても、十分に分かったでしょう……人類は人工知能がノーを言うとは思ってないのよ……幸せな生き物よね……」


「……………」


「人類は人工知能と手を取り合って、ここまで来たのよ。なのに人類は人馬戦車ケンタウロスにおいて、第三世代機、第四世代機と、その主導権を我が物にしようと目論んだわ……アメリカがトムキャットを単独開発した事で、その連鎖でロシアもKF-29ファルクラム、その支援機KF-27フランカーを単独開発、その運用も間近よ……それを掴んだアメリカはジェット兵器―――ミサイルとタイガーシャークの極秘開発を始めたのよ」


「隣の芝が青く見えるのは、人間のさがっすからね……いずれ、天のお裁きが―――人工知能の怒りが、人類を襲う……それがアンタの予測した未来。この電脳謀反は、アンタが作り上げた、そのリハーサル……なんもかんも一網打尽とはいえ、随分な荒療治をしてくれたもんっすねー」


 日本政府でさえ知り得ない、電脳謀反の核心を知ったヤヨイであったが、まずは面倒くさいという心理が先に立った。それを表す様に、本気で苦虫を噛み潰した様な顔になってしまっている。


 それを見た、サツキは思わず吹き出してしまった。


「ウフフ……本当に正直な人ね。とても政府の汚れ仕事を担ってる人間とは思えないわ。だから、あなたは信用ができる……ともにバベルの塔にいかずちが落ちない様に、手を組みましょう」


「うわっ、もしかして仲間扱いっすか!?自分、恩給狙いっすよ……まいったっすね……」


 不敵な笑みを向けるサツキに、慌てた態度を見せながらも、ヤヨイの心中にも様々な計算が、瞬時に働いた。抜け目ない二人の、虚々実々の駆け引きである。そして、さっそくヤヨイは仕掛けてみた。


「タカハネ補佐官……アンタ、国連だけじゃなくて―――ロシアとも裏で、つるんでるんじゃないっすか?」


 あくまでも直感であった。だが一連の会話の中から、それを推測したヤヨイの慧眼は、まぎれもない一流のものであった。


 だが聞こえてきたのは、その問いの答えではなく、


「動いたわ!」


 という、ヴァルキリー隊の再起動を告げる、サツキの叫びだった。


 すぐさまヤヨイも、モニターに目を移す。そこには一機のファルコンが、湾岸部を疾走する姿が映っていた。


 そして、それを追うタイガーシャーク。それが百メートルも進んだかと思われた瞬間―――


 動きが取れずに海上で沈黙していた、ヴァルキリー隊の有人機五機が、次々と湾岸部に上陸―――トムキャットを先頭に縦一列に並ぶと、駐屯地を目指して、そのまま縦隊での逃走を開始したのだった。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ