第7話:秘匿機3
同時に、海上にあるシオンのイーグルのコクピットでは、けたたましいアラート音が鳴り響く。
「えっ、えっ、えっ?」
「どうしたシオン?」
狼狽の声を上げるシオンに、リンが問いかける。
「わ、私の支援機が……ファルコン二機が撃破されました!」
「―――!どういう事だ!?」
突然の事にリンをはじめ皆、状況が理解できない。だが全機、機体を反転させて湾岸部に向き直ると、確かに十二機いるはずのAI支援機が十機になっている。
シオンの言葉通りなら、欠けた二機はシオンの支援機の様だ。
「戻りましょう!みんな支援機の制御を再開して!」
ミユウの声に、ヴァルキリー隊は湾岸部へ帰還しながら、海上戦に集中するため停止させていた、AI支援機を再起動させた。
湾岸部でヒューマンモードのまま仁王立ちしていた、十機の支援機のモノアイに光がともる。ミユウ、チトセ、シオンのKF-16ファルコンと、アカネとアオイのKF-5タイガーである。リンとカノンのトムキャットは、ホーネット部隊との戦闘で、支援機全機を爆破に使用したため、その数はゼロである。
「ホーネットは、全機撃破したはずなのに……」
「という事は、新手がいるという事なのですよ」
不安を訴えるシオンに、チトセが状況を分析する。
「ですが、姿が見えませんわ……レーダーにも反応がありませんし……いったい、どうやってファルコンを倒したのか……」
新手の可能性が高いものの、その存在を確認できない事に、カノンは疑問を呈する―――だが、その答えはすぐに出た。
ヴァルキリー隊の目に映る、漆黒の疾風。
それが、またたく間に彼女たちの視界を横切ると―――また二機のファルコンが、今度は弾け飛ぶ様に、胴体から真っ二つになりながら宙を舞った。
あまりの衝撃に、誰も声を発する事ができない。だが確かに、自分たちに敵対行動を取る存在がいる事を確認すると、
「各自、支援機を散開させろ!敵の足は速い!次の攻撃に備えて、狙いを絞らせない様に、逃げ回るんだ!」
リンは真っ先に気を取り直し、現状における最善の手段を素早く指示した。
動揺しながらも、一騎当千のヴァルキリー隊である。リンの指示に素早く応じると、各支援機が湾岸部に散開して、応戦の体勢に入った。
だが敵機は駆け去ってしまったため、まだその全容が掴めない事で、残された八機の支援機を操るミユウ、チトセ、シオン、そしてアオイの緊張は高まるばかりであった。
「やられたのは誰のファルコンだ?」
「私のファルコンなのですよ。敵はステルスパーツを付けているのか、警戒アラートは鳴らなかったのですよ」
リンの確認にも、状況分析を添える事をチトセは忘れない。それを受けて、リンは考える―――ステルスパーツを搭載しているのなら、遠距離からの高速走行を封じ、有視界戦闘に持ち込まなければ、こちらが圧倒的に不利だ。
「なんとかして、相手の動きを止めるんだ!我らは、このまま海上から弾幕射撃をかけるぞ!」
状況が掴めないため、ヴァルキリー隊の有人機五機は、上陸を中止して、湾岸部近隣の海上に、いまだとどまっている。そこから支援機を狙う敵機に、側面射撃を加える事をリンは決断した。
キュイーンという甲高い、ターボファンエンジンの音が聞こえてくる。さっきの襲撃時も同じ音がしていた。
「来るぞ!」
リンの叫びと同時に、漆黒の疾風が迫ってきた。
先程、駆け去っていった方向からの反転のため、今度はある程度の襲来予測がついた。そのため、ようやくその機体を視認する事ができた。
それは黒い人馬戦車。形態はタンクモード。なにやら機体の両側から、鎌の様な突起物が伸びている。
「は、速すぎてロックが、かかりません!」
そのあまりの走行スピードに、機関砲のロックオンさえできない事に、シオンが狼狽の声を上げる。
「目測でかまわん!撃て、撃てーっ!」
シオン同様、全機、機関砲のロックはかからないが、リンの号令一下、海上の五機は敵機に向けて機関砲の一斉掃射を開始した。
精度の甘い射撃のために、当然それは当たらないが、少なくとも敵機のトップスピードを落とす事には成功した。
だが、それでも走行ライン上にいる、一機ずつ残されたチトセとシオンのファルコンが、再び疾風の餌食となった。
だがそれによって、さらにスピードが落ちた敵機に向かって、
「止まりなさい!」
いまだ三機ともが健在のミユウのファルコンが、その進路を塞ぐ様な絶妙の連続射撃を加えた事で、激しい進路変更の末、ようやくそれは動きを停止させた。
そして、これまでの人馬戦車の概念を覆す様な、その異形を目の当たりにして、リンは息を呑んだ。
「なんだ、この機体は……」
漆黒の秘匿機、KF-20タイガーシャークが、今ここにヴァルキリー隊と対峙したのであった。




